とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

認知症の介護

2006年07月30日 07時29分17秒 | 老人介護・心の不調・ストレス
母の状態がおかしくなったのは、5年ほど前である。
まず猛烈なゲリに襲われ、体重が一挙に10キロほど減った。いろいろな検査をしてもどこにも異常が見つからない。
ああでもない、こうでもないと入退院をくりかえしたが、いっこうに改善しなかった。
母は別にぼんやりして暮らしていたわけではない。
体調が悪くなる直前まで、50歳の時から書道を始め、10年(?)ほどかかって師範免許をとり、県展にも入賞するようになり9回入展した。
読売展ではすでに10回入賞をしていた。母の願いは県展を10回入賞することだったが、その前に体調が悪くなり、書を書けなくなった。
まだ意識がはっきりしていたので、残念がっていたが、冷たい娘は、
「人生とは未完なものよ」と言って、けろりとしていた。

体調が一向に良くならないうえに、そのうち物忘れがひどくなった。記憶がなくなることが分かるので、恐怖に襲われていた。

自分は、おかしくなって死ぬと思ったのだろう。
「女房に先に死なれた男ほどみじめなものはない」と言って涙を流し、残していく父のことを心配していた。

そのうち、いろいろなことができなくなった。家事のほとんどが出来なくなった。

父は、みじめなどころか、料理をこさえ母に食べさせ、家事を全部やって母を介護してきた。栄養を考え、規則的な生活をすることによって、母はすっかり体調を回復し、体重も増えていった。増えすぎて、失敗したと父が後悔するほどに。

しかし、年々、世界の認知力が落ちていった。

去年、子どもたちが集まって両親を温泉に誘った時には、旅館で「こんなところには初めて来た」と言って一生懸命、自分がいる所はどこかを考えていた。
おトイレもスイッチもそこだと、娘の私が聞かせても信用しない。母がこの世の杖にしているのは、父だった。

父が、「そこはトイレだ。スイッチは左だ」と背後からばしっと言ってやると、安心し、トイレを認知する。
朝、洗面所に行っても、「ここは何をする所なのかしら?」と、とまどっている。
私が、洗面所ですと言っても信用しない。父が、「そこは洗面所だ!歯をみがき、顔を洗うんだ」と、びしっと言うと初めて納得する。

ところが、1年後の今年の温泉宿では、不安感はまったくとれていた。にこにこと陽気にリラックスして楽しんでいる。もう、なんでもかんでも、どうでもいいのだ。
母は健康な陽気なのんきな幸せな人間に変わっていた。

ここまでもってくるのが、きついのだそうだ。

それを一人でやてきた父よ。ごくろうさま。

倒れて入院した父が訴えていたことは、「疲れた、疲れた。とことん疲れたよ」ということだった。たった一度だけ、笑いながらだが、愚痴を言った。
「お母さんの世話は大変なんだよ。一日中同じことをくりかえし、くりかえし、聞くんだよ」

父は、子どもにSOSを出さず、一人で母の介護をがんばってきた。
介護認定を受けて、行政のサービスを受けることも拒否してきた。

父が、倒れたことにより、隣家に住む弟も、親の家にようやく踏み込め、二つの家に渡り廊下をただ今つくっている最中で、受け入れ対策を進めている。介護認定もとった。

これから、どうなるかは分からないけれど、父にはただ今、老人の世話もしている精神病院(?!)に入院して、ゆっくり静養してもらっている。
認知症にもならず、意識がしゃっきりしているので、すでに売店まで専任の介護士が付き添うなら行ってもいいと、行動範囲も日に日に広げてもらっているようだ。
広い精神病院なので、手すりのついた廊下がいやというほどある。父はすでに歩行訓練を始めているとのこと。

今までは、自分で作っていた食事も病院からでる。今までは、母をお風呂にいれて寝かせていたのだが、今度は、自分が介護士にお風呂にもいれてもらえる。

まあ、この病院はどういう所かは、私はまだよく分からないが、さっと見てきたぶんでは、ゆったりとしていて、対応も老人の扱いに慣れ、スローでていねいだ。
良い静養になるといいがと思っている。

母は、合理的なクールな人間だった。意識がはっきりしている時に私に言っていた。「私は、家で死にたいなどと思っていません。一人で生活できるうちは家で過ごしますが、一人で生活できなくなったら、施設に入りたい。人間はいつかは死ぬ。施設に入ることが悲惨だなんて少しも思いません。家でこの重い私をお風呂に担いで入れるなんて大変です。それに私も施設に入って、設備が整い、プロに世話されたほうが安心です」

この言葉を、弟夫婦に伝えてきた。基本は、本人の希望に添うことではないだろうか?
私の場合はどう考えるだろうかと、ちらっと気になった。
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