◆国政の停滞は避けねばならない◆
自民、公明の与党が衆院選で惨敗し、過半数を割り込んだ。
今後、一部の野党の協力を得て、引き続き自公が政権を担い続けられるのか。あるいは、立憲民主党を中心とした野党勢力が政権交代を起こせるのか。政局は一気に流動化する情勢となった。
また、「自公で過半数」を勝敗ラインに設定していた石破首相の進退も焦点となる。
政局の流動化は確実
第50回衆院選が開票された。
自公は、2012年の政権復帰以降、経験したことのない逆風にさらされた。大幅な議席減は、政治とカネの問題に象徴される、長期政権の 驕(おご) りや緩みに対する国民の不信感を反映した結果と言えるのではないか。
与野党の勢力が伯仲することで、予算案や法案を巡る攻防が激化して政策遂行が遅れる事態が懸念される。実際、07~08年の福田内閣当時は、野党が国会運営を主導し、国政が停滞した。
今後、政権の枠組みを巡って与野党が駆け引きを繰り広げ、混乱が長引く可能性もある。山積する内外の難題に適切に対応できるのか。与野党ともに大きな責任を負うことになった。
今回の衆院選は異例ずくめだった。石破政権が内閣発足直後の「ご祝儀相場」を当て込み、戦後最短での衆院解散に踏み切った。
だが、自民党は、政治資金問題を抱えた前議員らの処遇を巡り、原則として全員を公認する方針が批判されると、非公認を次々と増やし、定見のなさを露呈した。
選挙戦の終盤には、非公認となった候補が代表を務める党支部に対し、党本部が公認候補向けと同額の2000万円を支給していたことも発覚し、混乱を広げた。執行部の失態と言うほかない。
自民が苦戦した背景には、「岩盤」と呼ばれた保守層の支持が離れたこともあるのではないか。
岸田前首相が昨年、性的少数者(LGBT)理解増進法の成立に急に 舵(かじ) を切ったことや、総裁選での選択的夫婦別姓の議論に反発する支持者は多かった。
こうした政策に反対してきた参政党や、政治団体・日本保守党が一定の支持を集めたのは、自民に不満を持つ保守層を引きつけることに成功したからだろう。既成政党に対する不信感が、新興勢力を勢いづけている側面もある。
現実的な主張が奏功か
先月、15年ぶりに党首が交代した公明も厳しい選挙戦となった。小選挙区選に初めて挑戦した石井新代表が落選したのは、支持母体の創価学会員の高齢化が影響しているとされる。
一方、立民の伸長は、自民の「金権体質」を争点化する手法が奏功したことが一因だ。
また、野田代表は、仮に政権交代が実現したとしても、現在の安全保障政策を 概(おおむ) ね継承する考えを示したほか、原子力発電を含むエネルギー政策について、党の綱領で定めた「原発ゼロ」にこだわらない方針を強調した。
こうした現実的な主張が有権者に安心感を与えたようだ。
国民民主党も躍進した。玉木代表が「手取りを増やす」と主張して、「生活重視」の姿勢をとったことが、特に若い世代の支持拡大につながったのだろう。
日本維新の会が伸び悩んだのは、大阪・関西万博の会場建設費が想定以上に膨らんだことや、推薦した前兵庫県知事のパワハラ疑惑が影響したとみられる。
他方、選挙戦で政策論争が深まらなかったのは残念だ。
課題を蔑ろにするな
物価高を上回る賃上げをどうやって定着させていくかは喫緊の課題である。社会保障制度を持続可能な仕組みとしていくにはどうすればよいか。急速に進む人口減少への対策も待ったなしだ。
ウクライナ戦争や中東の紛争が長期化し、国際情勢は激変している。先進7か国(G7)の一角を占める日本は外交力を発揮し、国際社会の安定に貢献すべきだ。
日本周辺の安全保障環境はかつてないほど悪化している。防衛力の強化はもとより、日米同盟を深化させるとともに、友好国を増やしていく必要がある。
野党の選挙戦術もあって、政治とカネの問題が焦点となったのはやむを得ないとしても、国政の課題を 蔑(ないがし) ろにするような事態は避けなければならない。
