山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信
イギリス型変異ウイルスの脅威
2021/3/13
イギリスから世界に広がりつつある変異型ウイルス(B.1.1.7株)は、感染力が従来のウイルスより70%程度強い可能性が高いと考えられています。実効再生産数(Rt:1人の感染者から何人に感染するか)は、従来のウイルスより0.52から0.74程度高い可能性が示唆されています。また致死率も同程度高い可能性が示唆されています。これらはさらなる検証が必要ですが、本当であれば影響は極めて深刻です。今回の第3波における日本国内のRtは最大で1.5程度であったと推定されています。
新型コロナウイルス 国内感染の状況 (toyokeizai.net)
緊急事態宣言による国民の努力で、2月上旬には0.7程度まで減少しました。緊急事態宣言のRtに対する効果は最大で0.8程度であったと言えます。もしイギリス変異株で0.74上昇するとすれば、緊急事態宣言による全国民の努力が帳消しになってしまうことになります。もしこの変異株が主体で第4波が起これば、今回と同様の緊急事態宣言の内容では、収束には向かわない可能性があります。またRtが1未満の現状でも、変異株に限ってみれば1をはるかに上回っている計算になり、どんどん増えていることになります。実際、神戸市内では変異株の割合が急速に増加していると久元市長が会見されていました。
神戸市で変異株36件確認 英国由来など、独自発表 | 共同通信 (kiji.is)
変異株の致死率が高いとすると、医療への影響も第3波より大きくることが危惧されます。ウイルスへの対策はシーソーに例えられことがあります(図)。国民の努力や政府・自治体による対策とウイルスの感染力・病原性のバランスです。前者が重ければ収束に、後者が重ければ感染拡大につながります。イギリス型変異株が主流を占めると、シーソーの相手の体重が100キロから170キロに増えることになります。これまでの努力や対策では到底太刀打ちできない可能性が高いと思われます。
シーソーの図は下記より改変しています。
seesaw.jpg (453×246) (bp.blogspot.com)
この変異型ウイルスについて、ジョンソン首相が感染力が最大で70%高いと2020年末に発言されていましたが、これは同国のいくつかの調査に基づいていると考えられます。
一つ目は政府への諮問機関であるNERVTAG(New and Emerging Respiratory Virus Theats Advisory Group)の報告
NERVTAG meeting minutes on SARS-CoV-2 variant under investigation. 18 December (khub.net)
で、査読(他の研究者による検証)は受けていませんが、変異型のウイルスは従来型よりも71%感染力が強いと報告しています。
もう一つはイギリス公衆衛生局からの報告
Variant of concern technical briefing (publishing.service.gov.uk)
で、やはり査読は受けていませんが、変異型のウイルスの実効再生産数(Rt:一人の感染者から何人に感染するか)は、従来のウイルスより0.52から0.74程度高いと報告しています。
そして3月3日には査読後の論文がScience誌に報告されました。
Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England | Science (sciencemag.org)
これによると、変異型ウイルスの感染力はイギリス国内の感染状況の解析から、従来のウイルスに比べて43から90%高いとしています。さらに同じ変異型ウイルスは、他国(デンマーク、スイス、アメリカ)でも59から74%高い感染力を示していると報告しています。
また3月10日にはイギリスから、変異型のウイルス感染所による死亡率は32%から104%(中央値64%)高いことが査読後の論文で報告されています。
Risk of mortality in patients infected with SARS-CoV-2 variant of concern 202012/1: matched cohort study | The BMJ
イギリス公衆衛生局からの追加発表(未査読)によると、ウイルスに感染した人から2次感染の割合は、従来のウイルスでは9.8%にあったのに対して、変異型ウイルスでは15.1%に増加していると報告されています。
Investigation of novel SARS-CoV-2 variant (202012/01): Technical briefing 2 (publishing.service.gov.uk)
病原性については、上記の査読後の論文に加え、査読前の報告もあります。
NERVTAG_note_on_B.1.1.7_severity_for_SAGE_77__1_.pdf (publishing.service.gov.uk)
この報告によると、変異型ウイルスの致死率は、従来のウイルスと比べて1.3から1.9倍程度高い可能性があるとされています。