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35歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実  正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない

2020年09月15日 15時01分45秒 | 就職氷河期

35歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実

正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない

2020/9/15     橘木 俊詔 : 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授   東洋経済

1990年代半ばから2000年代前半の「就職氷河期」。その影響を全面に受けた世代が今、大きな格差に直面している。一度レールから落ちてしまった人に厳しい日本社会の特徴が、就職時期に「機会の平等」を享受できなかった中年世代の上に重くのしかかっている。
しかし、それは決して特定の世代の問題ではない。「今の40歳前後に苦しい生活を送る人が多い因縁」(2020年9月1日配信)、「今の30~40代非正規を待つ『極貧』老後の超不安」(同9月8日配信)に続き、格差問題に取り組み続けている橘木俊詔氏の新刊『中年格差』から、本書の一部を抜粋・再編集してお届けする。

非正規雇用者の厳しい労働条件

格差社会に入った日本において、それを説明する根拠として1つ重要なのが、労働者の雇用形態における正規労働と非正規労働の対比である。細かいことを言えば両者の定義はそう単純ではないし、しかもあいまいさが残るものである。

しかしわかりやすい定義をすれば、正規はフルタイムで働いており、しかも雇用期間は無限が原則であるのに対して、非正規は労働時間が短くかつ雇用期間が無限ではない、ということになる。

前者は正社員と呼ばれ、後者は非正社員と呼ばれることもある。両者間に賃金を含めた労働条件にかなりの格差があり、ここ数十年間の不況経済の継続によって非正規労働者の数が激増したことで低所得の人を多く生み、高所得の正規労働者と低所得の非正規労働者の併存というのが、格差社会の1つの象徴となったのである。

非正規労働は、労働時間が短く、雇用期間に定めがあるのが2大特色であるが、これに関連していくつかの特性がある。

・解雇通知があらかじめあればいつでも解雇できる
・労働時間も企業側の都合によって自由に変更できる
・ボーナス支払いのない場合が多い
・労働時間が特に短ければ(例、週20時間以下)社会保険制度(年金、医療、失業など)に入る資格がない

などである。これらの諸特性を知ると、非正規労働者の労働条件は悪いと言わざるをえない。なお、派遣社員やアルバイトも非正規のカテゴリーに入る。

非正規労働者の急増を統計で確認しておこう。下記の図(2-3)は、ここ20年弱の間に、形態別に非正規の人がどのように増加してきたかを示したものである。

(外部配信先では図やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

(出所)『中年格差』(青土社)

まず全体で見ると、1984(昭和59)年が604万人だったところ、2017(平成29)年には2036万人に達しており、実に1400万人ほどの急増加である。労働人口に占める比率も、15.3%から37.3%へと22%ポイントの増加であるし、現代ではほぼ40%弱の人が日本では非正規で働いているという異常さにいる。

異常さというのは少し誇張を含んでいる。非正規の人でも意図的にそれを望んでいる人(特に既婚女性のパート、学生のアルバイト)がかなりいるからである。とはいえ、たとえ意図的に非正規労働を選択しているとしても、賃金などの労働条件が悪いという事実は厳然と存在している。

ところで非正規労働者のうち、もっとも多いのはパート労働であり、およそ半数を占めている。これは既婚女性と高齢者に多い。次いで20.5%のアルバイトであり、これは若者や学生に多い。この両者、すなわちパート労働とアルバイトの増加が、非正規労働の急増を説明する重要な要因である。

中年期の人に非正規労働者はどれだけいるか

本記事のポイントとなるのが、年齢別に見た場合に、中年期の人に非正規労働者がどれだけいるかだ。下の図(2-4)で総計と年齢別の動向を示した。

(出所)『中年格差』(青土社)

2017(平成29)年でもっとも非正規労働者の多いのは、421万人(20.7%)の55~64歳である。次いで413万人(20.3%)の45~54歳である。これら後期中年期の人(45~64歳)に非正規労働が多いのである。これに前期中年期(35~44歳)を加味すると、中年層に多くの非正規労働者のいることがわかり、まさに不況の影響を直接に受けた世代の代表とみなしてよい。

それを証明するもう1つの手段は、各年齢別に増加率を見ることにある。1992(平成4)年から2017(平成29)年まで、15年間ほどの増加率を計算してみた。15~24歳で1.53倍、25~34で2.17倍、35~44歳で1.48倍、45~54歳で1.97倍、55~64歳で2.64倍、65歳以上で5.54倍となる。

もっとも高い増加率の見られる年代は高齢者である。定年などによる退職後も週に2~3日とか、1日に4~5時間とか働くのは健康に良いし、高齢者の持っている技能を若い年齢の人に教える機会もあるので、この増加は悪いことではなくとても好ましい。

