猿田毘古神を送りて、【還り到りて】、悉(ことごと)に【鰭(はた)の広物、鰭の狭物】を追ひあつめて「汝は天つ神の御子に【仕へ奉らむや】」と問言(とひ)し時、諸の魚皆「仕へ奉らむ」とまおす中に
【海鼠(こ)】まおさざりき
天宇受売命「海鼠のこの口、つひに答へぬ口」と謂ひて、紐小刀もちてその口をきさき
故、今に海鼠の口きくるなり。これをもちて【御世島】の【速贄(はやにへ)】献る時、猿女君等に給ふなり
★還り到りて
本拠の伊勢
★鰭(はた)の広物、鰭の狭物
ヒレの広い魚と狭い魚
大小の魚
★仕へ奉らむや
御供え物の魚として奉仕するか
★海鼠
なまこ
なまこが取り上げられたのは、その異様な形態に対する特別な関心と、宮廷に貢納、珍重されたことによる
★御世島
志摩
★速贄(はやにへ)
はや→季節の初期
にへ→神に献上する食料品。この場合は海産物
志摩を御饌(みけ)つ国と呼ぶ
■天宇受売命は猿田毘古神をその鎮座すべき地に送って、伊勢国に帰りつくと、すぐ大小の魚をすべて集めて「おまえたちは天つ神の御子に御饌料(みけしろ)として仕えるか」と尋ねた
多くの魚は皆「お仕えしましょう」と言ったが、その中でナマコだけは何も言わなかった。それを見た天宇受命は「ナマコの口は、とうとう何も答えない口だ」と言って、紐小刀でその口を裂いてしまった
これによって、今に至るまでナマコの口は裂けているのである。
こうゆう次第で歴代、志摩から初物の御饌料(みけしろ)を朝廷に貢進する時には、猿女たちに下されるのである