2013年6月3日
半年ほど前になるが、Uから一緒に場所を借りてスタジオをつくらないか、さそわれた。どこに、どのようなものになるのかは、そのときはあまり決まっていなかった。
Uの中では、いろいろと条件があったのだろうし、彼は彫刻家だから、ものを切ったり削ったりできるような場所をのぞんでいた。
その点ぼくはとくに場所のことについて、どのようなこだわりがあるわけでもなかった。しいてあげてば格安でさえすればよかったわけだ。
したがってUはとても熱心に、望みどおりの場所を探してくれた。川ぞいのガレージや、仕事場近くの物件など、ひとつづつ回っていたようだ。
守口、東郷通の工場長屋を見つけてくれたのもやはりUで、ぼくを呼んで、ようやくそこにおちつくことになった。
群青
長屋の一室を借り、アトリエにしつらえる作業をした。五年ほど空いていたという部屋にはほこりがつもり、前使用者のものであろう鉄くずが、隙間を埋めていた。
床をぬり、壁を張り、パネルや木材を運び入れた。
その作業は、しばらく絵を描いていなかったぼくにとってリハビリのようなものになった。
床をぬりながら、ふとこれは床であり、絵画ではないのだろうかと思った。
ここで絵を描くために動かされていることもなんとも言えずただただ絵画のことであって、それがすべてだった。
のくの気づかないうちに、ぼくは絵画につつまれていたようであり、それはとてもしあわせなことなのだった。
人生には意味なんてないと、まじめに感じていたときもあったが、床をぬる前からぼくを動かしてきたものは絵である。
夏になる。いささか飛ぶ虫の多すぎる部屋で絵を描き、考え、文章をかさね、色を作っている。はてない手仕事の海が広がっていて、ぼくはそれをやりつづける。
遠ざかっていた絵画の仕事が、またここから始まった。