小池百合子都知事の知事選不出馬? 3選出馬宣言ためらいの背景
都知事3選楽勝ムードだった小池百合子都知事。しかし、年が明けると、推薦候補が次々と落選し、立憲民主の蓮舫参院議員の都知事選への出馬表明と逆風に見舞われている。都議会初日の5月29日に出馬表明すると見られいたが、それも見送られるなかで「小池知事都知事選不出馬」の情報が流れた。その背景と小池都政8年間を検証。
山下努 2024/06/05
- 都内の52区市町村の首長がひれ伏して出馬要請とその背景
- 年明けから吹き始めた逆風と推薦校が次々落選、市民団体からの辞めろコール
- 小池都政8年間の東京再開発は歴史と自然破壊の連続
駆け巡る「小池知事、3選不出馬」の未確認情報
半年前には「当確」ともいわれ、3選を目指す小池百合子東京都知事(71)への批判の風圧が高まってきた。このため近く出馬断念を決めるという観測が出はじめている。
自民・公明は事実上の小池支援を決めており、自民党都連は水面下で右往左往し始めた。小池知事の3選不出馬が現実になれば、与党からの首都東京の知事候補なしという可能性もあり、これは前代未聞。自民党にとってこれまでのような不戦敗などということでは済まされまい。
これまで小池知事は6月の都議会初日の5月29日に出馬を表明するとみられていたが、これを見送った。小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」と公明党の都議団も5月28日、小池知事に立候補を要請し、吉住健一新宿区長、長友貴樹調布市長ら都内の52もの区市町村長が連名の出馬要請文を小池氏に手渡してだけに驚く関係者も少なくない。
東京都は独自の税収だけで運営できる不交付団体だけに、傘下の市町村への影響力は、分野によっては国より強い場合がある。とくに23区(特別区)の固定資産税など徴収は都がやっており、都から23区への補助金や予算等の配分は、都のサジ加減(政策判断)で決まる部分がある。財政力が見劣りする多くの23区にとっては、お金(予算)がほしければ、都知事には反抗的になれない事情がある。
23区の区長や多摩エリアの首長周辺によると、一部の首長から署名の要請動きがあり、自治体の首長間で広く声をかけて共同でお願いすることになったという。
しかし、一部の報道によれば、この署名も「小池知事からの依頼があった」ともいわれ、断るにも断れない区長や市長もいたという。
いずれにしても、都内の62の区市町村(23区、26市、5町8村)のほとんどの有力なトップが小池知事にひれ伏したことに違いはない。
蓮舫参議院議員の都知事選出馬、逆風が一気に強まる
そんななかで5月27日に立憲民主党蓮舫参議院議員(56)が「自民の延命に手を貸す小池都政をリセット」と都知事選挙への出馬を表明。これまで安泰という小池知事にさらに強い逆風が吹いた。といっても、この蓮舫議員も都知事選に出馬して落選しても、遠くない総選挙で衆院に鞍替え立候補するともいわれており、その前哨戦などともうがった見方もある。
とはいえ、今年に入ってから小池知事への逆風が吹き始め、その風力もますます強くなっているようだ。しかも、都知事選挙では30人前後とみられる立候補予定者の中では、「あのねのね」の清水国明氏のほか元自衛隊幹部らの名の知られた人もおり、安閑とはしていらない。
23年までは豊島区や江東区の区長選などで知事系の「都民ファースト」系が勝ってきた。
ところが、今年に入ると、目黒区で推薦候補が敗退。6月2日投開票の港区長選は神宮外苑開発に反対する女性前港区議に、現職の自民党系候補が6選を阻まれた。これは予想外の敗北だった。これに先立つ4月の衆院の東京15区の補欠選挙も小池知事が応援した乙武洋匡氏が予想外の5位という大惨敗を喫し、明らかに風向きは変わったといえる状況だ。
実際、6月1日、小池知事の地盤である豊島区の中心地の池袋周辺で「サヨナラ小池都知事」の反対運動が開かれ、黄色や青のポスターを掲げた市民らが集まった。黄色のポスターには「嘘? カイロ大学歴詐欺疑惑」「議会で答弁拒否! 会見メディア規制! 質問させない、答えない」「7つの目標達成ゼロ!」「樹陰伐採と環境破壊 住民無視の再開発」と書いてある。赤のポスターには他に「税金ムダ遣い 都庁プロジェクションマッピング」ともある。
市民団体を味方に付けた小池知事が強かったときには考えられない、組織的な大量のポスターの「動員」はこれまでお目にかかれなかった光景である。
「緑のおばさん」から「緑のタヌキ」に
そんな東京でいま問題になっているのは、都有地や公有地を利用した再開発事業や過去に決まった都道(都市計画決定済みの道路)の建設や防災のための街づくりだ。
半世紀前ぐらいに都市計画決定され、計画当時と道路需要など実情が大きく違っていても、コツコツと用地買収を進めてきた経緯から、社会情勢が変化や住民の反発が大きくても建設が止められない事例もある。
その1つが商店街を突き抜ける道路(板橋区の大山地区)の反対運動で「反小池知事」の大きなうねりになってきている。大山対策なのか、都庁の建設局内に『機動取得推進課』が4月に新設。この部署を「道路用地等の地上げを専門部隊」と書いた媒体もあったほどだ。
