『 Ｃｏｍｍａｎｄ tｈｅ Ｍｏｒniｇ 』 Pearl S ・Buck １（４）

第一章　大統領の決断（要約4）

　「電話は神様からよ。あなたへ、カリフォルニアからよ」
スティーブは、ヘレンに叱るような顔を見せ、”自分の上司である偉大な物理学者バートン・ホールの電話に出た。”
「こんな時間にすまぬ、スティーブ。重要な話だ。”政府の命令で重要なプロジェクトを立ち上げることになったら、君に加わってもらいたんだ”」
　場所もわからず、まだ極秘で何も教えられない、と言う。他に”第一級の科学者全員と、若いえりぬきのスタッフたち”が加わり、スティーブの参加がぜひとも必要だ、と言う。”断れば無理にでも引っ張ると言う。

　「妻と相談してみます」
ヘレンが嫌な顔をし、妻と相談するなんて言わないでと低く怒って言った。
「バートは自分以外には、誰にも妻と相談なんかさせないんだから」

バートは、スティーブの相談されたくないとヘレンが言っているという言葉を聞いて言った。
「”そりゃいい。ヘレンも一緒に来ればいい。夫婦はいつも一緒だ”」
”その言葉はスティーブの耳にざらついた。「いつも一緒」はバートの妻モリーのことだ。二人の息子の母で、母親の理想像そのものである。親切でおせっかいで、常にバートにより添っている敬愛すべき伴侶。以前、「モリーからは絶対に逃げられない」と、ヘレンは我慢しかねるような調子で言ったことがあった。「モリーから逃げたいなんて、バートは思っちゃいないよ」とスティーブが応じると、”ヘレンは青い目を丸くし、”「ばかみたい！」と、一言断じておしまい。二人で笑い合ったものだ”。

　実現する段になったら話を聞きますと言うスティーブに、バートは木曜日の朝、研究室で会おう、と言って電話を切った。受話器を置いたスティーブは、”ぼんやり考えこんでいた”。

　ヘレンは、つぶやいた。
「さようなら、新築の家、私は永久に家をもてないわ、何もかもお終いだわ.....」

　我に返ったスティーブが言った。
「”あきらめることはないさ”。先に延びただけで、”いつかはみんな手に入る”」

　ヘレンの”感情は自分でも持てあますほど高まり”、スカートの裾をひろげ、”夫のまわりをくるくると踊りだした。”
「”赤ちゃんを産みましょう。忙しく暮らせるように。あなたが宇宙や原子にかかっりきりのあいだ、私は赤ちゃんと仲よくするわ”」
　ヘレンは、オーブンのガスを消した。

　「”こんなときに、子供がほしいだって？”」

ヘレンは、ふたたび踊りだし、輪を小さくして、スティーブの腕をとり、唇にキスをした。

　.......”２時間後、ヘレンがスティーブから離れた。「だめだわ。今度も失敗よ。」
　大きなダブルベッドの端にすわる。”閉じた白いカーテンから月の光が漏れている。”

　「どうして？”君は完璧だった。だから、僕も完璧だったと思うよ”」
ヘレンは首をふって言った。「”気持ちがこもっていなかったわ”」
　”スティーブは、おおいに不満で”言った。「”そんなことないよ”」
”ほっそりした裸体が夫のほうを向き、両耳をつかんだ。おどけたように歯をむき出し、夫の目の奥をのぞきこんだ。
「それじゃ、うわの空なんだわ。頭と心が一致しないのよ。あなたは頭と心の違いをわかっていないわ”」
”スティーブは自分を責める青い目を見上げ、事実を否定できなくなって再び妻の体を引き寄せた。唇と唇が重なり、彼の顔に黒髪がかぶさった”。　　　（続く）