羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 1

2015-10-03 21:59:36 | 日記
「獣の槍、獣の槍が我を探すわ。白面の者と呼ばれる我を」深海で暗い目をしていた。「長い年月、我はここに眠ってきた」岩壁に張り付くようにしている白面。「だが、目覚めの日は近い。感じるぞ、獣の槍。あの槍が妖怪を殺す度に、俺の体が疼くのだ! 獣の槍を破壊しろっ!」白面は尾から毛とも線虫ともつかないモノを出した。それは目と耳を持つモノに変化し、「獣の槍を探せッ!」白面の命に従い、海面へと浮上して行った。無数に!!
霧立ち込めるフェリーターミナルから出てきた潮は槍をを手に、伸びをした。「ついに来たぜ北海道。長かったなぁ」「おめぇ毎度毎度ロクでもねぇことに首を突っ込むからだ」「うっせーなぁ」軽く憑いてるとらと揉めつつ、宿を探して霧の町へ歩いてゆく潮。その後方に大型バイクが停まり、乗り手が潮達の後ろ姿を見ていた。
そのまま霧の中、歩き続けた潮は町を抜けて月明かりに照らされた平原に出てしまった。「ええ?」「何やってんだ?」呆れるとら。「しょうがねぇだろ?!」「たくっ、どうしようもねぇなぁッ!」また揉めていると、霧の中から学生服姿の短髪の女が現れた。「人か?」潮が女に戸惑っていると、背後からただならぬ妖気を感じた。「発見! 発見ッ!!」自動車並みに大型化し、口を出し、蜘蛛のように変化した白面の使いだった。「潮!」「おうっ!」構える二人。「獣の槍ぃいいッ!!」喰い付いてきた使い魔を槍で受ける潮。「何だ?」正体がわからない潮。と、さっきの女が両手に持った『櫛』に念を込め、使い魔を打ち据えた。頭部が割れる。これにとらは姿を消した。
「金克木! 汝、木気の化生を克す也ッ!」女が気合いと共に櫛を振るうと使い魔は爆散して滅っせられた。「白面の者が放った婢妖か」呟く女。「何? 何だ?」「蒼月潮か?」「そうだけど?」
     2に続く

うしおととら 2

2015-10-03 21:59:27 | 日記
「こんな子供が、獣の槍をっ」「何だよ姉ちゃん、人を子供子供って」潮の頬を張る女。「君が持ってるその槍が、どれだけ重要な槍か、知ってるの?! 光覇明宗がいかにその槍を守ってきたか、槍を持つ為に私達がどれだけ苦労してきたか、知ってる?!」「何言ってるんだよいきなりっ?」ため息をつく女。「私は獣の槍伝承候補者の一人、関守日輪! その槍を渡しなさい」手を差し出す日輪。「何で?」「君は様々な化け物と戦ってきた。でも、その槍のおかげで戦えたに過ぎない。もし君が私のように修行を積み、槍の声を聞けて、もっと極めていれば、数々の惨状は避けられたはず」実際潮は多くの人々を救えず、十郎も救えず、妖怪との争いに周囲を巻き込みもしてきた。
「そして、君の一番の間違いは槍が射抜き止めていた凶悪なあの妖怪を倒そうとしないことよ! なぜよっ? なぜ妖怪と暮らすの?!」「それは」答えられない潮。日輪は槍の柄を、掴んだ。渡さない潮。「離しなさいっ、君が使えば、また君のせいで悲劇が起きる!」潮は、槍を、手離した。「ついに手にしたわ、伝説の槍! さぞ憎いでしょうね? いいわよ殴っても」「女が殴れるかっ」何かカンに障った様子の日輪。「遠慮しなくていいのよ? どうせ君は渡しに触れもしない。私との違いを教えてあげるわぁっ!」日輪は殴り掛かってきた。足を払い、膝蹴りを打ち込む日輪。「うわっ!」「これが、振り回された私達の恨みよ」一方的に言い放ち、上空を見上げる日輪。「来たわね婢妖。今度は私が、私がこの槍と共に有るんだから!」日輪は駆け去って行った。
潮が何とか起き上がると、とらが笑いながら姿を表した。「やたっ! 潮が槍を手離した! いただきぃいいっ!!」かぶり付こうとするとら。だが、「はあああああああ」魂が抜けたような潮にズッコケた。「潮! てめっ、
     3に続く

うしおととら 3

2015-10-03 21:59:17 | 日記
シャキッとしろよシャキッとよ! 抵抗しなけりゃとワシ、張り合いがねぇだろかよっ」「はあああああああ」あくまで覇気の無い潮にとらはまたズッコケてそこらを転がった。「はっ?」潮は上空を飛んでゆく婢妖の群れに気付いた。「あれ? 俺を襲ってこない?!」婢妖は潮もとらも無視した。(そうか、獣の槍を追ってんだ。もう俺には関係ねぇんだ)「いや、関係無くは無いぞ! 獣の槍は何度となく俺を助けてくれた。だからせめて、せめて!」潮は拳を握りしめた。
「獣の槍だぁああ、滅ぼせぇええ!!」日輪の前で、無数の婢妖は合体し、巨大な顔の化け物に変化していた。「無駄よっ! 獣の槍が有るんだから!! 力を示せ! 獣の槍っ!」槍を構える日輪。「人の魂を削りながら、邪を裂き鬼を突く槍よ、私の魂を使え!!」沈黙する槍。「どうした? 獣の槍?!」巨大化婢妖は触手の刺で日輪を攻撃してきた。一方的に傷付けられ、服が破かれだす日輪。服が破かれだす日輪っ!「壊せ! 壊せ! 獣の槍を破壊しろぉおおッ!!」小型の婢妖が槍に纏わり付きだす。「下がれっ、ゲスどもッ! 槍よ、なぜ応えぬ?!」日輪はやむなく櫛を取り出したが触手のようになった小型婢妖に腕を取られ、取り落とした。
全身にも絡み付き締め上げる婢妖。「あっ、ぐぅうううっ!!」「獣の槍を使う人間ッ! 死ねぇえあああ!!」「槍よ応えてくれっ、妖怪を討つ為の槍じゃないのか?!」縛られたまま、強引に槍を構える日輪。大婢妖は口の触手刺を放った。「槍よっ!!」悲鳴のように叫ぶ日輪。触手刺が迫る。その時、潮が後ろから槍の柄を掴み、日輪を縛る小型婢妖と大婢妖の触手刺を槍の力で打ち払った!!「ぐぅあはあああッ?!」絶叫する大婢妖。槍は鳴り、潮は変化した。「白面の者の使いよ、会いたかったぜ!」「獣の槍、使う者、殺すッ!!」
     4に続く

