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東京五輪閉幕 日本人が莫大な授業料を払って学んだ「負の遺産」 社会学者上野千鶴子さん〈週刊朝日〉 8/26(木) 11:30配信   AERA

2021年08月26日 19時46分25秒 | オリンピック

東京五輪閉幕 日本人が莫大な授業料を払って学んだ「負の遺産」 社会学者上野千鶴子さん〈週刊朝日〉

配信   AERA

 

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって1年延期された東京五輪が幕を閉じた。人の交流を避けることが求められた緊急事態宣言の中、多くの反対を押し切って開かれた大会は、五輪のあり方を問う機会となった。社会学者の上野千鶴子さんの視点を紹介する。

 

*     *  *  東京五輪は巨大な負の遺産を残して終わりました。

 東京五輪開催の主催者だった5者に対する信頼はことごとく崩れました。IOCの商業主義があからさまになり、JOCの無力さがみえすき、五輪組織委の寄せ集めと無責任体質がはっきりわかり、政府の独善と強引さ、東京都の無策が伝わりました。

 五輪の開催期間中にコロナ感染者は都内で1日あたり5千人超、全国では1万人を超え、死者の累計は1万6千人近くに達しました。東日本大震災の死者数と同じです。これがもし1年半にわたって続く災厄でなく、短期間に起きた災害なら、五輪開催はあったでしょうか。医療現場はすでに「災害医療現場なみ」と言われています。東日本大震災の時と同じように、ありとあらゆる医療資源を現場に動員しなければならない時期だと思います。それなのに、コロナ感染者が自宅療養を強いられる事態に。医療先進国だった日本の医療の脆弱さと政府の無策に開いた口がふさがりませんでした。「医療崩壊の危機」どころではありません、医療崩壊そのもの、コロナ感染が陽性と判定されても何の治療も受けられない「棄民政策」を政府が堂々と口にするとは。国民はもっと怒って当然です。

 スポーツ界やアスリートに対する反感すら生まれたように思います。さかのぼれば森喜朗オリパラ組織委会長辞任に際してのスポーツ界の沈黙は不気味でした。現役アスリートたちが、利権と金にがんじがらめになっていることがわかりました。アスリートは五輪に人生を賭けてひたすらストイックに鍛錬に励んできた人々、彼らを責めるのは筋がちがう、という声は多く聞かれましたが、メダル獲得後に彼らが口にしたのは、五輪開催にこぎつけた主催者とそれをサポートしたひとたちへの感謝だけでした。同じ時期に自宅療養を強いられるコロナ患者や、疲弊した医療者への配慮や同情は聞かれませんでした。人工呼吸器をつけてコロナと闘っている患者や医療者が、アスリートから「勇気と感動を与えたい」と言われても、素直に受けとれるでしょうか。「アスリート・ファースト」とは、アスリートのエゴイズムかとすら思えます。

五輪開催による政権浮揚策は、失敗に終わりました。五輪閉幕後の菅政権の支持率低下がそれを物語っています。この「翼賛体制」に協力した文化人、芸能人、タレントたちの総括も聞いてみたいものです。参加者全員がマスク着用で登場した開会式と閉会式、五輪史上異様なその映像をドキュメンタリーに制作する役割を背負った映画監督の河瀬直美さんが、この問題だらけの大会をどんなふうに記録するか、興味があります。

 五輪の虚構がこれだけあきらかになった日本が、この先の将来、ふたたび五輪を誘致することは二度とあるまい、と思います。莫大な授業料を払って日本と日本人が学んだのはそういう負の遺産でした。(寄稿)

うえの・ちづこ/1948年、富山県生まれ。社会学者、東京大学名誉教授。専門は女性学・ジェンダー研究。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長。近著に、『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)、『情報生産者になる』(ちくま新書)、『おひとりさまの最期』(朝日文庫)。 ※週刊朝日  2021年9月3日号

 

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