(21))こぶたのピグリン・ブランドのおはなし(1913年刊)
ビアトリクス・ポター さく・え まさきるりこ氏やく
(要約)
《むかし、わたしの農場にベティトーおばさんという名のぶたがいました。ベティトーおばさんには 8ひきのこぶたがいました。おんなの子の名まえはブツクサとチュクチュク、それからキュウキュウとブチでした。
おとこの子の名まえは、アレクサンダーにピグリン・ブランド、それからトントンとシリキレシッポでした。シリキレシッポは まえに じこで しっぽをなくしたのです》
《「あい あい あい 、この子たちの よくたべること。ほんとにまあ よくたべること!」》 目をほそめて ながめていると、おそろしい ひめいが きこえてきました。アレクサンダーが えさばこのわくに はさまって ぬけでられず、わたしは、ベティトーおばさんと いっしょに うしろあしを つかんで ひっぱっりだしてやりました。
《トントンも おはずかしいことを しでかしていました。 きょうは せんたく日だったのですが、石けんをたべて しまったのです。》 《こんどは しあがった せんたくもののかごから もう1ぴき きたないこぶたが 見つかりました。ほかのぶたは ピンクか ピンクにくろのぶちの ぶたなのに その子は まっくろです。あらってみたら これは キュウキュウでした。》
《わたしは やさいばたけへいきました。》 すると 《ブツクサとチュクチュクが にんじんを ほりおこしてたべているでは ありませんか。》 わたしは ひっぱたき 《耳をひっぱって はたけから ひっぱりだしました。ブツクサなんて わたしに かみつこうと したんですよ。》
《「ベテイトーおばさん。あなたは りっぱなかたです。でも、こぶたたちは しつけができていませんねえ」》
《「あい あい あい」ベティトーおばさんは ためいきを つきました。》
「それに ミルクも たくさん のむこと。これでは よそへ やらねば なりませんねえ。8ひきは なんといってもおおすぎます」
《そういうわけで シリキレシッポとキュウキュウとブツクサは ばしゃに のせられ、トントンとチュクチュクは、手おしぐるまで、つれていかれました。》
《のこった おとこの子たち、アレクサンダーとビリング・ブランドは 市へ やられることに なりました。
わたしと ベティトーおばさんは 2ひきのうわぎにブラシをかけ、しっぽをくるりとまきあげ、かおをあらってやりました。それから、うらにわまで みおくりに出ました。》
おばさんは 大きなハンカチで なみだをふきました。それから ピグリン・ブランドのはなをふいて なみだをながしました。《おばさんは はなをならして ためいきをつくと》 2ひきのこぶたに いいました。
《「ピグリンや かわいい ピグリンや、市へいって どこかの農場に やとっておもらい。アレクサンダーの手をつないでおやり。よそゆきのようふくを よごさないように、それから ちゃんと はなをかむように、いいね」
《「わなと とりごやに 気をつけるんだよ。ベーコンエッグにされるってこともあるからね。かならず うしろあしで立つんだよ」》
《ピグリンは しっかりもののこぶたでした。かあさんのかおを、とてもしんけんな目でみつめてましたが、なみだがツ-と ほおを つたいました。》
アレクサンダーには 《「にいちゃんの手を….」》と、いうと、《「ウイー ウィー ウィー!」と、アレクサンダーは わらいました。また 注意しても アレクサンダーは わらいました。おばさんは 《「おまえにはこまるねえ」》と いいました。「どうろひょうしきを よくみて、さかなのほねなんか ひろって 食べるんじゃないよ」
《「いっときますけどね」わたしは、だいじなことを おもいだして いいました。》 「州の堺をこえると もう もどってこれません。アレキサンダー、おまえ きいていないね。ほら、これが2まいの許可証。これで ランカシャーの市へ、入場できるんですよ。ちゃんと おきき。アレクサンダー!この 許可証は、けいさつから とても苦労をして 手にいれたんですよ」
ピグリンは しんけんに きいていましたが、アレクサンダーは ただ おちつきなく とびはねていました。
わたしは、なくさないように チョッキの うちポケットにピンで とめてやりました。
おばさんは 2ひきに 小さいつつみと おみくじのついたハッカアメを8こづつ もたせてやり、2ひきはしゅっぱつしました。
《 ピグリンとアレクサンダーは 1マイルばかり、せっせと 道をいそぎました。》 アレクサンダーは 道のはしから はしまで スキップをして とんであるいたので 2ばい あるきました。アレクサンダーは ピグリンをつねって うたいました。
《このぶた 市へいきました。
このぶた いえで おるすばん
このぶた にくを たべましたーー》
《ねえ にいちゃん、べんとうに なにがはいっているか 見てみようよ!》
ふたりは すわって つつみを あけました。《アレクサンダーは あっというまに おべbんとうを ぜんぶ のみこんでしまいました。ハッカアメも とうに たべました。「ねえ、にいちゃん。アメひとつ おくれ」》