うしおととら 4

2015-10-03 21:59:04 | 日記
触手刺を撃つ大婢妖。「うりゃああっ!」跳び立つ潮。槍の柄は日輪の手からするり、と抜けていった。触手を斬ってゆく潮。「お前のご主人にゃ、聞きてぇことがいっぱいあるんだ! 何で普通の中学生の俺が、おめぇとやり合うハメになったのかとかよぉッ!!」大婢妖を縦に二つに割る潮! 茫然とそれを見ている日輪。「ぎゃびぃいいッ!!」まだ滅びない大婢妖は触手で潮を払い落とした。「どいつもこいつも槍、槍ってぇえっ!」即、起き上がって飛び掛かる潮。「俺だって好きでこの槍使ってる訳じゃねぇやぁあっ!」ハッとする日輪。
次々触手を斬る潮。「恐るべき、獣の槍!」地中から小型婢妖が吹き出し、再び日輪を縛り上げた。「だが、使うのは人間よッ!」気を取られる潮。大婢妖は笑った。「獣の槍を離せ! 人間はこんな手に弱いなぁ。御主人様の教えよっ」「うわあぁっ」呻く日輪。「そうかい、じゃあ離してやらぁッ!!」潮は中空から日輪に槍を投げ付けた。驚く大婢妖。槍は日輪の眼前を裂くように地に突き立ち、小型婢妖と日輪の服の前面を真っ二つにした! ピスタチオの如し!!! 代わりに潮が大婢妖の触手に捕まった。日野のスカートと、なぜか? 下着も地に落ちた。「愚か者! 槍を捨てて勝てると思ったか?!」変化が解ける潮。「あーあ、ホント馬鹿なぁっ。槍無しでどおするつもりだよぉ?」とらが日輪の横に現れた。
「あいつはいつもああだ。ワシを面倒に巻き込むんだ。全く、人間どもの言葉で言やぁ」飛び出すとら。「ムカツク! てっぺんきたっ! 血管キレるぜぇ!!」「とらっ!」「ほらなぁ! その待っていたような目!! そしてお前の期待通りのことをしちまう、ワシが嫌なんだよぉおっ!! くそったれぇっ!」とらは潮を縛る触手を引き裂いた!「ひぃいいっ!」悲鳴を上げる大婢妖に喰い付き、そのまま喰い千切るとら。
     5に続く

うしおととら 5

2015-10-03 21:58:53 | 日記
「ほらぁ! さっさとやっつけちまいなっ!」「おうっ、槍よ来い!」落下する潮は高速で飛来した槍を掴み、その勢いのまま大婢妖に突進しつつ変化した。「婢妖つったか? 主人に伝えろ! 俺はどんなことがあっても、お前の所に行ってやるとなぁああっ!!」潮は振りかぶって大婢妖を横に叩き斬った。二つに割れた大婢妖は内側から沸騰したようになり、光って爆散した! 逃れられた婢妖達は飛び去って行った。
潮が着地すると、日輪はスカートを含め、制服を前で着物のように結び直していた。潮は拾った日輪の櫛で、乱れた日輪の髪をすこうとしたが、「何だ?!」日輪はギョッとして戦う構えを取った。「櫛だよ、櫛! この櫛、大事何だろ?」櫛を渡す潮。「念を集める為の道具よ。別にどうってことないわ」「俺も持ってるんだぜ?」潮は母の櫛を差し出した。「母ちゃんのなんだ。よくわかんないだけどさ、女の人の櫛はやっぱり頭に使った方が似合うよね?」「ふんっ! いらぬお世話よっ」少し顔を赤らめた日輪。
「俺、母ちゃんの秘密を知る為に旭川まで行かなきゃならないんだ。その為にはこの槍はまだ持っていたい。でも、あんたが必要なら」「いいわ!」「え?」「まだ君に預けといてあげる! でも忘れないで、私が槍を使えない訳じゃない。時間が必要だっただけだわ! いつか返して貰いにゆくわ、せいぜい大事にすることね」「あーあ、ぎゃんぎゃん、うるせぇ女だなぁ」近くでうんざりしているとら。「変な妖怪も、その時まで生かしといてあげる!」「チッ、変な妖怪だとぉ?」「他の獣の槍伝承候補者も動き出してるはずよ!」日輪は警告し、去って行った。
騒動後、食堂で旨そうな定食を食べ、牧場から海を見る潮。「槍よ、お前を欲しがってるヤツがいっぱいいるんだってよぉ。俺よりお前を上手く使えるらしいぜ?」
     6に続く