10月から新型コロナ治療薬は自己負担 外来受診でいくら?
今年5月に「5類感染症」へ移行してから、新型コロナに関して患者さんの自己負担が発生するようになりましたが、10月からもう少し自己負担が増えることが決まりました。感染者数が多く、みなさんもいつ感染するか分かりませんので、詳しく解説したいと思います。
インフルエンザよりも高い薬価
「5類感染症」へ移行してから、新型コロナに関する医療費に自己負担が発生するようになりました。それでもなお、まだまだ政府が補助してくれている現状があります。
令和5年9月30日までは、外来診察代や検査代などの医療費には自己負担が発生しますが、新型コロナの抗ウイルス薬に関しては全額公費負担となっています。
新型コロナの抗ウイルス薬の薬価は非常に高く(表1)、インフルエンザで投与されるタミフルなどの抗ウイルス薬の薬価とは10倍以上の開きがあります(表2)。
もし3割負担となった場合、数万円の自己負担額が生じるため、政府で議論が交わされてきました。
10月以降の抗ウイルス薬の自己負担額
ずっと新型コロナの治療薬を無料のままというわけにはいきません。最終的に通常の自己負担へ移行することが想定されています。
しかし10月以降、当面は自己負担額が安く済むよう「上限」が設定されます。
具体的には、3割負担の人は薬剤費自己負担9,000円が上限、2割負担の人は6,000円が上限、1割負担の人は3,000円が抗ウイルス薬の自己負担額の上限となります(表3)。
たとえば、3割負担の若い患者さんの場合、「新型コロナの治療薬をください」と希望して受診した場合、薬剤費も含めた医療費の自己負担額は1万2,000円あまりをイメージしておくとよいでしょう。
この金額でさえも、政府がかなり補助してくれている水準で、最終的に通常の自己負担へ移行した場合、3割負担だとパキロビッドの処方だけで約3万円となります。
入院に関しては補助が最大1万円に減額されます。新型コロナで入院すると現在は数万円かかることが多いので、課税所得が低い家庭では相対的に負担額が増えることになります。
抗ウイルス薬と医療費のジレンマ
重症化リスクが高い患者さんの場合、現在の指針では抗ウイルス薬の投与が推奨されます(1)。この場合、パキロビッドが優先的に処方されます。
抗ウイルス薬は、細菌感染症に対する抗菌薬のように病原体そのものをやっつける薬剤ではありません。自然治癒も期待できることから、軽症な人や元気な人は必ずしも投与が必要なわけではないことにも注意が必要です。
医師は、曇りなき眼で、医学的な判断のもと治療にあたるべきですが、今回改定される薬剤費については医療従事者の間でさえあまり知られていません。値段が高い薬剤であることをもう少し政府からも啓発すべきかと思います。
日本全体の医療費を考えた場合、インフルエンザの抗ウイルス薬のように簡単に投与するわけにはいかない、というジレンマが今後勃発するかもしれません。
(参考)
(1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf)
国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。