「まさかのときに とっておかなきゃ」 ピグリンは かんがえぶかく いいました。アレクサンダーは 許可証がとめてあるピンをとって ピグリンを つつきました。ピグリンは 手をはらって おこったので ピンは どこかへいってしまいました。
《アレクサンンダーは こんどは ピグリンのピンをとろうとしました。とうとう2まいの許可証は ごちゃまぜになってしまいました。》けれども やがて 2ひきは なかなおりをして、手をつないで あるきました。2ひきは うたを うたいました。
《トム トム ふえふきのむすこ
ぶたを ぬすんで にげたとさ
トムにふけたは たったの1きょく
“おかをこえて はるかなくにへ”》
《「なんだと、ぶたをぬすんだと」 かどを まがったとたん おまわりさんが立っていて 許可証をみせろと いいました。
ピグリンは ちゃんと見せました。ところが アレクサンダーは なくしてしまいました。おまわりさんは アレクサンダーに ちょうど農場へいくところなので、つれてかえろうといいました。ピグリンには きみは ちゃんと許可証をもっているので いいんだよ、と いいました。《おまわりさんと ぎろんするのは あまりかしこい やりかたでは ありません。》
ピグリンは ひとりで いくのは いやでしたが アレクサンダーにハッカアメをひとつやり、《そして、おまわりさんと、おとうとが みえなくなるまで、じっと 見おくりました。》
アレクサンダーは おまわりさんに つれられて しょんぼりと かえってきました。わたしは きんじょの農園にアレクサンダーをやりました。《けっこう ちゃんと やっていましたよ。》
《いっぽう ピグリンは ひとり とぼとぼと あるいていきました。》 どうろひょうしきには 「川へ 5マイル」「おかを こえて4マイル」「ペティトー農場へ、3マイル」と、あり 《ビグリンは こころのそこから がっかりしました。》 きょうじゅうに 市へつくのは むりです。あしたが 市の日だというのに。《アレクサンダーが ふざけたせいで すっかり おそくなってしまいました。《ピグリンは おかのかなたへいく道を せつないまなざしで ながめると 市のほうへむかって がまんづよくあるきました。》 ピグリンは はじめから、市へは いきたくなかったのです。おおぜいのひとでいっぱいの市で 《ひとりで、立って、 おされたり じろじろながめられて しらない おひゃくしょうに やとわれるなんて とてもいやだとおもいました。》
「じぶんのはたけが あったらなあ、小さくていいから,…..そしたら じゃがいもを うえるんだけどなあ」
《手がつめたくなったので ポケットに入れました。》するとそこに 許可証がありました。もういっぽうにも ありました。
アレクサンダーのです。ピグリンは、」きぃと なくと おまわりさんとアレクサンダーを おっかけて はしりました。
《ところが かどを まがるとき まちがってしまいました。》《ピグリンは すっかり》道にまよってしまいました。》
くらくなり かぜがでて こわくなって ピグリンは なきました。
《1じかんばかり うろついたあげく、やっと森のそとへでました。》 月が でてきたので ながめると そこは 《まったく見たことのない ところでした。》 道は あれちを よこぎり つづき 《月のひかりをあびて 川が ながれていました。》
きりのはるか かなたに 《おかのつらなりが 見えました。》
《ふと 見ると、小さな木の小屋がありました。》 とり小屋みたいでしたが ぬれて さむいし くたびれはてたので しかたありません。にわとりたちは おこって 《「ベーコン・エッグ!ベーコン・エッグ!」》と わめきましたが とりも ピグリンも ねむりこんでしまいました。
ところが、1じかんもたたないうちに 《おひゃくしょうのピーター・トーマス・パイパーソンさんが、あすのあさ 市にうりにいくとりを つかまえに、あかりとかごをもって やってきたのです。》 ハイパーソンさんは 《たまごをだいていた 白いめんどりをむんずと つかみ》、すみにいるピグリンに気がつきました。
《パイパーソンは ピグリンのくびのねっこをつかまえて、かごのなかに ほうりこみました。》《そのうえに5わのとりがおちてきました。》 6わのめんどりと ふとったこぶたが はいったかごは、おもく、ハイパーソンさんはよたよたしながら おかを くだっていきました。 からだが ばらばらになりそうになりながら、ピグリンは、どうにか ふくのしたに 許可証と、ハッカアメをかくすことが できました。
どすんと ゆかに かごがおかれると ふたをあけられ、ピグリンはつまみ出されゆかのうえにおかれました。目をパチパチさせながら みあげると 《そこには おそろしい顔をした 年とった男が立っていて、口を耳から耳まであけて にやにやわらっていました。》
《「こいつは なんたって じぶんのほうから きたんだからな」》 男は 火になべをかけると、すわって くつひもを ときにかかりました。》
ピグリンは、まるいいすをよせると、はしっこに こしをかけ、おずおずと 手をあたためました。
《パイパーソンさんは やっとくつをあしからひきぬくと だいどころの むこうのかべへ なげつけました。すると なにかくぐもったような こえがしました。》 「だまれ」と、男はいいました。
パイパーソンさんは、くつをぬぐと さっきと おなじばしょに なげつけました。《するとまた、きみょうなおとが しました。》
