自民党の石破新総裁は、今回の総裁選挙で争った小泉進次郎氏を党の選挙対策委員長に起用する意向を固めました。
小泉氏は、衆議院神奈川11区選出の当選5回で、43歳。
無派閥で活動しています。
2009年の衆議院選挙で、父親の小泉純一郎・元総理大臣のあとを継いで立候補し、28歳の若さで初当選しました。
復興政務官や党の厚生労働部会長などを務めたあと、2019年に安倍内閣で戦後3番目の若さとなる38歳で環境大臣として初入閣し、菅内閣でも再任されました。
今回、初めて総裁選挙に立候補し、決選投票には進めませんでしたが、議員票では最も多い75票を獲得して1回目の投票では全体の3位につけ、存在感を示しました。
小泉氏は27日の総裁選挙のあと、記者団に対し「石破新総裁は、議員や党員の支持によって選ばれたので、自分ができることをしっかりと実行し、支えていきたい」と述べていました。
石破新総裁としては、党内で一定の支持を集めた小泉氏を起用することで党内融和を図るとともに、高い知名度や発信力をいかし、政権運営に弾みをつける狙いもあるものとみられます。
自民党の石破茂総裁(67)は28日、党ナンバー2の幹事長に森山裕総務会長(79)を起用する方向で調整に入った。官房長官には、岸田政権の林芳正官房長官(63)を続投させる方針。党副総裁には菅義偉前首相(75)をあてる調整を進めており、菅氏本人の意向を踏まえて最終判断する。
【写真】石破総裁が誕生した逆転劇の要因 「結局、岸田だ」高市陣営は恨み節
森山氏は衆院鹿児島4区選出の当選7回(参院1回)。農林水産相のほか、党国会対策委員長、選挙対策委員長などを歴任、昨年9月から総務会長を務める。「党人派」として与野党に太いパイプを築き、石破氏は高い調整力に期待する。
岸田内閣で要である外相と官房長官を務めた林氏は、今回の自民党総裁選にも立候補。石破氏、高市早苗経済安全保障相(63)、小泉進次郎元環境相(43)に続く4位だった。幅広い分野の政策に通じ、高い答弁能力を誇る。石破氏とは若手時代からともに外交・安全保障の勉強会を開くなど、近い関係だ。
石破氏は、小泉氏を選対委員長で起用する方針も固めている。
自民党総裁選で逆転勝利した石破茂氏。ようやく念願がかなっただけに喜びもひとしおだろうが、そう浸ってもいられない。次の政権運営に向けた人事にとりかからなければならないが、悩みどころは今回の総裁選に出馬した候補者の処遇だ。長年、政治取材をしてきた政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「高市早苗氏と茂木敏充氏をどうするかが難しい」と話す。逆転勝利となった総裁選の裏側と、注目の人事について聞いた。
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■党内に広がった「決選投票は石破」の声
――まずは総裁選を振り返って。石破氏は国民人気がある一方で、「議員人気が低い」と言われ続けてきました。しかし、今回は決選投票で大逆転しました
党員党友票の見立てとして、高市さんが想像以上に高かったことには驚きましたが、実は、決選投票では石破氏が勝つのは事前の取材で明白でした。今週に入ってから「決選投票では石破さんに入れる」と話す議員は多かったんです。派閥まんべんなく20人くらいに取材をしたんですが、9割くらいが「石破」と言ってたんですね。参院議員は、1年後に選挙を控えているというのが大きな要因になっていましたが、衆院では、立憲民主党の代表に野田佳彦氏がなった、というのが影響していました。安倍派の若手議員は、「高市さんが総裁になったら保守票の半分くらいが立憲にいく可能性がある」と危惧していました。野田氏との論戦になったときにどうなるのか、と。高市氏は右派の中でも先鋭的です。野田氏は、穏健な保守、いわゆる中道右派です。この2人が議論になったら、同じ保守なら穏健保守の野田氏にしよう、という動きが出てきてもおかしくないわけです。保守票は、無党派層(中間保守票)にも広がりがあるわけですから、それを取り込まれるとまずい。そう考えると石破さんだな、となるわけです。
