次々と解散していく
総理大臣就任後も会長の座に居座り続け、あれほど宏池会に愛着を示していた岸田文雄首相が、1月18日にいきなり派閥解消の意向を表明した。そして翌19日には宏池会に続き、二階俊博元幹事長が率いる志帥会と6億円以上のパーティー券裏金問題が発覚した清和会が解散することを決定した。
25日には森山裕総務会長が率いる近未来政策研究会と、派閥ではないものの有隣会(谷垣グループ)が解散を表明。菅義偉前首相が率いる「ガネーシャの会」も、解散する意向だ。一方で「何も悪いことをしていない」と麻生太郎副総裁は志公会を存続させる意向を崩さず、茂木敏充幹事長も会長を務める平成研の解散を否定した。
麻生氏と茂木氏が派閥にこだわる姿勢は理解できないわけではない。麻生氏は宏池会内から分離した大勇会を、番町政策研究所との合併などを経て、自民党第2派閥までに育て上げた。
日本新党から自民党入りした茂木氏は、故・青木幹雄氏らの反対によって平成研会長就任を阻まれてきた。だが今や2人とも、岸田政権を支える存在として“党内与党”の地位を確立。にもかかわらず、その特権をなぜ手放さなければならないのか――。
彼らは、解散すべきは派閥のパーティー券の処理をめぐって下手を打った清和会と志帥会で十分だと思っていたはずだ。そのために1月10日に政治刷新本部を設置し、うまく着地点を見い出すはずだった。幹事は青年局や女性局の局長経験者などを茂木氏が選んだというが、そのうち10名が清和会のメンバーだったのは誤算だったに違いない。
露骨な清和会つぶし
さらに読売新聞が25日、党執行部が立件の対象とならなかった安倍派(清和会)の幹部に離党や議員辞職を求めたと報じたことも、こうした混乱に輪をかけた。
離党勧告は除名に次ぐ重い処分だが、コロナによる緊急事態宣言中の2021年1月に東京・銀座のバーでの飲食が露呈した松本純元国対委員長代理ら「銀座3兄弟」が離党勧告を受けたことと比較すれば、「政治とカネ」問題である今回のケースではむしろ軽く思えてくる。
ただ背景に見えてくるのは、徹底的に清和会を潰そうという魂胆だ。ひとつはそれで裏金問題を収束させるためで、清和会の幹部らは19日に相次いで釈明会見を行ったが、国民を納得させるにはほど遠く、かえって怒りと疑念を深めている。
もうひとつは、次期総裁選での“懸念”を消し去るためだろう。岸田首相が至上命題とするのは、総裁選で勝利して続投することだが、100名近くの議員を擁する清和会であっても、宏池会出身者が総裁を務める党内では“与党”ではない。また会長職が空席のままなことからも明らかなように、有力な総裁候補も見当たらない。だがその“塊”の動きは脅威になりかねず、その前に潰しておくのが得策だ。
やり方も徹底していると、自民党関係者は証言する。
「まず閣外へ追い出し、党の役職から外した。26日から始まった通常国会では、委員長や理事のポストからも外している。あまりに徹底しているので、元清和会から苦情が来た。執行部の返事は『ならばシロのメンバーのリストを出せ』とのことだった」
小渕も、福田も……
思わぬ動きも生じている。25日には小渕優子選対委員長が平成研に離脱届を提出し、青木一彦参院議員も派閥を離脱することを表明した。小渕氏は昨年派閥を離脱した岸田首相に従った形だが、それを全面的に信じる者はいない。
青木氏は昨年6月に亡くなるまで参議院自民党に影響力を持っていた故・青木幹雄元官房長官の長男で、父・青木氏は死ぬまで茂木氏を嫌い抜いた。
もっとも2人の派閥離脱の意図はそれぞれだろうが、平成研からシンボル的な存在が抜ける意味は小さくない。
また清和会を創設した故・福田赳夫元首相の孫である福田達夫元総務会長が19日、「反省の上で新しい組織を作ることが必要」と宣言したことにも注目すべきだろう。「世代交代」の萌芽も見える。それが近い将来、岸田政権にとっての脅威にならないとは限らない。
また政策集団がルールに反した場合は活動休止や解散を命じることができるとしたが、政策活動費の公開などは盛り込まれず、カネの流れの透明化は不十分なものだった。
視線の先にはバイデン
このような大甘の内容に国民はとうてい納得できるはずもないが、それには関知しない岸田首相は着々と“次”を目指して動いている。
米ホワイトハウスは岸田首相が4月10日に国賓待遇で訪米することを発表した。年度内に2024年度予算を成立させた後に「得意の外交」で人気を稼ぐことで、岸田首相は今年の夏に衆議院を解散するとの噂もある。
果たしてその目論見は成功するのか。7月には東京都知事選が行われ、小池百合子知事の動向が注目される。岸田首相の自民党総裁の任期満了まであと8か月。自民党はいよいよ“戦乱時代”に突入した。
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