《「しずかにせんか こら!」》と、男はいいました。
パイパーソンさんは 戸だなから オートミールをだして、おかゆをつくりました。ピグマンは 《おなかがペコペコだったので へんなおとも気にしてもいられませんでした。》
パイパーソンさんは おかゆを3つのお皿にもりわけ、《じぶんのと ピクグリン。もうひとつは おそろしい目つきをして《ドアのむこうに おしこんで、―そのドアにかぎをかけました。》
ピグリンは ようじんして おかゆを たべました。おかゆを たべおわると、パイパーソンさんは、農事暦をしらべ、ピグリンのあばらに さわってみました。もう ベーコンをつくるのは おそすぎです。ベーコンのたくわえが少ないので、あきらめきれずに、ピグリンをながめていましたが、とうとう 《「しきものの上で ねてもええ」》と、いいいました。
《 ピグリンは、そのばん、とても よく ねむりました。》 パイパーソンさんは、また おかゆを つくりました。
ピグリンを どうしようとかんがえていたら、市場にのせていくやくそくを していた となりのおひゃくしょうが やってきて 外で口ぶえをふきました。あわてて、パイパーソンさんは、かごをもって出ていき、ピグリンに戸をしめるようにいい、《「つまらんことに くびをつっこむでない。」《「いうことを きかんと、かえってきてから、かわをひんむくぞ」》と、いいました。
《ピグリンは じぶんも のせていってくれと たのもうかなとおもいました》が《、このパイパーソンさんが しんようできないような きがしました。》
《ピグリンは ゆっくり あさごはんをたべました。》そして 家のなかを見てまわりました。《ここでは なににでも みな かぎが かかっています。》 バケツのなかに じゃがいものかわが はいっていたので たべました。
そして おかゆのおさらを あらいながら、うたを うたいました。
《トムは ふえを ふきまくり
こどもを みんな よびました
こどもは みんな よってきて
トムのしらべをききました
“おかをこえ はるかなくにへ!”》
《とつぜん ちいさな くぐもったこえが うたいました。
「おかをこえて はるかかなたへ
かぜが ずきんを ふきとばす!」》
《ピグリンは じっと みみを すましました。》
ながい あいだ なんのおとも しません。しょくどうへ いってみましたが、だれも いません。
ピグリンは かぎのかかった なんどのまえで 《かぎあなから なかを くんくんかぎました。》
とても しずかです。
《ハッカアメを戸のしたへ おしこめました。アメは すっときえました。》 その日は のこったハッカアメを6つ ぜんぶ、なんどの戸のしたへ おしこめました。
《パイパーソンさんが かえってきたとき ピグリンは 火のまえに すわっていました。》《かまどのそうじをして、なべに おゆをわかしておいたのです。》
《パイパーソンさんは、じょうきげんで ピグリンのせなかを ぴしゃりとたたき、おかゆを どっさり つくりました。》
そして、戸だなに かぎをかけわすれ、なんどのドアには かぎをかけましたが、よくしまっていません。
パイパーソンさんは、《あすのあさは、どんなことがあっても、12じまえには おこしてはいかんと いいつけて さっさと ねにいきました。》
ピグリンが だんろのまえで ばんごはんをたべていると、とつぜん、うしろで、小さなこえがしました。
《「わたし ピグウィック゛っていううの。おかゆを もっと くださいな」》
《ピグリンは とびあがって、ふりむきました。》
《すると、まことに きれいな くろいぶたのおんなの子が、にっこりわらって立っていました。》 ピグリンのおかゆを ゆびさすので、あわてて おさらをおしつけると、ピグリンは、戸だなのむこうまで にげていきました。
「きみ どうやって ここへ きたの?」
《「ぬすまれて」 そのこぶたは、おかゆを口いっぱいに ほおばりながら こたえました。ピグリンは じぶんにもおかゆをよそいました。「なんのために?」「ベーコンとハムにするためよ」
「どうして きみ にげださないんだい?」ピグリンは ぎょうてんして さけびました。》
《「にげだすわ ごはんがすんだら」ピグウィグは きっぱり いいました。》おかゆを 2はい たべると すぐにでも でかけそうです。
「こんなに くらくては みちが わからない。あかるかったら、きみ みち わかる」と、ピグリンは ききました。
「《川をわたった むこうのおかの上から、この白い小さい家がみえるのよ。あなたは どっちへ いくの?》
「市場へ。よければ、橋まで おくっていってあげるよ」
《 とうとう ピグリンは 目をつぶって ねむったふりをしました。》 《やがて ハッカのにおいがしてきました。》
「《まだ たべてなかったの?》《パイパークさんが においを かぎつけるかもしれないよ。》
「うたを うたって」
「ぼく はが いたいんだよ」
ビグリンは ピグウィッグをそっと見ていました。
ピグウィッグは、小さなこえで からだをゆすり、ひょうしをとって、ブーブーごえで うたいました。
《「おかしな おばあさんぶたが おりました
3びきのこぶたと 小屋にすみ
(ティッタララ)フンフンフン!
