羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 5

2015-12-12 22:07:34 | 日記
「ありがとう、でも泥だらけに」「大事なんだろ、それ」「うん」「なら、泥なんてなんだいっ!」子供の潮は子供の真由子にそう言って去って行った。「なんか、とっても嬉しかった。私も、潮君みたいになれたらなぁって」「その話と他のヤツの為に貧乏クジ引きたがるおめぇみたいなヤツらと何か関係があるのかよ?」ピンとこないとら。「きっと、その人達、泥に汚れちゃうより大事なこと、あったんじゃないかなぁ」考えるとら。「さっきの続き!」また結婚式の真似事を始める真由子。「井上真由子、汝病める時も健やかなる時も、この者を愛することを誓いますか? って、真由子よ、真由子! はい、誓いますって私が言うでしょ? とら、死が二人を別つまで、この者を愛しますか?」答えないとら。「はい、はぁっ?!」泣く真由子。
「アホくさくてやってられっかよぉっ!!」とらが拒否していると、タユラの破片が襲い掛かってきた。真由子を庇うとら。「我々の質問にこたえよ」破片が集まりつつあるタユラと、その隣のナドカ。「蛇、蟇かよッ!」とらが言うと共に、それぞれ正体を現すタユラとナドカ。とらの電撃はタユラの破片で弾かれ、とらの逆立てた髪はナドカの舌で縛られて防がれた。上階で爆発が起こり、瓦礫が吹抜を落ちてくると下階の人々は慌てて逃れて行った。とらは真由子を抱え、下階まで降下してきて吹抜のから横のフロアにガラスを割って突っ込んで行った。
「どこだぁ? 化け物と娘?!」蟇顔のナドカが蛇のタユラに乗って降りてきた。「二人一組の攻撃は厄介だぜ」棚に隠れていたとらと真由子。「とらちゃん、私に考えがあるの」真由子は抱えられたまま話し出した。タユラとナドカに棚を見付けられると、とらは棚を開けてると同時に電撃を放ち、真由子の姿で真由子と飛び出し、二手に別れて走った。二人とも同じ、とらの毛を編んだらしい服の
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うしおととら 6

2015-12-12 22:07:24 | 日記
姿になっていた。「我々を分けるつもりか? ならば乗ってやろう!」ナドカはいい、タユラとナドカはそれぞれ別の真由子を追い始めた。「我々の質問を答えよッ!」追いながら問うタユラ。片方の真由子は壁際に追い詰められた。「答えよ」恐れる真由子。タユラの顔から複数の蛇が出る。「満足する死とは、なんだ?」タユラの顔は白髪の人間の男の顔に戻っていた。その顔を、右手の変化を解いて殴り付けるとら。「バーカ、知らねぇよッ!」腕だけ変化を解いた姿で不敵に笑うとら。
吹抜に通された渡り廊下に駆け込んだ本物の真由子は目の前の通路が下等な妖怪の群れに塞がれているのに気付いた。他の客も立ち往生している。「娘よ、我々を納得させる答えを言えなければ、この廊下を壊してしまうよ」来た通路に立つ再び人面に戻ったナドカ。背後は下等妖怪の群れで塞いでいた。すぐには答えられない真由子。「やはりお前もダメか」蛭舌で絡め取り、真由子を引き寄せるナドカ。「そんな脳ミソいらんなぁ」脳を啜ろうとしていると「助けてくれ! ナドカっ!」頭上から、とらに黒焦げにされたタユラが逃れてきた。「とらちゃん!」タユラは渡り廊下のガラス天井に落とされた。「我は今、忙しいのだ」とらは天井にタユラの顔をめり込ませ、ガラスを少し割った。
「助けねぇのか?」問うとら。「なぜ、そんなことをしなければならんのだ?」むしろ戸惑うナドカ。「そうだろうなぁ、化け物はそう考えるよなぁッ!!」掴んだままタユラに電撃を撃ち込むとら。「ぎゃあああッ!!」絶叫するタユラ。天井の辺りが爆発する。タユラは消し炭になっても逃れようともがいたが、崩れて滅びていった。爆発で廊下の中央の底が抜け、一人の会社員が縁に掴まったまま吊るされた形になった。「助けてくれぇ!」「ケッ、ノロマがぁっ、おいっ女、とっとと逃げろ」
     7に続く

うしおととら 7

2015-12-12 22:07:14 | 日記
ナドカと対峙して構わないとら。真由子は会社員に近付き腕を取ると引き上げようとした。「オイッ、何やってんだよ?!」困惑するとら。他に二人、居合わせた者も手伝って会社員を引き上げた。「自分よりも他のヤツの痛さが気にかかる、変な性格らしい」とらの言葉を聞いたナドカは舌で真由子を絡め、吊り上げた。一瞬で大穴の空いた天井の縁に移動していたナドカ。「この娘が我々の答えなのかもな。それなら尚更脳ミソが喰いたいわぁッ!」真由子がいる為に下手に手を出せないとら。真由子はとらを見ていた。(いつもいつも、私を助けてくれた。だったら、今度はっ!)真由子は剥き出しになっていた鉄骨にしがみ付いた。
「オバケ、質問に答えるわ。泥なんて」真由子は鉄骨を蹴って、下階に向けて勢いよく飛び込んだ。引っ張られて真由子と共に落下し始めるナドカ。「なんだいっ、よ!!!」(この娘、自分から死を?! ああ、そうか。タユラよ、わかったぞ。本当に愚かだったのは)追い付いたとらに頭を掴まれたナドカはそのまま首を引き千切られた。(我々だぁ)ナドカは静かにタユラに語り掛け、影の様になって滅びていった。(この女、何を勘違いしてやがるっ。ワシはおめぇを喰いてぇから助けたんだぜ?)中空で気絶した真由子を受け止め(愚かモンがぁっ!)下階の床を叩き割りながら、とらは着地した。
夜、とらは芙玄寺の山門の前に真由子を運んでいた。目覚める真由子。「とらちゃん、オバケは?」「ワシがぶっ殺してやったぜ」「また助けてもらっちゃったねぇ!」笑って抱き付く真由子。「おいっ、とらぁっ!」「真由子ぉ!」槍を持った潮と麻子も山門の前まで出てきた。麻子の料理で腹痛も治ったらしい潮が、とらの毛の服を着ている真由子を見て何した?! と槍で凄んできた為、上空に逃げたとら。「おいっ、ま、真、由、子」
     8に続く

うしおととら 8

2015-12-12 22:07:03 | 日記
呼ばれて驚く真由子。「はい」「あの誓いっての、覚えてるか?」結婚式の真似を思い出す真由子。「うん」(けっ、誓ってやらぁ。おめぇが喰えるんならいくらでもっ)「誓ってやるぜ!」とらは飛び去った。(井上真由子、中学二年生、図書委員長。趣味、読書、ペナント集め。好きな食べ物、唐揚げ。好きな色、薄い桜色。そして、そして、とらっ!!)真由子は笑った。
・・・本当に『別つまで』なんだよねぇ。冒頭の識者の吸われっぷりと、やたらすぐ吸おうとするナドカの行動パターンは中々面白いヤツだった。タユラの方はちょっと人に近い思考に寄りつつあった感じであっても、答えを聞くのはじゃない方のナドカなところもほろ苦いよね。間違えた奴ららしい終わり方だ。