「タリバン見極める」「事業継続に全力を」ペシャワール会・村上会長
政権が崩壊し、情勢が流動的なアフガニスタン。人道支援を行う福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」も用水路建設を中断するなど慎重な対応を余儀なくされている。現地の状況と事業の見通しについて26日、村上優会長(71)に聞いた。 (中原興平)
支援する現地のNGO「PMS」(平和医療団)の拠点がある東部ナンガルハル州のジャララバード周辺では日常が戻りつつある。略奪を恐れて閉鎖されていたバザール(市場)は21日までに、街道の両脇にずらりと復活した。両替所は25日に開き、今も閉まっているのは銀行くらいだ。
政変のたびに繰り返された戦闘や混乱は確認されていない。「発砲音が聞こえた」という情報が16日にあり、徹夜で現地と連絡を取り合った日本側にも緊張が走ったが、祝砲だった。
混乱を防ぐためか、結婚式などで撃つ習慣があるほど身近な祝砲をタリバンは禁じているという。1発の空砲が戦闘と誤解されるほど、平穏だとも言える。
旧タリバン政権時代も農村部では治安が改善して安全だったと、故中村哲医師は述べている。「誰が政権を担う場合でもアフガン人自身の政権であることが重要だ」とも話していた。
現地スタッフたちは慎重にタリバンの本質を見定めようとしている。女性の権利を尊重すると述べたときは喜びながらも「実際の行動を見てジャッジ(判断)したい」と報告があった。
幸いなのは現時点で、内戦が起きていないこと。現地では今、深刻な干ばつが起きており、人々は戦争どころではないからだ。
用水路建設を始めたのは2000年の大干ばつがきっかけ。18年には当時を超える規模の干ばつが起きた。現在も、用水路で水が行き渡る地域の外では井戸が枯れつつあるなど、18年と同等以上の干ばつが広がっているとみられる。
こうした危機はタリバンも知っているはず。15日から中断している用水路建設と農業について、少なくとも州政府レベルでは再開を望んでいるとみられる。州政府の正式な体制は公になっておらず、状況を見極めたい。
中村医師が1980年代後半に医療活動を始めて以降も、内戦や外国軍の侵攻、いくつもの政権の樹立と崩壊があった。事業はこの間も一貫して続けてきた。「水が善人・悪人を区別しないように、誰とでも協力し、世界がどうなろうと、他所に逃れようのない人々が人間らしく生きられるよう、ここで力を尽くします」。中村医師の言葉通り、継続に全力を尽くしたい。