3びきのこぶたは なきました
ウィー ウィー ウィーと なきました。」》
3ばん、4ばんと うたううち あたまがさがさがってきて とうとう ねてしまいました。
ピグウィッグに ながいすの おおいをかけて やりました。ピグリンは、しんぱいで ねむれず ひとばんじゅう 耳をかたむけ 2かいからもれてくる パイパーソンのいびきを気にしながら 夜をあかしました。
《つぎのあさはやく、まだあかるくならないうちに ピグリンは じぶんのにもつを まとめると、ピグウィッグをおこしました。》 いちばんどりが なきました。めんどりたちが おきないうちに でかけなくてはいけません。めんどりが なきはじめました。
《 ピグリンは めんどりたちにむかって シー!と しかりつけるようなこぶたでは ありませんでした。とても おだやかな せいしつだったし、かごにとじこめられるのが どんなことか わかっていましたから。》
《ピグリンは 家の戸を しずかに あけて そとにでると、そっとしめました。》
あれちを よこぎっていくうち、日がのぼって、おかのむこうから さしはじめ、おかをくだって しずかな みどりの谷間の上に ふりそそぎました。谷間のあちこちに にわや くだものばたけに かこまれた白い小さい家が たっていました。
《「あっちが ウェストモーランド州よ」ピグウィッグはピグリンの手をはなして、うたいながら おどりました。
「トム トム ふえふきのむすこ
ぶたをぬすんで にげたとさ
トムにふけたのは たった1きょく
“おかをこえて はるかなくにへ!」
「さあ、はやく 橋までいかなくちゃ」
《「どうして 市へなんか いきたいの?」ピグウィッグは おどりを やめて ききました。》
《「いきたくは ないんだよ。ほんとうは ぼく じゃがいもを うえたいんだ」
「ハッカアメ たべる?」ピグリンは すっかり きげんをわるくして ことわりました。
《 ピグウィッグは ひとりで ハッカアメをたべて 道のむこうがわを あるいていきました。
「ピグウィッグ へいの下に くっつくんだ!おひゃくしょうが はたけを たがやしている」》
《ふたりは 州堺をめざして いそいで おかを くだっていきました。》
《きゅうに ピグリンは あしをとめました。しゃりんのおとが きこえてきたのです。》
おかのしたから やおやのばしゃが ゆっくり のぼってきます。やおやは しんぶんに よみふけっています。
ああ、橋はもうすぐそこなのに。ピグウィッグは、ピグリンによりかかると、ひどく あしを ひきずりはじめました。
うまが いななき やおやは ふたりに きづきました。「おや?どこへいくんだね?」
「市へいくんなら 市は きのうだった。証明証 見せてみな。おかしいじゃないか。このじょうちゃん、アレックサンダーって名か?」ピグリンは ぜんそくほっさのように はげしく せきこみました。
新聞には ぬすまれたブタの たずねらんが のっていました。
「《おめえたちは ここで まってるんだぞ。》 いま あの ひゃくしょうと そうだんしてくるから。」
ぶたというものは、ちょこまか にげだすものだということは わかっていたが こんな じょうたいならにげられないと おもったのです。
《「まだ まだだよ。ふりむいて 見るかもしれないから」》 ほんとうに やおやは ふりむきました。
そして、じぶんのうまも あとあしをひきずっていました。石がはさまっていたからですが、なかなか石がとれません。
「いまだ、ピグウィッグ、かけろ!」ピグリンは さけびました。橋へむかって かけつづけました。
《はしって はしって、はしって、おかをくだり、谷間のみどりのくさはらを つっきって、小石をつめた道と いぐさのあいだをかけおりて―とうとう 川へたどりつきました。橋にたどりつき、橋をわたりました。手と手をつないで―》
《そして、やっと“おかのむこうの はるかなくに”へやってきた ピグウィッグとピグリンは、いっしょにダンスをおどりました。》
おわり
読んであげるなら:5・6才から
自分で読むなら:小学低学年から
ビアトリクス・ポター さく・え まさきるりこ氏やく
(要約)
《むかし、わたしの農場にベティトーおばさんという名のぶたがいました。ベティトーおばさんには 8ひきのこぶたがいました。おんなの子の名まえはブツクサとチュクチュク、それからキュウキュウとブチでした。
おとこの子の名まえは、アレクサンダーにピグリン・ブランド、それからトントンとシリキレシッポでした。シリキレシッポは まえに じこで しっぽをなくしたのです》
《「あい あい あい 、この子たちの よくたべること。ほんとにまあ よくたべること!」》 目をほそめて ながめていると、おそろしい ひめいが きこえてきました。アレクサンダーが えさばこのわくに はさまって ぬけでられず、わたしは、ベティトーおばさんと いっしょに うしろあしを つかんで ひっぱっりだしてやりました。
