【1296年日蓮が駿河国・実相寺にて執筆し鎌倉幕府事実上最高権力者・北条時頼に提出した手紙。当時は地震、暴風雨、飢饉、疾病が続いた】
近年より近日に至るまでの天変地異、飢饉、流行り病は天下に充ち、人々を死に招く
ある者は阿彌陀佛の名を唱え
ある者は東方如来の経を唱え
ある者は法華真実の経を唱え
あるいは七難即滅七福即生を信じて百座百講の儀式を行い
あるいは秘密真言の教えによって五升の水をそそぎ
あるいは座禅入定の儀をまっとうし空観の心となり
もしくは七鬼神の名を書して門に張り
もしくは五大力の形を描いて戸にかけ
もしくは天神地祇を拝して四角四界の祭祀を行い
もしくは万民百姓を哀れんで国主徳政を行う
しかし、いよいよ飢饉・疫病にせめられた貧しき者はあふれ、臥せる屍は路に充ちる
この世が、このように衰え廃れていくのは、これ如何なる禍により、これ如何なる誤りによるか
出家して道に入る者は、法によって仏を期待する。しかし今神術もかなわず、仏威も験(しるし)なし
今の世を具(つぶさ)に見ると、愚かな故に疑いの思いを起こしている。恨みを呑み、うらおもいを深くしている。世はみな正に背き、人ことごとく悪に帰す。故に善神は国を捨てて去り、聖人は所を辞して還らず。これをもって魔が来、鬼が来、災起こり、難起こる
世の人々はみだりに邪説を信じて正教を弁えず。故に諸仏、捨離の心生じて擁護の志なし。よって善神聖人国を捨て、去る。これをもって悪鬼災いを成し難を致す
【仁王経】「諸の悪比丘多く、名利を求め、国王の前に於いて、自ら破仏法の因縁・破国の因縁を説く。国王わきまえずして此の言葉を信じて、邪に法制を作る。これを破仏・破国の因縁となす」
【法華経】「悪世の中の比丘は邪智にして慢の心充満す。あるいは自らだけが真の道を行していると思い、人間を軽賎す。乃至常に大衆の中に在って我ら法華経行者を誹謗中傷しようと欲し、国王及び比丘衆に向かって法華経行者の悪口を言い、悪を説く。これ『邪見人の論議を説く』と言う。悪鬼その身の中に入り我ら法華経行者をいっそう憎みたたく」
【涅槃経】「正法滅して後、像法の中に於いて比丘あるが、少し経を読誦し、飲食を楽しみ、その身を保養し、外には賢善を現し、内には貧嫉を懐く、実は沙門にあらずして沙門の像を現し邪見強情にして正法を誹謗する」
経文について世を見ると、誠にもって然りなり。悪僧侶をいましめなければ、善事を成さん