<政治とカネ考>元自民党職員 政治アナリスト 伊藤惇夫さん
―派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を契機に、1989年に自民党が決定した「政治改革大綱」の意義が見直されている。当時の状況は。
◆抵抗勢力と改革派との間で4カ月にわたって大激論
「自民党職員だった私は、後藤田正晴元官房長官から指示を受け、政治改革委員会のスタッフとして大綱の策定に関わった。政治不信に対する党幹部の危機感は高く、若手議員も『政権から転落しても改革をやるんだ』との気迫に満ちていた。まずは事実を洗い出そうと、複数の大物議員からヒアリングをしたほか、非公開のものも含めると70回以上は議論した。『自由な政治活動ができなくなる』と反発する抵抗勢力と改革派との間で4カ月にわたって大激論を交わした結果、政治資金の収支の透明性を『ガラス張りの努力』で高めることなどを明記した大綱が党議決定された」
政治改革大綱 有力政治家らに未公開株が賄賂として譲渡されたリクルート事件への反省と信頼回復への決意を示すため、自民党が1989年5月に決定した改革の基本方針。政治資金の公開性を徹底することによる「ガラス張りの政治」の実現をうたったほか、「派閥の弊害除去と解消への決意」として、総裁、幹事長ら党幹部や閣僚が在任中は派閥を離脱することが盛り込まれた。
「大綱が踏みにじられたからこそ、今回の事件が起きた。政治家のカネの流れは、ガラス張りどころか鉄の扉の向こう側だ。岸田文雄首相(党総裁)は最近まで、大綱が否定している派閥会長と総裁の兼務を続け、大綱が自粛を求めたはずの大規模な政治資金パーティーの開催も重ねてきた。『政治刷新』を掲げる前に、大綱の精神を踏みにじったことを謝罪すべきだ」
◆スピード違反の常習犯を交通指導員にするようなもの
―派閥が存続したことの弊害は。
「中選挙区制廃止や政党交付金の導入で、公認権やカネは派閥から党に移った。派閥は自然消滅するとみられていたが、人事で優遇されるとの期待感を背景に延命した。結果、唯一残された資金源である政治資金パーティーが大規模化し、裏金の温床になった」
―どう改革すべきか。
「自民の政治刷新本部に改革を委ねるのは、スピード違反の常習犯を交通指導員にするようなもの。政治資金規正法の改正を議員立法でやれば、国会で多数を占める自民が主導権を握ってしまう。首相は、第三者機関に改革案をつくってもらい、全面的に反映した改正法案を国会に提出すべきだ。大綱の精神に立ち返れば、派閥のパーティーの禁止や企業・団体献金の禁止が必要だ」
―政治はカネがかかるとの「常識」は変わるか。
「現行法では合法とされる支出の中にも、地方議員への陣中見舞いなど、市民の感覚で考えればおかしなものが多々ある。有力者をつなぎ留めるための会食やカネ配りは、あしき慣習だ。こうした行為を全面的に禁止すれば、政治にそんなにカネはかからない。政治家にとっても悪い話ではないはずだ」(聞き手・大野暢子)
伊藤惇夫(いとう・あつお) 1948年、神奈川県生まれ。学習院大卒。73年から94年まで自民党に勤務。退職後は羽田孜、小沢一郎両氏らが同年に結成した新進党に移り、98年に野党4党が合流して誕生した民主党などで事務局長を務めた。現在は政治アナリスト。