《トントンも おはずかしいことを しでかしていました。 きょうは せんたく日だったのですが、石けんをたべて しまったのです。》 《こんどは しあがった せんたくもののかごから もう1ぴき きたないこぶたが 見つかりました。ほかのぶたは ピンクか ピンクにくろのぶちの ぶたなのに その子は まっくろです。あらってみたら これは キュウキュウでした。》
《わたしは やさいばたけへいきました。》 すると 《ブツクサとチュクチュクが にんじんを ほりおこしてたべているでは ありませんか。》 わたしは ひっぱたき 《耳をひっぱって はたけから ひっぱりだしました。ブツクサなんて わたしに かみつこうと したんですよ。》
《「ベテイトーおばさん。あなたは りっぱなかたです。でも、こぶたたちは しつけができていませんねえ」》
《「あい あい あい」ベティトーおばさんは ためいきを つきました。》
「それに ミルクも たくさん のむこと。これでは よそへ やらねば なりませんねえ。8ひきは なんといってもおおすぎます」
《そういうわけで シリキレシッポとキュウキュウとブツクサは ばしゃに のせられ、トントンとチュクチュクは、手おしぐるまで、つれていかれました。》
《のこった おとこの子たち、アレクサンダーとビリング・ブランドは 市へ やられることに なりました。
わたしと ベティトーおばさんは 2ひきのうわぎにブラシをかけ、しっぽをくるりとまきあげ、かおをあらってやりました。それから、うらにわまで みおくりに出ました。》
おばさんは 大きなハンカチで なみだをふきました。それから ピグリン・ブランドのはなをふいて なみだをながしました。《おばさんは はなをならして ためいきをつくと》 2ひきのこぶたに いいました。
《「ピグリンや かわいい ピグリンや、市へいって どこかの農場に やとっておもらい。アレクサンダーの手をつないでおやり。よそゆきのようふくを よごさないように、それから ちゃんと はなをかむように、いいね」
《「わなと とりごやに 気をつけるんだよ。ベーコンエッグにされるってこともあるからね。かならず うしろあしで立つんだよ」》
《ピグリンは しっかりもののこぶたでした。かあさんのかおを、とてもしんけんな目でみつめてましたが、なみだがツ-と ほおを つたいました。》
アレクサンダーには 《「にいちゃんの手を….」》と、いうと、《「ウイー ウィー ウィー!」と、アレクサンダーは わらいました。また 注意しても アレクサンダーは わらいました。おばさんは 《「おまえにはこまるねえ」》と いいました。「どうろひょうしきを よくみて、さかなのほねなんか ひろって 食べるんじゃないよ」
《「いっときますけどね」わたしは、だいじなことを おもいだして いいました。》 「州の堺をこえると もう もどってこれません。アレキサンダー、おまえ きいていないね。ほら、これが2まいの許可証。これで ランカシャーの市へ、入場できるんですよ。ちゃんと おきき。アレクサンダー!この 許可証は、けいさつから とても苦労をして 手にいれたんですよ」
ピグリンは しんけんに きいていましたが、アレクサンダーは ただ おちつきなく とびはねていました。
わたしは、なくさないように チョッキの うちポケットにピンで とめてやりました。
おばさんは 2ひきに 小さいつつみと おみくじのついたハッカアメを8こづつ もたせてやり、2ひきはしゅっぱつしました。
《 ピグリンとアレクサンダーは 1マイルばかり、せっせと 道をいそぎました。》 アレクサンダーは 道のはしから はしまで スキップをして とんであるいたので 2ばい あるきました。アレクサンダーは ピグリンをつねって うたいました。
《このぶた 市へいきました。
このぶた いえで おるすばん
このぶた にくを たべましたーー》
《ねえ にいちゃん、べんとうに なにがはいっているか 見てみようよ!》
ふたりは すわって つつみを あけました。《アレクサンダーは あっというまに おべbんとうを ぜんぶ のみこんでしまいました。ハッカアメも とうに たべました。「ねえ、にいちゃん。アメひとつ おくれ」》
「まさかのときに とっておかなきゃ」 ピグリンは かんがえぶかく いいました。アレクサンダーは 許可証がとめてあるピンをとって ピグリンを つつきました。ピグリンは 手をはらって おこったので ピンは どこかへいってしまいました。
《アレクサンンダーは こんどは ピグリンのピンをとろうとしました。とうとう2まいの許可証は ごちゃまぜになってしまいました。》けれども やがて 2ひきは なかなおりをして、手をつないで あるきました。2ひきは うたを うたいました。
《トム トム ふえふきのむすこ
ぶたを ぬすんで にげたとさ
トムにふけたは たったの1きょく
“おかをこえて はるかなくにへ”》
