【AFP=時事】先月死去した英国のエリザベス女王をたたたえる言葉があふれる中、国内の黒人社会からは「女王は私たちのために何をしてくれたのか」と問う声が多く上がった。

 英国の植民地時代の負の遺産に対する批判はいまだにあり、この問いは、国王チャールズ3世にとって早くも試練となった。

 チャールズ国王は、本国以外に英連邦14か国の君主にもなった。その中には遠くカリブ海で英国の奴隷貿易によって搾取された国々も含まれる。

 女王死去の翌日、英バーミンガム大学のケヒンデ・アンドリュース教授(黒人研究)はニュースサイト「ポリティコ」への投稿で、国を挙げての喪失感を自分は共有できないと主張。「大英帝国の子どもたち、ここで生まれた人たち、英連邦15か国に生まれた人たち」にとって、女王は白人至上主義の象徴の頂点だと評した。

「女王は制度の一つと見なされてきたのかもしれないが、私たちにとっては日々遭遇することを避けられない制度的人種差別(レイシズム)を体現した存在だった」

 人種差別の問題は「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動で活発化し、奴隷制度に関わった歴史的人物の像の取り壊しを求める声も各地で上がった。


 英王室もやり玉に挙げられた。2020年に王室を離脱したヘンリー王子とアフリカ系米国人の母を持つ妻メーガン妃から、人種差別を受けたとして非難された時だ。

 女王は調査を約束したが、兄のウィリアム皇太子は会見で「私たちは人種差別をするような家族では決してない」と真っ向から否定した。

■旧植民地の目覚め

 人種差別と植民地主義に関する未解決の問題は、チャールズ国王が英連邦56か国の長を引き継ぐに当たり、いっそう重要な意味を持つ。

 56か国の多くは英国の旧植民地で、総人口26億人の大半は非白人で30歳未満だ。

 英国の黒人史を研究した「Black and British: A Forgotten History(黒人と英連邦民:忘れられた歴史の意)」の著者デービッド・オルソガ氏は、英紙ガーディアンに寄稿。英連邦では「民衆が帝国主義と奴隷制の現実と遺産に目覚めた」にもかかわらず、王室は「意識の変化」を認識・理解することができなかったと指摘した。

 ウィリアム皇太子夫妻が今春行ったカリブ海諸国歴訪は、植民地主義の表れだと各方面から批判され、奴隷制について謝罪を求められた他、英王室は償うべきと抗議を受けた。

 オルソガ氏は「歴史家は後世に、あの歴訪をポストエリザベス女王時代の始まりを示す最初の前兆として振り返るかもしれない」と述べる。

 その一方で、 チャールズ国王は、あまり公にならない形で差別対策に取り組んできたと言われている。

 英国の人種的不平等と取り組むNPO「オペレーション・ブラック・ボート」の副代表アショク・ビスワナサン氏は、チャールズ国王が自身の慈善団体「プリンス・トラスト(Prince's Trust)」を通じて、恵まれない若者や黒人コミュニティーと一緒に活動してきた実績が「それを物語っている」と述べる。

 ただし、黒人の英国人、特に若者を納得させるためには国王という「新しい役割の中でそうした関係を育んでいく必要がある」とくぎを刺した。(c)AFP/Marie GIFFARD