羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 1

2015-10-17 21:05:25 | 日記
崖から落下した悟は潮の投げた槍に衣を縫い止められ、引き上げられたが意識は取り戻さない。「お兄ちゃん、どうして」純は泣いていた。「流の兄ちゃん、男って一生の内に何人の女の子の涙を止めてやれるんだろうな?」「蒼月、お前」「婢妖をぶっ倒てくるよ!」「てめぇっ! どうなるのかわかってんのか?!」潮は流を真っ直ぐ見据えた。「わかってるよ。そんなこと言ってもよっ、泣いてんじゃねぇか! あの涙見てると、ここんとこがギュウっと苦しいんだよ」自分の胸を押さえる潮。
「聞いちゃいらんねぇ、行かせねぇぞっ!」流は錫杖で打ち掛かった。振り下ろされる錫杖! それは潮の目の前で寸止めされた。潮は全く動じなかった。「待ってる奴もいるんだろうがっ」表情を変えない潮。「ケッ、やーめた。勝手に妖怪にでも何でもなっちまえ」錫杖を引き「俺がダメになったらこの槍」「やだねぇ! 俺はお古は使わねぇポリシーよ」流は背を向けた。
「ほっとけばいいのによぉ」バイクのミラーに雲外鏡が顔を出した。事態を見越した長から案内役を使わされていた。「送るぞ」雲外鏡はバイクのミラーから小さなイズナを送ってきた。「おめぇかぁ? 人間の癖に人間に憑きたいっていう馬鹿は? 俺はイズナでぇ」「俺の名前は」「うるせぇ! 人間の名前なんて誰が聞きてぇかっ」イズナは人に憑くことに特化しているという。「グズグズしてんじゃねぇ!」さっさと悟の体の中に入ろうとするイズナをとらが指で弾いた。「んがっ?!」「イズナかよ」「な、長飛び丸。やるかぁ?! は、話に聞いてた程じゃねぇなぁ!」ビビりつつ、構えるイズナ。
とらは相手にしなかった。「行くのかよ?」潮と向き合うとら。「悪ぃなとら、喰われてやれなくてよっ」潮はとらを通り過ぎ、イズナと共に駆けてゆこうとした。
     2に続く

うしおととら 2

2015-10-17 21:05:16 | 日記
とらは後ろ向きに跳び、追い付いてきた。「とら?! 何する気だよっ?!」「うるせぇ! ここまできて喰えんなんて、気が収まんねぇ! だからついてってぇ、化けモンに変わり始めたら喰ってやらぁっ!」潮は変化した。「クソッタレ! どこまでもついて来いやっ、とら!!」潮達は悟へと駆け寄った。「姉ちゃん! これから凄く跳ねるんだってよ。しっかり押さえててくれよ? 頼むなっ! 必ず兄貴に、『ありがとう』を言わせてやる!!」潮は純に言って、イズナに導かれ、悟の指の爪から体の中に入って行った。
「ほら、人間っ! 目開けなっ」イズナに呼ばれ、潮が気付くと純の手の中にいた。骨や筋や血管、皮が見える。それ以外の部分な『無い』ように見え、奇妙なトンネルの中にいるようだった。「これから脳へ行くんだ、遅れんな? ほれ、お客が来るぞ!」婢妖ベースの下等な妖怪の大群が迫ってきた。「例え妖怪になったって! 最後まで闘ってやるぅッ!!」潮はとらと達と共に大群を蹴散らし、心臓に迫った。と、心臓に憑いた妖怪に血管触手を放たれ、潮達は捕らえられた。
この衝撃に悟の体は大きく跳ねた。純と流と僧達は悟の体を押さえた。「蒼月は兄さんをどうするつもりよ?!」「こいつは助かる」「秋葉、何で言い切れるのよ?!」「純、その気も無えのに突然手に入っちまった槍に魅入られて、化け物と闘うハメになっちまった普通の中学生の気持ちって、考えたことあるか? そんな槍なんぞほっときゃいいんだよ。500年ぶりに甦った妖怪だって知ったこっちゃねぇ、白面の者がどうした? 好きにさせりゃいいんだよ! 妖怪に人が襲われて死のうが、自分が痛い訳じゃねぇ。みんな忘れて楽しく暮らせば、槍を守る連中に泥棒呼ばわりされることもねぇ! だけどあいつはそうしねぇ、ダチをガキを、女を守る為に闘う。
     3に続く

うしおととら 3

2015-10-17 21:05:04 | 日記
体がイカれてもイカれても、立ち上がってよっ! 蒼月が槍に魂をくれてでも杜綱を助けようとしてんだ! 助けられねぇ訳がねぇ!!」「魂を?」「あいつはそういう男だよ」流は悟を押さえながら言った。
短気を起こしたとらが電撃で血管触手を引き千切ろうとした。悟が激しく痙攣する。「これ以上の電撃はダメだ!」潮がとらを止めていると、槍が鳴り出し「よし、行けっ!」潮の指示に従い、槍は心臓の妖怪に自動で飛び付いて襲い掛かり、顔面を突き刺した。「がぁあああッ!!」絶叫し、妖怪の血管触手が緩まると、抜け出した潮は「出て行けぇえッ!」刺さったままの槍の柄を掴み押し、そのまま心臓から引き剥がし、槍の先端ごと体外に吹っ飛ばし滅した。
槍を体内に戻すと、潮の体に異変が起こり始めた。「うわっ?! んぐぅううっ」右腕から獣の毛のようなモノが生え出し、うねる。苦しむ潮。(今か? ワシは確かに言った! 『獣』になる前にお前を喰らってやるとなぁ! それが今か?!)構えるとら。だが動けない。「よお、どうしたい? 喰わねぇのかい?」イズナがけしかけてくる。「何やってる?! 上に行くんだろっ?!」持ち直した潮は先へ駆けて行った。「何だよっ、せっかく喰えると思ったのによぉ!」笑うイズナ。「今、お前、ほっとしたろぅ?」「そんなことねぇぞ、こらぁっ!」イズナは笑って先へ駆け、とらも怒りながら続いた。
脊髄を伝って脳へ向かう潮達。前方で、下等妖怪のさらなる大群が渦を巻いていた。(獣の槍よ、もう腹決めたぜ。力を貸せ!)突進する潮。体外では、悟が純達を吹っ飛ばし、起き上がっていた。念で流達の動きを封じる悟。片目から婢妖が顔を出す。純は悟に抱き付いた。「離せ!」念で腹を打たれる純はそれでも腕にすがり付いた。「あいつ、あたしに言ったもの、お兄ちゃんを押さえててくれって!」念を純の腹に打つ悟。
     4に続く