《「なんだと、ぶたをぬすんだと」 かどを まがったとたん おまわりさんが立っていて 許可証をみせろと いいました。
ピグリンは ちゃんと見せました。ところが アレクサンダーは なくしてしまいました。おまわりさんは アレクサンダーに ちょうど農場へいくところなので、つれてかえろうといいました。ピグリンには きみは ちゃんと許可証をもっているので いいんだよ、と いいました。《おまわりさんと ぎろんするのは あまりかしこい やりかたでは ありません。》
ピグリンは ひとりで いくのは いやでしたが アレクサンダーにハッカアメをひとつやり、《そして、おまわりさんと、おとうとが みえなくなるまで、じっと 見おくりました。》
アレクサンダーは おまわりさんに つれられて しょんぼりと かえってきました。わたしは きんじょの農園にアレクサンダーをやりました。《けっこう ちゃんと やっていましたよ。》
《いっぽう ピグリンは ひとり とぼとぼと あるいていきました。》 どうろひょうしきには 「川へ 5マイル」「おかを こえて4マイル」「ペティトー農場へ、3マイル」と、あり 《ビグリンは こころのそこから がっかりしました。》 きょうじゅうに 市へつくのは むりです。あしたが 市の日だというのに。《アレクサンダーが ふざけたせいで すっかり おそくなってしまいました。《ピグリンは おかのかなたへいく道を せつないまなざしで ながめると 市のほうへむかって がまんづよくあるきました。》 ピグリンは はじめから、市へは いきたくなかったのです。おおぜいのひとでいっぱいの市で 《ひとりで、立って、 おされたり じろじろながめられて しらない おひゃくしょうに やとわれるなんて とてもいやだとおもいました。》
「じぶんのはたけが あったらなあ、小さくていいから,…..そしたら じゃがいもを うえるんだけどなあ」
《手がつめたくなったので ポケットに入れました。》するとそこに 許可証がありました。もういっぽうにも ありました。
アレクサンダーのです。ピグリンは、」きぃと なくと おまわりさんとアレクサンダーを おっかけて はしりました。
《ところが かどを まがるとき まちがってしまいました。》《ピグリンは すっかり》道にまよってしまいました。》
くらくなり かぜがでて こわくなって ピグリンは なきました。
《1じかんばかり うろついたあげく、やっと森のそとへでました。》 月が でてきたので ながめると そこは 《まったく見たことのない ところでした。》 道は あれちを よこぎり つづき 《月のひかりをあびて 川が ながれていました。》
きりのはるか かなたに 《おかのつらなりが 見えました。》
《ふと 見ると、小さな木の小屋がありました。》 とり小屋みたいでしたが ぬれて さむいし くたびれはてたので しかたありません。にわとりたちは おこって 《「ベーコン・エッグ!ベーコン・エッグ!」》と わめきましたが とりも ピグリンも ねむりこんでしまいました。
ところが、1じかんもたたないうちに 《おひゃくしょうのピーター・トーマス・パイパーソンさんが、あすのあさ 市にうりにいくとりを つかまえに、あかりとかごをもって やってきたのです。》 ハイパーソンさんは 《たまごをだいていた 白いめんどりをむんずと つかみ》、すみにいるピグリンに気がつきました。
《パイパーソンは ピグリンのくびのねっこをつかまえて、かごのなかに ほうりこみました。》《そのうえに5わのとりがおちてきました。》 6わのめんどりと ふとったこぶたが はいったかごは、おもく、ハイパーソンさんはよたよたしながら おかを くだっていきました。 からだが ばらばらになりそうになりながら、ピグリンは、どうにか ふくのしたに 許可証と、ハッカアメをかくすことが できました。
どすんと ゆかに かごがおかれると ふたをあけられ、ピグリンはつまみ出されゆかのうえにおかれました。目をパチパチさせながら みあげると 《そこには おそろしい顔をした 年とった男が立っていて、口を耳から耳まであけて にやにやわらっていました。》
《「こいつは なんたって じぶんのほうから きたんだからな」》 男は 火になべをかけると、すわって くつひもを ときにかかりました。》
ピグリンは、まるいいすをよせると、はしっこに こしをかけ、おずおずと 手をあたためました。
《パイパーソンさんは やっとくつをあしからひきぬくと だいどころの むこうのかべへ なげつけました。すると なにかくぐもったような こえがしました。》 「だまれ」と、男はいいました。
パイパーソンさんは、くつをぬぐと さっきと おなじばしょに なげつけました。《するとまた、きみょうなおとが しました。》
《「しずかにせんか こら!」》と、男はいいました。
パイパーソンさんは 戸だなから オートミールをだして、おかゆをつくりました。ピグマンは 《おなかがペコペコだったので へんなおとも気にしてもいられませんでした。》