こうした各地の再開発事業と同時に東京都が許認可権を握る再開発事業には、摩天楼のような大きなビルが建つと緑や森林、芝生がどんどん少なくなり、地球温暖化とは逆行しているといわれ、灼熱地獄の東京に拍車をかけかねない巨大再開発が進む
小池知事はこれまでも巨大デベロッパーの誘いで「打ち水をして涼しい東京にしましょう」というイベントに出てきていたが、さすがに最近はやらなくなった。また、ひと頃は、「緑のおばさん」といわれていたことをそう悪くは思わなかったらしい。
というのも、緑は地球を守る象徴であり、支援する都民ファーストのカラーでもある。しかし、大手デベロッパーと組んで再開発を推進するところから、地球を救うというスローガンに疑問が呈され、「緑のタヌキ」と陰口されるようになり、最近では緑の服をなかなか着なくなったという噂もある。
小池知事の最大の功績は、世界平和の象徴である東京オリンピックをコロナ禍のなか乗り切ったことだろう。1964年の東京オリンピックから、これに合わせて57年ぶりの東京大刷新も行われ、建設・不動産業界などは、東京五輪を理由とした東京の巨大再開発によって潤ったはずだ。
とはいっても、そもそも小池都知事は、開発行政の隅々まで目を光らせているタイプではない。政策の方向を示し、あとは東京都の官僚のシナリオに乗るタイプ。そのため現在俎上に上がっている再開発や建設事業はまさにこうした特徴が表れている。したがって、東京都の土地整備局や建設局などの役人にとって、ここ数年の小池知事は非常に組みやすい上司のようだ。
歴史と自然破壊が進む東京再開発の共通点
実際、小池都政の2期8年を振り返ると、次々と再開開発計画が進められてきた。
築地市場の豊洲移転の延期を旗印に都知事選の初出馬し、移転は延期したものの小池知事のもとで、中央区の築地市場は、既定路線通り江東区の豊洲市場に移転された。
その築地市場跡地の再開発計画には、当初、小池都知事がいっていた「食のテーマパーク」は影もかたちもなくなり、野球場にも使える大型アリーナや摩天楼ビル、さらには空飛ぶクルマの発着所がつくられる予定だ。
神宮外苑では、新宿区と港区にまたがる明治神宮も大型再開発が進む。歴史ある秩父宮ラグビー場と、もうすぐ100年を迎える神宮球場も壊されて、それぞれ場所を交換し、新築される。新しいラグビー場は人工芝の上に天井がつくが、観客席は半分以下に減らされる。ラグビー関係者の一部は、「人工芝の上で本気でラグビーをすれば熱でケガをするので、ラグビーごっこしかできないのではないか」と真剣に怒っている。
また、移転が決まった神宮球場にしても、耐震補強を済ませていたにもかかわらず、ホテルなどオシャレな施設を併設するため建替えられる。こうした一連の開発によって、樹木の伐採や強制的な移植が行われるというわけだ。
約150年の歴史を誇り、数々の歴史上のイベントの会場となってきた日比谷公園も改造が進み、すでに日比谷公園内の歴史ある建造物や備品は撤去され始めている。最終的には芝生広場など、どこにでもある公園となり、格好の商業イベント場になるだろう。
これら小池知事の都政下で進められている一連の大型再開発を見ていくと、特定の大手デベロッパーが中心的な役割を担い、本来であればこうした再開発を冷静に見つめ、その動向をチェックすべき立場にあるマスコミが参入しているため、目立った批判が起きていない。
具体的には、神宮外苑の再開発では、日本テレビなどの企業が事業に参加し、建て替え費を出す一方、ほぼ40年間も利用する。
築地再開発でも読売新聞グループが再開発事業者の1つとして名前を連ね、朝日新聞社も協力企業として加わっている。
また、小池都政の東京再開発では、歴史的な建造物の破壊と自然破壊という共通点もある。
150年の歴史を誇る日比谷公園、約100年の歴史を持つ神宮外苑は、イコモスが環境アセスメントからやり直しを求められた。
さらに江戸川区の葛西臨海公園の再開発では、海岸沿いの森が伐採され、水族園が建て替えられる。
葛西臨海公園は、人工の海浜だが、ラムサール条約に加盟する貴重な干潟である。そこには「ラムサール条約湿地 葛西海浜公園 平成30年10月 東京都知事 小池百合子」と記された大きな石碑が建っていて、自筆なのだろうか小池百合子知事の名が刻まれている。
もちろん、再開発が好きな都民もいるが、一方で、歴史的なものはそのまま残し、公園は静かな場所がよいと思う都民もいる。
再開発が都知事選の大きなテーマにならないという見方もあり、選挙争点は子育て支援や高校の授業料の原則無償化など、小池知事が出馬すれば現職を強みに実績をアピールするだろう。これらの政策は多くの誰も反対する理由はなく、こぞって好意的である。
吹き始めた逆風によって、こうした小池知事の3選必勝のシナリオが揺らぐのか、それでも盤石か。「まさか」の自ら退路を選ぶのか。都知事選の公示日は6月20日。小池知事は、出馬、不出馬を決めるのか、それを決める残り時間は極めて少ない。