岸田派は決選投票になったらまるっと石破氏に流れていました。麻生派は54人いるといっても、前ほどの結束力はないです。河野太郎氏の推薦人になった18人くらいの麻生派はいますが、それでも彼らは小泉進次郎氏にいっているし、決選投票になったら石破氏ということになりました。麻生氏が動いたところで20票くらい。菅義偉氏に近い加藤勝信氏の推薦人の中からも石破氏にいっています。林芳正氏も岸田派なので石破氏に。従来の、派閥のトップが「白」と言ったら黒いカラスも白くなるような票の動き方はしなくなったわけですよ。議員が個々で動くような、いつもとは違う力学が思った以上に働いた。そういう総選挙になったのだと思いますよ。
■党内から出る、「小泉氏を幹事長に」の声
――今後の注目は人事ですが、どのように見ていますか
まあ土曜、日曜に石破さんがニヤニヤしながら考えると思いますよ(笑)。論功行賞で一つのポイントとなるのは、バッと乗ってくれたであろう岸田派に対してですよね。林氏、上川陽子氏をしっかり入れることになれば、その現れだと思います。二つ目のポイントは、「小石河連合」です。小泉氏、河野氏を閣僚にするのか、党三役にするのか。僕が取材している限りでは、8月に石破氏は菅氏と会っているんです。菅氏は、「もし進次郎が出るなら、申し訳ないけど進次郎を応援する。神奈川県連として、進次郎を応援します』という“建前”をつけてきたらしいです。これは、わざわざ大儀をつけて「石破氏は切るよ」じゃなくて、「また一緒にやろう」という信号なんだと石破氏は受け取りました。今回は岸田文雄首相が総裁選不出馬を表明したことで、小石河の3人はそれぞれで戦いましたが、結束は保っていたんです。おそらく、河野、小泉両氏のところからも半分以上は石破氏に票がいってると思います。そうすると、例えば小泉氏を選挙対策委員長にするとか。党内からは幹事長に推す声もあります。河野氏は先鋭化するところがありますが、総務会長などが適任じゃないでしょうか。
忘れていけないのは、加藤氏です。菅政権時代の官房長官ですから、いわば菅氏の右腕。菅氏が加藤氏のことを非常に高く評価しており、肝いりですから、ここは入ってくるのではないでしょうか。官房長官人事でいうと、斎藤健氏を推す声が党内からは多いです。石破派を離脱していますが、石破氏は斎藤氏のことを買っています。難しいのは高市氏と茂木氏でしょうね。茂木氏は次を狙っていると思いますので、石破氏としてはあまり入れたくないだろうけど、敵に回すのもあまり得策ではないです。高市氏は、石破氏とは政策が正反対です。石破氏が受け入れたら懐が深いと思いますが…なかなか難しいのではないでしょうか。
■石破氏にかかる「これまでの総裁よりも大きい重圧」
――鈴木さんが石破氏に期待することはどんなことでしょうか
石破氏の立場が変わります。これまで自民党を批判してきたが故に国民人気を獲得してきました。しかし、今度は自分が総裁になりましたから、批判してきた分、自分がしっかりと改革をしなければなりません。むしろ、期待が大きい分、これまでの総裁よりもかかる重圧は重いと思います。ここで重要なのは、経済政策です。「岸田路線を継承する」というようなことを少し前にわざわざ言っているんですね。いやらしい言い方だけど、「握ったのかな」とも思いました。つまり、「岸田さんの経済政策を継承します。だから(票を)お願いします」みたいな話がもしあったとすれば、どうなのかと思います。
また、岸田氏の経済政策の検証も済んでいません。賃上げは物価上昇に追いついていないし、投資政策も迷走しています。「これで良かったのか」という検証をしてほしい。安倍晋三元首相の時代に戻さず、今の時代、状況にあった経済政策を、“石破さんらしい”ものを出してほしい。(岸田政権の経済政策を)継承していったら財務省の手のひらに乗っかるといったことも出てくるので、ここはしっかりやってほしいと思いますね。
(聞き手:AERAdot.編集部 小山歩)
鈴木哲夫(すずき・てつお)1958年生まれ。テレビ局記者などを経て、2013年からフリージャーナリスト。政治、災害、事件、福祉など、多岐にわたるテーマを取材。近著に、『期限切れのおにぎり―日本危機管理の真実』『石破茂の頭の中』など。