羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

無痛 1

2015-10-15 19:40:10 | 日記
退院する和枝を迎えにきた為頼は白神の秘書横井に連れられ白神の元へ行った。院内を案内するという。為頼は高価な最新機器に感心し、さらに人気のあまり無い院内に「今は診察時間じゃないんですか?」と何気なく聞いた。「うちの病院では患者さんを待たせないんです」白神は別料金でオプションを付け、利益を得てその利益で医師を多数雇い回転を早め通常料金の一般患者も待たせないシステムで院を経営していた。「どう思われますか?」「あ、素晴らしいと思います」手に負えない患者は白神の病院に紹介するとも為頼は続けた。
「和さん、お待たせしました」白神達を同伴したまま、ロビーで待っていた和枝と合流する為頼。和枝は菜見子と話していた。「お待たせしてすみません」「いえいえ」白神に恐縮する和枝。菜見子は「おはようございます」と為頼に挨拶し、白神に医大時代に為頼を知ったことを軽く話していたが、スマホにサトミからメッセージが入った。『だれ、その人たち?』上階からフードを被ったサトミが見ていた。「あの子、前にもそれでやり取りしてましたね?」為頼達も気付いた。「失礼します」患者の個人情報は話せない為、和やかな会話から一転、菜見子はそそくさとその場を去って行った。
その夜、とあるアパートで高齢の男の胸に刺さった包丁の柄から中年の男が震えながら手を離した。中年の男はちゃぶ台の上の封筒を手に取ると外へ飛び出した。男は転がるように階段を駆け降り、通り掛かった女に激突した。「何?!」男は女に構わず、落とした封筒を拾い、走り去って行った。翌日、ネットで『診断学』を検索し権威として久留米にヒットしていた早瀬は例によって仁川に小言を言われていたが「アパートで殺しですっ!」と電話を受けた太田から聞くと、現場に急行した。
被害者は山田輝久63歳。貧しい暮らしぶりの部屋。
     2に続く

無痛 2

2015-10-15 19:39:58 | 日記
目撃証言から「顔見知りの犯行、とか?」太田が無難に推理したが、早瀬はどうもしっくりこなかった。
診療所に帰宅した為頼と和枝。和枝は早速家事に取り掛かり、為頼は呆れつつ心配もした。と「何、警察?」和枝は早瀬の名刺を見付けた。訳を話すと「あっ、バレちゃった?」案外軽い反応の和枝。為頼もそんなこともあった、ぐらいの様子であった。夜になると山田の部屋から逃げた男が酔っぱらって警察署に現れ、そのまま逮捕された。日が明けて午前、太田が取り調べ、早瀬は端で見ていたが男、工藤一尊はヤケクソの対応を見せた。「どうせなら、金持ちを狙えばよかったんだ」封筒の金は10万、酒とパチンコでもう使ったという。「ふざけんなっ」太田は憤慨していたが、早瀬は冷静に工藤を見ていた。凶器から指紋は出たが、部屋からは出てない。金をどこから取ったか覚えてないという。山田は生前、工藤と親しかったらしいが「箪笥預金の場所なんて教えるか?」取り調べ後、工藤のこれ見よがしの態度を含め早瀬は違和感を持った。
為頼と和枝が熟年夫婦のように昼食を済ませ、午後の診察に備えていると、診療所を開ける前に幼子を抱えた若い母親が現れた。子が腹痛だという。「普通じゃないんです!」為頼は寝かせた子を『診た』。子の腸に注目した為頼。「腸間膜リンパ節炎だと思います」和枝に点滴を指示し「大丈夫だからね」子に語り掛けた為頼はなぜ、夜の内に医者に診せなかったのかと母親に聞いた。「健康保険に入ってないんです」母親はそう答えた。
同じ頃、早瀬は久留米を訪ねていた。「見ただけで病気がわかるって本当ですか?」「知識と経験によって、可能になります」久留米は自身の体験を元に病気の兆候を学習することで判断できるようになったと語った。「為頼先生にも見えるんですね?」
     3に続く