うしおととら 4

2015-10-17 21:04:55 | 日記
「お兄ちゃんのこと、あいつのせいにしてた! それなのに、死ぬかもしれないのにっ。蒼月君、ごめん!!」純は念を悟の体内に送った。下等妖怪に締め上げられていた潮は力を取り戻し、回転しながら周囲の下等妖怪を纏めて斬り払い始めた。「うぉおおおおッ!!!」下等妖怪達は一気に悟の体から弾き出され、滅された。
代償に、両腕から獣の毛が生え出し、うねり、苦しむ潮。「何でだ? 何でお前はそんなに闘うんだ? 命が惜しくねぇのか? 怖くねぇのかよ?」イズナは潮に問うた。「今まで獣の槍のおかげで闘ってきた俺のよ、清算日が来たらしいのよ。俺は俺がどうなのか? 試してみてぇのよ」「どうって?」「ここで、命惜しさに降りちゃ、マジで獣みてぇじゃねぇか!」笑ってイズナを振り返る潮。とらも見ていた。ここで、すぐ先の脳から、下等妖怪を矢に変えたモノが飛来し、とらとイズナを射抜いた! 脳に弓を持つ、頭巾に僧衣の妖怪がいた。「よく来たな! 私は血袴!!」「そうかい!」潮は薙刀に持ち変えた血袴と斬り結んだ。
(こいつ、強いっ!)押し切れない潮。「なぜ白面の御方に敵す?」「俺はただ、母ちゃんの秘密ってやつが知りてぇだけだ。お前らが勝手に襲ってくるだけだろうが?! 直接恨みなんか無ぇやっ! 白面の者ってのは、何をしようってんだ?!」「手向けとして御姿を見せてやろうっ」血袴は全身から妖気を出し、白面の幻像を浮き上がらせた。「殺せ。滅ぼせ。人を、生き物を、化け者を! 我は世の悪。世の陰の気の塊也ッ!」(力がっ)白面の暗い目を見てしまう潮。(まるで、勝てる気が)膝をつく潮。
「我が主の偉大さが、わかったかぁ?!」血袴は薙刀で潮を突き殺そうとした。その刃をイズナが体で受け、尻尾を絡め、刃を砕いた。潮の前に砕いた刃が刺さったまま落ちてくるイズナ。「イズナ!」
     5に続く

うしおととら 5

2015-10-17 21:04:46 | 日記
潮はイズナに刺さった刃を抜き、飛び退いた。「お前にずっと、会ってみたかったのよ。長や皆が言うみてぇに、おめぇがスゲェ奴かどうか、見たくてよ。見てみな、俺達はこの人間の目の近くにいる」目から、純の姿が見えた。「あの女の為に来たんだろう? だったら、あんなのにビビってんじゃねーよっ。順番ってのがあるだろう? ボスは後よ、へへっ」イズナは笑った。
「邪魔が入ったかっ、去ねぇいッ!!」血袴は太刀で斬り掛かってきたが、潮は槍で受けた。「恨みは無ぇって言ったけど、ありゃ間違いだ! 目的の為で他の人間を巻き込み、操り、殺し合いをさせる! そんな奴をっ、許せる訳無ぇだろうッ!!」血袴に打ち掛かる潮。とらは電撃でようやく多数刺さった妖怪矢を滅した。「ぬかったぜ」「長飛び丸、外の人間に協力させろ」「あ?」倒れたまま、イズナはとらに助言した。体外で、不意に婢妖の目が収まり、とらの声が響き始めた。
「外の女、潮とこの男を助けたかったら、言う通りにしろ」「どうすれば?」「お前はどうやら、化け者を討つ力を出せるらしい。この男の目からいれろ!」純に伝えたとらは苦戦したいた潮に合流し「誘き出すぞ」「よしっ!」潮と共に『目』に向かった。「待てぃ!」追ってくる血袴。体外では純が川で禊をしていた。流と僧達も悟を支えつつ『見守って』いる!「わぁーっ、助けてくれぇっ!」気の抜けた感じで逃げてみせるとら。「わざとらしいなぁ」呆れる潮。「うるせぇ!」二人は目に飛び込んだ。「無駄なことをっ、ん?」追ってきて、状況に気付く血袴。裸の純が悟の目を見ていた。「女の力で殺すつもりかぁ?!」血袴は目から逃れようとしたが、飛び込んできたイズナの尾に捕らえられ、押し戻された。「逃がさねぇ!」「貴様ぁッ!!」「一緒に行こうぜっ?!」「一緒にって?」目から出ようとしていた
     6に続く