小泉選対委員長が辞意=首相、政権立て直し急ぐ【24衆院選
時事通信
石破茂首相(自民党総裁)は、衆院選から一夜明けた28日午前、党本部で臨時役員会に出席した。公明党と合わせた与党で過半数に届かなかった結果を受けて対応を協議。政権の立て直しを急ぐ方針を確認した。小泉進次郎選対委員長が辞任の意向を固めたが、首相は慰留している。首相は同日午後、総裁として記者会見に臨む。
首相は政権維持に向け、野党側に協力を呼び掛ける方針を示している。国民民主党などが念頭にあるとみられる。
与党で過半数維持の目標を下回り、自民内では執行部の責任を問う声が上がっている。ただ、首相は退陣を否定。森山裕幹事長も続投する意向を表明している。
林芳正官房長官は28日午前の記者会見で「首相を支えていきたい」と強調。落選した牧原秀樹法相ら閣僚2人に関し「引き続き責務を果たしてもらいたい」と語った。両氏から辞任の申し出もないと説明した。
石破首相、続投の意向 自民党が「心底から反省し生まれ変わる」必要強調
BBC 2024/10/28
自民党が過半数を失った27日の衆議院選挙から一夜明けて、自民党総裁の石破茂首相は28日に党本部で記者会見を開き、「厳しい結果」は国民の「叱責」と受け止めていると述べ、自民党が「心底から反省」する必要を強調した。そのうえで、「職責を果たしてまいりたい」と述べ、続投する意向を表明した。連立与党が過半数を割った状態での政権運営については、公明党以外との連立を「いまこの時点で想定しているわけではない」と話した。
衆院選の結果、自民党と公明党の与党は計215議席にとどまり、過半数(233議席)を割り込んだ。自民単独でも191議席で、公示前の247議席から大きく減らした。
これについて石破首相は記者会見で、「国民の皆様方から、極めて厳しいご審判を頂戴をいたしました。痛恨の極みであります。これを真摯に厳粛に受け止め、わが自民党は心底から反省し生まれ変わっていかなければなりません」、「今回の厳しい結果は、自由民主党の改革姿勢に対する国民の皆様方の厳しいご叱責と受け止めております」と述べた。
選挙結果を大きく左右したとされている党内の政治とカネの問題については、「身内の論理や党内の理屈だと、国民の皆様から思われていることを今後は一切排除し、私自身も原点に返り、厳しい党内改革を進め、なかんずく政治とカネにつきましては、さらに抜本的な改革を行ってまいります」と述べた。
具体的な内容としては、「政策活動費の廃止、調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開、残金返納、改正政治資金規正法に基づく第三者機関の早期の設置といった政治改革について、党派を超えた議論を行い、速やかにその実現を図っていく必要がある」と話した。
今後の政権運営については、「今この時点で(他党との)連立は想定しているわけではない」と答えたうえで、「それぞれの党の主張に対して寄せられた、国民の共感や理解を謙虚に受け止め、取り入れるべきは取り入れることに躊躇(ちゅうちょ)があってはならない」とした。
「まずは、よく協議をすることから始めなければならない」とも述べ、「党派は違っても一緒にやっていく姿勢が国民にご理解をいただけるよう、一番多くの議席をちょうだいした責務を、我が党として果たしていく」と話した。
「国政の停滞を避け 政治改革や経済改革などの課題に取り組み」、「日本創成を実現していく所存」だとも強調した。
他方、公示前の98議席から今回148議席へと大きく増やした最大野党・立憲民主党の野田佳彦党首はこの結果を受けて、野党第一党の党首として首班指名を目指し、ほかの野党に協力を呼び掛けていく姿勢を示している。
(英語記事 Japan's ruling party loses its majority in blow to new PM)