パイパーソンさんは おかゆを3つのお皿にもりわけ、《じぶんのと ピクグリン。もうひとつは おそろしい目つきをして《ドアのむこうに おしこんで、―そのドアにかぎをかけました。》
ピグリンは ようじんして おかゆを たべました。おかゆを たべおわると、パイパーソンさんは、農事暦をしらべ、ピグリンのあばらに さわってみました。もう ベーコンをつくるのは おそすぎです。ベーコンのたくわえが少ないので、あきらめきれずに、ピグリンをながめていましたが、とうとう 《「しきものの上で ねてもええ」》と、いいいました。
《 ピグリンは、そのばん、とても よく ねむりました。》 パイパーソンさんは、また おかゆを つくりました。
ピグリンを どうしようとかんがえていたら、市場にのせていくやくそくを していた となりのおひゃくしょうが やってきて 外で口ぶえをふきました。あわてて、パイパーソンさんは、かごをもって出ていき、ピグリンに戸をしめるようにいい、《「つまらんことに くびをつっこむでない。」《「いうことを きかんと、かえってきてから、かわをひんむくぞ」》と、いいました。
《ピグリンは じぶんも のせていってくれと たのもうかなとおもいました》が《、このパイパーソンさんが しんようできないような きがしました。》
《ピグリンは ゆっくり あさごはんをたべました。》そして 家のなかを見てまわりました。《ここでは なににでも みな かぎが かかっています。》 バケツのなかに じゃがいものかわが はいっていたので たべました。
そして おかゆのおさらを あらいながら、うたを うたいました。
《トムは ふえを ふきまくり
こどもを みんな よびました
こどもは みんな よってきて
トムのしらべをききました
“おかをこえ はるかなくにへ!”》
《とつぜん ちいさな くぐもったこえが うたいました。
「おかをこえて はるかかなたへ
かぜが ずきんを ふきとばす!」》
《ピグリンは じっと みみを すましました。》
ながい あいだ なんのおとも しません。しょくどうへ いってみましたが、だれも いません。
ピグリンは かぎのかかった なんどのまえで 《かぎあなから なかを くんくんかぎました。》
とても しずかです。
《ハッカアメを戸のしたへ おしこめました。アメは すっときえました。》 その日は のこったハッカアメを6つ ぜんぶ、なんどの戸のしたへ おしこめました。
《パイパーソンさんが かえってきたとき ピグリンは 火のまえに すわっていました。》《かまどのそうじをして、なべに おゆをわかしておいたのです。》
《パイパーソンさんは、じょうきげんで ピグリンのせなかを ぴしゃりとたたき、おかゆを どっさり つくりました。》
そして、戸だなに かぎをかけわすれ、なんどのドアには かぎをかけましたが、よくしまっていません。
パイパーソンさんは、《あすのあさは、どんなことがあっても、12じまえには おこしてはいかんと いいつけて さっさと ねにいきました。》
ピグリンが だんろのまえで ばんごはんをたべていると、とつぜん、うしろで、小さなこえがしました。
《「わたし ピグウィック゛っていううの。おかゆを もっと くださいな」》
《ピグリンは とびあがって、ふりむきました。》
《すると、まことに きれいな くろいぶたのおんなの子が、にっこりわらって立っていました。》 ピグリンのおかゆを ゆびさすので、あわてて おさらをおしつけると、ピグリンは、戸だなのむこうまで にげていきました。
「きみ どうやって ここへ きたの?」
《「ぬすまれて」 そのこぶたは、おかゆを口いっぱいに ほおばりながら こたえました。ピグリンは じぶんにもおかゆをよそいました。「なんのために?」「ベーコンとハムにするためよ」
「どうして きみ にげださないんだい?」ピグリンは ぎょうてんして さけびました。》
《「にげだすわ ごはんがすんだら」ピグウィグは きっぱり いいました。》おかゆを 2はい たべると すぐにでも でかけそうです。
「こんなに くらくては みちが わからない。あかるかったら、きみ みち わかる」と、ピグリンは ききました。
「《川をわたった むこうのおかの上から、この白い小さい家がみえるのよ。あなたは どっちへ いくの?》
「市場へ。よければ、橋まで おくっていってあげるよ」
《 とうとう ピグリンは 目をつぶって ねむったふりをしました。》 《やがて ハッカのにおいがしてきました。》
「《まだ たべてなかったの?》《パイパークさんが においを かぎつけるかもしれないよ。》
「うたを うたって」
「ぼく はが いたいんだよ」
ビグリンは ピグウィッグをそっと見ていました。
ピグウィッグは、小さなこえで からだをゆすり、ひょうしをとって、ブーブーごえで うたいました。
《「おかしな おばあさんぶたが おりました
3びきのこぶたと 小屋にすみ
(ティッタララ)フンフンフン!
