『表札』
自分の住むところには
自分で表札を出すに限る。
自分の寝泊りする場所に
他人がかけてくれる表札は
いつもろくなことはない。
(そうだ、そうだね、表札はレッテルと読み替えてもいいのかしら?)
病院へ入院したら
病室の名札には石垣りん様と
様がついた。
(自分で表札をかけた自分の家ではないということかしら?お客さまになっている所)
旅館に泊まっても
部屋の外に名前は出ないが
やがて焼き場の鑊(かま)にはいると
とじた扉の上に
石垣りん殿と札が下がるだろう
そのとき私がこばめるか?
(つい最近、焼き場の鑊(かま)にはいった母のことを思い出した。確かに自分でかけた表札ではなかった。)
様も
殿も
付いてはいけない、
自分の済む所には
自分の手で表札をかけるに限る。
(そういえば、母の老人ホームの個室にも表札がかかっていた。様だったか殿がついていた。どっちだっただろうか?
なるほど、さびしさは自分でかけたものではなかったからか?)
精神の在り場所も
ハタから表札をかけられてはならない
石垣りん
それでよい。