無痛 3

2015-10-15 19:39:45 | 日記
「学生の頃から治るか治らないかも、全てわかったそうです」「直らないってわかったら、どうするんですか?」「どうすることもできません」為頼は無駄な治療や手術を繰り返すことが耐えられず、大学病院を辞めていた。「最後まで患者に寄り添うこと」為頼はそう結論着けたと久留米は話した。「犯罪者を見抜くことができるんですか?」早瀬は話を切り替え、久留米はやや戸惑ったが、棚のノートを取るよう促した。「犯因症?」久留米に示された項を読む早瀬。「人を殺すには大きなエネルギーがいる」そのエネルギー過多が犯因症だという。「強い憎悪」呟く早瀬。それが脳に集中するイメージが為頼には見えている。
「診察台は払えるようになってからで結構です」「ありがとうございました」為頼と和枝は母子を玄関で見送っていると、入れ違いで早瀬が現れた。「この間はどうも。久留米さんに会ってきたんですが、犯因症についても教えて貰いました」「久留米先生が?」「それって殺した後、どうなるんですか?」「人によるよ。個人差はあるけど、数日間残ることが多い」「なるほど、署に来て貰えませんか?」為頼は渋い顔だったが和枝はジェスチャーでOKと合図してきて、OKなの? と困惑した。署に向かい、マジックミラー越しに取調室の工藤を『診る』為頼。「犯因症は出ていない、ただ」「ただ?」「いや、ちょっと病気の兆候が見えただけだ」工藤は殺人者に見えないと為頼は感じた。「強い『憎悪』の感情をあの男には感じない」早瀬も同意した。その『顔』を為頼は『診て』いた。
手際よく午前の診療を終えた白神は看護師の橋本に横井を呼ぶよう言った。「何か私にできることでしたら」「大丈夫、ありがとう」白神はやんわり断っていた。菜見子はSNSでなぜ石川一家を殺した等と言ったのかとサトミに聞き、信じない、できる訳無いと
     4に続く

無痛 4

2015-10-15 19:39:30 | 日記
続けて書き込んだが、サトミは立ち上がり、直接菜見子を暗い顔で見下ろしてきた。
捜査の結果、山田の周囲に怪しい人間は特に無かったが、山田本人の様子が少しおかしかったことと、病院を恨んでいたことは明らかになった。診療所では常連で和枝と友達の血圧の高い女の診察を終えたところに白神が訪ねてきていた。「うん、シンプルでいいですね」診療所を見回す白神。「どうしてこんな所に?」白神は通り魔事件の為頼の正確なトリアージを指摘した。「見ただけでそこまで」答えない為頼。ここで白神は先月までの一年間、白神の病院で亡くなった患者の人数が『6人』であると言い出した。「治癒率の高さは日本一です」だが、調べた結果、亡くなった6人は他の病院から紹介状を持って来院していた。「こちらです。全員、為頼先生が『診て』いた患者です。なぜうちを紹介したんですか?」「大きい病院の治療を望んだので」「まるで、助からないとわかっている患者をうちに送り込んでいるようだ」「何を仰りたいんですか?」対峙する二人。和枝がお茶を淹れた為、居間に移動した。
白神は仕切り直し、サテライトクリニックを増やし、白神の病院を中心に医療網を作っていると話し出した。「為頼先生、うちにいらっしゃいませんか?」港区に作る病院の院長にならないかという白神。「私はただの町医者です」為頼は消極的だった。これに、白神は医療の役割を問うてきた。「患者を苦しめるのは『痛み』です。私が目指しているのは『無痛治療』です」「無痛?」為頼は問い返した。
白神の病院では、来院者とぶつかったイバラが掃除用具等をひっくり返していた。来院者はそのまま去った。「大丈夫ですか?」菜見子が駆け寄る。菜見子に動揺するイバラ。「手、怪我してません?」イバラは気付いてなかったが、倒れた弾みでワゴンに積んでいた
     5に続く

無痛 5

2015-10-15 19:38:59 | 日記
カッターナイフで右手を切っていた。
白神は無痛治療の研究に予算を投じていた。「痛みは人間から、生きる希望を奪ってしまうんです。完全なる『無痛』こそ、私の最終目標なんです」白神が熱弁する中、白神の病院では自分を『手当て』する菜見子をイバラがずっと見ていた。「そんなこと、可能だとお考えですか?」話す最中に常連の患者が来た為、和枝が取り敢えず血圧を計り出した。「研究を続けるには利益を上げ続けることが大事です。だからこそ、うちに来て貰いたいんです」「どうして私に?」白神は常連患者を『診た』だけで症状を言い当て、診療所に来た際に擦れ違った和枝の友達の症状も言い当てた。「そう、私も先生と同じモノが見えるんです」驚く為頼。白神は治らない患者を見捨てていた。「先生も見分けてますよね? 治らない患者ばかりうちに紹介した」「患者が望んだからです。望む人は最後まで看てる」「私も同じです。治らない患者には安らかに逝けるよう最大限努力します。この能力を与えられた者は患者に還元するのが使命ではありませんか?」白神は答えを急がないことを告げ、去って行った。
監察医から山田が肺気腫を患っていたことを聞き出した早瀬は工藤が主張したパチンコ屋や呑み屋にその形跡が無いことを太田から報告されていた。日が落ちてから、早瀬はまた診療所を訪れた。肺気腫は苦しいモノだと為頼から聞く早瀬。山田は金が無く、行った病院で相手にされなかったという。その病院についてきてくれと早瀬は頼んできた。「そんな便利使いされても」「お願いしますよ、先生もよく知ってる病院だし」白神の病院だった。
山田を追い払った事務員に犯因症は見えなかったが対応に非が無いと主張してきた。「白神院長に相談したら、別の対応をしたと思います」為頼はそう訴えても
     6に続く