3びきのこぶたは なきました
ウィー ウィー ウィーと なきました。」》
3ばん、4ばんと うたううち あたまがさがさがってきて とうとう ねてしまいました。
ピグウィッグに ながいすの おおいをかけて やりました。ピグリンは、しんぱいで ねむれず ひとばんじゅう 耳をかたむけ 2かいからもれてくる パイパーソンのいびきを気にしながら 夜をあかしました。
《つぎのあさはやく、まだあかるくならないうちに ピグリンは じぶんのにもつを まとめると、ピグウィッグをおこしました。》 いちばんどりが なきました。めんどりたちが おきないうちに でかけなくてはいけません。めんどりが なきはじめました。
《 ピグリンは めんどりたちにむかって シー!と しかりつけるようなこぶたでは ありませんでした。とても おだやかな せいしつだったし、かごにとじこめられるのが どんなことか わかっていましたから。》
《ピグリンは 家の戸を しずかに あけて そとにでると、そっとしめました。》
あれちを よこぎっていくうち、日がのぼって、おかのむこうから さしはじめ、おかをくだって しずかな みどりの谷間の上に ふりそそぎました。谷間のあちこちに にわや くだものばたけに かこまれた白い小さい家が たっていました。
《「あっちが ウェストモーランド州よ」ピグウィッグはピグリンの手をはなして、うたいながら おどりました。
「トム トム ふえふきのむすこ
ぶたをぬすんで にげたとさ
トムにふけたのは たった1きょく
“おかをこえて はるかなくにへ!」
「さあ、はやく 橋までいかなくちゃ」
《「どうして 市へなんか いきたいの?」ピグウィッグは おどりを やめて ききました。》
《「いきたくは ないんだよ。ほんとうは ぼく じゃがいもを うえたいんだ」
「ハッカアメ たべる?」ピグリンは すっかり きげんをわるくして ことわりました。
《 ピグウィッグは ひとりで ハッカアメをたべて 道のむこうがわを あるいていきました。
「ピグウィッグ へいの下に くっつくんだ!おひゃくしょうが はたけを たがやしている」》
《ふたりは 州堺をめざして いそいで おかを くだっていきました。》
《きゅうに ピグリンは あしをとめました。しゃりんのおとが きこえてきたのです。》
おかのしたから やおやのばしゃが ゆっくり のぼってきます。やおやは しんぶんに よみふけっています。
ああ、橋はもうすぐそこなのに。ピグウィッグは、ピグリンによりかかると、ひどく あしを ひきずりはじめました。
うまが いななき やおやは ふたりに きづきました。「おや?どこへいくんだね?」
「市へいくんなら 市は きのうだった。証明証 見せてみな。おかしいじゃないか。このじょうちゃん、アレックサンダーって名か?」ピグリンは ぜんそくほっさのように はげしく せきこみました。
新聞には ぬすまれたブタの たずねらんが のっていました。
「《おめえたちは ここで まってるんだぞ。》 いま あの ひゃくしょうと そうだんしてくるから。」
ぶたというものは、ちょこまか にげだすものだということは わかっていたが こんな じょうたいならにげられないと おもったのです。
《「まだ まだだよ。ふりむいて 見るかもしれないから」》 ほんとうに やおやは ふりむきました。
そして、じぶんのうまも あとあしをひきずっていました。石がはさまっていたからですが、なかなか石がとれません。
「いまだ、ピグウィッグ、かけろ!」ピグリンは さけびました。橋へむかって かけつづけました。
《はしって はしって、はしって、おかをくだり、谷間のみどりのくさはらを つっきって、小石をつめた道と いぐさのあいだをかけおりて―とうとう 川へたどりつきました。橋にたどりつき、橋をわたりました。手と手をつないで―》
《そして、やっと“おかのむこうの はるかなくに”へやってきた ピグウィッグとピグリンは、いっしょにダンスをおどりました。》
おわり
読んであげるなら:5・6才から
自分で読むなら:小学低学年から