(ブルームバーグ): 世界の金融界のリーダーがワシントンに集結した。表向きの目的は、債務、インフレ、金利といった専門的な事項について話し合うことだ。しかし、当局者らの頭の中にあるのはドナルド・トランプ氏だった。
前大統領のホワイトハウス復帰の可能性が、今週開催の国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会で最大級の関心事になっている。公開セミナーやパネルディスカッション、あるいはステーキハウスでの非公開ディナーでも、2週間後に迫った投票に関する議論が繰り広げられた。
「誰もが米大統領選の話題で持ち切りで、固唾(かたず)を飲んで結果を待っている」と、マレーシアの第2財務相アミール・ハムザ・アジザン氏はインタビューで語った。
カマラ・ハリス副大統領はおおむね継続性を代表しているが、トランプ氏は中国に対して60%、その他に対して最大20%の関税を課すことで、1期目よりもさらに大きな脅威を世界貿易にもたらしかねない。
あるIMF高官の言葉を借りれば、両氏の政策は「高い不確実性」をもたらすほどの大きな隔たりがある。
ワシントンを本拠とする大西洋評議会のジオエコノミクスセンターのディレクター、ジョシュ・リプスキー氏は「市場は不確実性を嫌う。今回の会議での最大の不確実性は、米国の次期大統領が誰になるのかだ。誰もが関心を持っている」と語った。
会議の傍らでは、選挙の行方の予想に熱中する参加者のためのイベントが数多く開催された。
ゴールドマン・サックス・グループは、人気世論調査アナリストのネイト・シルバー氏を基調講演に迎えた顧客向けディナーを開催した。国際金融協会(IIF)のディナーには、トランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏も出席した。JPモルガン・チェースの投資家向けセミナーでは、「トランプ氏の勝利は不可避か?」というセッションが行われ、オバマ政権の副首席補佐官だったジム・メッシーナ氏やトランプ氏のアドバイザーのスコット・ベッセント氏も登壇した。
金融界の外交官たちは、どちらかの候補者を支持しているように聞こえないよう、総じて慎重な姿勢を見せていた。そして、ほとんどの人がトランプ氏に言及することさえ避けようとしていた。
パキスタンのムハンマド・アウラングゼーブ財務相は、政策がどうなろうとも米国が主要な貿易パートナーであり続けることを自国は保証すると述べた。
トランプ氏はこれまで、欧米主導の多国間機関に懐疑的な見方を示してきたが、世界銀行のバンガ総裁は、当選した場合もトランプ氏は、リソースを活用する世界銀行の能力に価値があることを認めるだろうと楽観的な見方を示した。
バイデン大統領に指名されたバンガ氏は、「選挙結果を待ち」、それから「大統領職への敬意を持って関与しよう」と語った。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、選挙で勝利した候補者は貿易相手国に対して慎重な対応を取るべきだと論じた。
「制限や障壁のある時代は、世界中で繁栄や強力なリーダーシップが生まれる時代ではなかった」とし、次期米大統領は誰であっても「少なくともそのことを念頭に置くべきだ」と述べた。
23日の夜、街の反対側にあるモートンズ・ステーキハウスでは、中国に焦点を当てたアドバイザリー企業、ガベカル・リサーチがトランプ氏が勝利した場合の貿易政策と関税を巡るディスカッションを開催した。スピーカーと聴衆の間に漂うムードは、トランプ氏が現在、首位を走っているというものだった。