次いで高い増加率は45~64歳の中年層の2.64倍と1.97倍であり、長い深刻な不況が中年層に及ぼした影響力の大きいことを物語っている。このうちのかなりの割合は、若い頃や中年期にバブル後の不況によって職探しに苦労して、失業の状態からやっとのことで非正規の仕事が得られたか、それともずっと以前から非正規労働を続けているか、のどちらかである。いずれにせよ、中年期の人が非正規で働いており、経済的に苦労している姿が明らかである。

では、どれほどの経済的な苦痛の下にいるかを確認しておこう。下の図(2-5)は雇用形態別、男女別に正規労働者と非正規労働者の間でどの程度の賃金差があるかを示した。

(出所)『中年格差』(青土社)

これは年齢別に見ていない平均像の姿である。男性の非正規労働の賃金は正規労働者の約6割強、女性の場合には約7割の賃金しか受領していない。男性のほうに格差の大きいのは、男性の正規労働者の中には管理職に就いている人が女性に比較してかなり多く、平均して男性の正規労働者の賃金が高くなるからである。一方の女性では管理職が少ないので、正規労働であっても賃金は低く、したがって格差は小さくなるのである。

正社員は年齢とともに賃金上昇を続けるのに

もう1つこの図から読み取れることは、男性と女性を比較すれば、正規と非正規ともに女性のほうが男性よりも水準としての賃金が低いということである。これは女性差別もあるが、一般に教育水準と就いている職業、そして管理職の地位などで女性が男性よりも低い点の効果もある。

むしろ衝撃的な事実は、年齢別に見た結果に出現する。下の図(2-6)は、一般労働者(正社員と非正社員の両方がいる)と短時間労働者(正社員と非正社員の両方がいる)の間で、1時間あたり賃金額が、年齢でどう異なるかを示した。

(出所)『中年格差』(青土社)

ここでは正社員と正社員以外の格差と一般労働者と短時間労働者に注目してみよう。この図でわかることは、若年層(~19歳から29歳頃まで)は正社員と非正社員の間で時給はそう変わらないが、30歳を超える頃から賃金が開き始め、そして30歳から35歳を超えると、まず正社員の人の賃金は急カーブで上昇するが、正社員であっても短時間労働の人はなんと賃金は低下に転じるということだ。

そして、もっと強調すべきことは、正社員であれ非正社員であれ、短時間労働の人の賃金は年齢を重ねても変化しない点である。正社員の一般労働者だけが年功序列の恩恵を受けて、賃金は上昇を続けるのである。この結果が50~54歳になると、それらの人はかなり高い賃金を得ており、他の労働者との格差は非常に大きくなっているのである。

では一方の非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない。現実は労働時間が短いので、この額より低いのは確実である。一般労働者としての非正社員の時給を1300円とみなして同じように月額賃金を計算しても、おおよそ23万円程度にしかならない。

未婚者であれば結婚して家庭を持つ人生は不可能

これら中年になってから20万円弱、あるいは高くても23万円の月額の収入であれば、生活が非常に苦しいことは確実である。所得税を払っているかどうかは課税最低限所得あたりなので、ゼロかとても低い所得税しか課せられないであろうが、社会保険料負担がもしあればそれが控除されるので、可処分所得はもっと低くならざるをえない。既婚者で子どもがいれば生活保護支給を必要とするほどの生活困窮者になること確実である。未婚者であれば結婚して家庭を持つという人生は不可能である。

さらに付言すれば、ここで挙げた時給の額は、該当する労働者の平均額であり、この平均額より低い額の賃金しか受領できない人が相当数いることを忘れてはならない。これらの人を貧困者とみなせることは当然であり、悲惨な経済生活を強いられているのである。

ただしここで留意すべきことがある。後に示すように、中年の非正規ないし非正社員の労働者の多くは女性、特に既婚女性で占められている。中年で単身の女性、ないし男性でここに該当する人はそう多くない。

『中年格差』(青土社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

こういう人が該当しているなら中年貧困者とみなしてよいが、多くを占める既婚女性においては夫の収入が充分にあれば、貧困の状態にはいないと解釈してよい。ただし、夫が失業しているとか、夫の収入が低ければたとえ夫婦が働いていたとしても、貧困者になる可能性はある。

もう一つ重要な留意点は、中年の女性で離婚した人は、一部のキャリアウーマンでフルタイムで働いていた人を除いて、一気に貧困者になってしまう点である。特に専業主婦だった人、パートなどの非正規労働であった女性は、技能の程度が低いだけに、離婚後に賃金の高い仕事を探しても、なかなか見つけられないのは確かである。

日本では男性よりも女性が離婚後に子どもを引き取る確率がかなり高い。子どもを引き取った女性であれば、生活費を一人で負担できるほどの収入はない。母子家庭の貧困者の生まれる理由がここにあり、およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている現状がある。

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