社説:皇位継承儀式 熟考のない「前例踏襲」
代替わりの儀式が、果たして今の時代にふさわしいものになるだろうか。
天皇陛下の退位と皇太子さまの即位に伴う各儀式の位置づけや日程について、政府が基本方針を決定した。
憲政史上初となる退位の儀式は、現憲法に基づく国事行為と位置づける。新天皇の「即位礼正殿の儀」や秋篠宮さまの「立皇嗣の礼」も国事行為とする。過密だった前回の日程を見直し、即位の礼を早めて余裕をもたせる。
妥当な判断だろう。だが基本方針が、昭和から平成への代替わりを「現行憲法下で十分な検討が行われた上で挙行された」「今回もそれを踏襲すべきだ」と結論づけたことには首をかしげる。
菅義偉官房長官を委員長とする政府の準備委は、1月からわずか3回の会合で基本方針をまとめた。公表されている議事概要を見ても、時代の変化に合わせて個々の儀式の在り方をきちんと検証したようには受け取れない。
「大嘗祭(だいじょうさい)」は新天皇の最も重要な祭祀(さいし)だが、前回の代替わりでは憲法の政教分離原則の観点から、国費の支出や知事らの出席が論争の的となった。関連の訴訟で合憲判断が確定したとはいえ、祭場の造営を含めて120億円にも上った一連の即位儀式の在り方は問い直されるべきだろう。
政府は前回同様、大嘗祭を国事行為でなく皇室行事と位置づけた上で、国費を支出する見通しだ。30年前に比べ大幅に悪化した財政状況の下、安易な前例踏襲では国民の理解を得るのは難しい。
一方で基本方針は、同じく宗教色が強いとの指摘のある「剣璽(けんじ)等承継の儀」については国事行為とした。これも先例にならい、参列者は男性皇族のみで女性皇族は認めないという。こうした決定に、違和感を覚える人も多いのではないか。
今回は天皇の逝去による代替わりでない分、落ち着いて議論と準備を進められる機会だ。にもかかわらず事なかれ主義で結論を急いだ感が否めない。極めて残念である。
政府は今秋、安倍晋三首相を長とする委員会を設けて詳細な式次第などをまとめる。多様な立場や世代の意見に耳を傾け、主権者である国民の納得のいく儀式の在り方を模索する必要があろう。
国民の負担をできるだけ少なくしたいという、天皇陛下と皇太子さまの意向もある。皇室の伝統を継承しつつ、解釈や運用を柔軟に工夫する余地はあるはずだ。
[京都新聞 2018年03月31日掲載]