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http://8044.teacup.com/miurat/bbs/1989
の続きです。(対象問題は簡略化してあります)
2つのサイコロがある。一つは普通のサイコロ、もう一つは6つの面すべてが6の目であるサイコロである。その2つのサイコロのうち一つをランダムに選び、振ったところ、6の目が出た。
さて、次の2つの仮説のうち、どちらが正しそうか。
仮説① 選ばれたサイコロは普通のサイコロである。
仮説② 選ばれたサイコロは全面6の目のサイコロである。
…………………………
以上の問題を「問題K」と呼びます。……★
問題Kでは、ふつう、仮説②が仮説①の6倍正しそうだと仮説検定されます。
「6の目が出た」というデータをEとして、
P(E|①)=1/6
P(E|②)=1 より、
P(②|E)/P(①|E)=(P(E|②)/P(E|①))×(P(②)/P(①))
=6P(②)/P(①) となるからです。
ところが、それ以前に、「出題者が問題Kを出そうと意図した」という事実が自ずと判明していることを思い出しましょう。これをデータJとします。
すると、6の目以外が出た場合には出題が成り立たないので、出題が成立しているということは
P(E|J)=1 であり、…………▼
当然、Jと矛盾しない任意のXについて P(E|X∧J)=1 ですから、
P(E|①∧J)=1
P(E|②∧J)=1
となります。
つまり①②の仮説検定をするさいにEの証拠価値がなくなります。
問われているのは、単なる①と②ではなく、①∧Jと②∧Jのはずです。……◆
問われなかった事態については解答者の知ったことではなく、あくまで問題Kが問われた場合に解答すればよいのは自明だからです。
しかし、このような考えは、常識的な確率問題を成立不能にしてしまいます。
解決策は、主に2通り考えられます。
1: ★を一般的に解釈する。(=▼の否定)
問題Kというのは、6の目が出なくても成立したと考えるやり方です。つまり、事態は次のようでもありえたとするのです。
「振ったところ、3の目が出た。
さて、次の2つの仮説のうち、どちらが正しそうか。
仮説① 選ばれたサイコロは普通のサイコロである。
仮説② 選ばれたサイコロは全面6の目のサイコロである。」
という問題でもありえた、と考えるのです。それも同じ問題Kなのであると。したがって、問題Kを問おうという出題者の意図Jは、
P(E|J)=1 を含意しないことになります。これは▼の否定です。
この方策は、しかし、うまくいきません。問題Kのうちなぜよりによって「6の目が出た」というバージョンに自分が当たったのか、という謎に解答者は直面するからです。6の目以外が出ていれば、問題はつまらぬ愚問となります。なぜよりによって唯一興味深い「6の目バージョン」なのか。
問いはある狙いをもって出題されるので、解き方のみならず答えによって一義的に定義されるべきでしょう。問題Kのうち「6の目が出た」というバージョンだけが、②の確率をゼロとしない特殊なバージョンなのであり、そのバージョンを使わないと例解できない問題意識があったからこそ、出題者はそのバージョンを採用したのであるはずです。他のバージョンでは、出題意図が実現されないのです。
やはり問題Kは、「6の目が出た」というバージョンに限定されており、従ってそれを問うJは、Eの実現を確率1で保証するものと考えるべきでしょう。
2: ◆を否定する。
つまり問題Kは、問われなくても成立したはず、と考えるのです。
そうすると、P(E|J)=1だとしても、P(J|E)≪1でかまいません。
問われているのは、単なる①と②であって、①∧Jと②∧Jではないことになります。あるいは、①∧Eと②∧Eが仮説検定されているのです。
データは、E∧Jです。(同じことですが、単にJです)
P(②|E∧J)/P(①|E∧J)=P(②|J)/P(①|J)
=(P(J|②)/P(J|①))×(P(②)/P(①))=6(P(②)/P(①))
しかし、この方策でうまく処理するためには、問われなかったかもしれない膨大な問題Kのうち、あえて出題者によって問われた例外的なものになぜ解答者は出くわしたのか、という謎を解決せねばなりませんね。
そのためには、この問題が出題されたのは「偶然」だった、と仮定せねばなりません。必然だったとすれば、また「問われているのは①∧Jと②∧Jの仮説検定」ということに逆戻りしてしまいますから。
問題Kの外部(現実世界)では、おそらく考えられるべくして考えられているので、問題Kの発生は偶然ではないでしょう。私たちは、この問題を、はじめから問われるべき問題として話題にしています。
しかし、問題Kの内部(フィクション世界)では、問われたのは偶然ということでよさそうです。サイコロを現に見ているキャラは(問題Kの外にいる私たちは見ていない)、問題を予期していなかったのに、問われたのです。問われるからにはEが実現していなければならない問題だったが、そもそも問われるかどうかは彼にとって未知だったのです。
つまり、問題に答える役柄は、問題Kを出された解答者ではなく、問題Kの世界の中の仮想的解答者に割り当てられている、ということです。現実世界の中の解答者は、仮想的解答者になりきって、その立場から答えねばならないのです。
『論理学入門』pp.136-9 (「中国人or日本人」の問題) もご参照ください。
現実のあなたではなく、問題の設定の中の解答者になりきって答えるべし、ですね。
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の続きです。(対象問題は簡略化してあります)
2つのサイコロがある。一つは普通のサイコロ、もう一つは6つの面すべてが6の目であるサイコロである。その2つのサイコロのうち一つをランダムに選び、振ったところ、6の目が出た。
さて、次の2つの仮説のうち、どちらが正しそうか。
仮説① 選ばれたサイコロは普通のサイコロである。
仮説② 選ばれたサイコロは全面6の目のサイコロである。
…………………………
以上の問題を「問題K」と呼びます。……★
問題Kでは、ふつう、仮説②が仮説①の6倍正しそうだと仮説検定されます。
「6の目が出た」というデータをEとして、
P(E|①)=1/6
P(E|②)=1 より、
P(②|E)/P(①|E)=(P(E|②)/P(E|①))×(P(②)/P(①))
=6P(②)/P(①) となるからです。
ところが、それ以前に、「出題者が問題Kを出そうと意図した」という事実が自ずと判明していることを思い出しましょう。これをデータJとします。
すると、6の目以外が出た場合には出題が成り立たないので、出題が成立しているということは
P(E|J)=1 であり、…………▼
当然、Jと矛盾しない任意のXについて P(E|X∧J)=1 ですから、
P(E|①∧J)=1
P(E|②∧J)=1
となります。
つまり①②の仮説検定をするさいにEの証拠価値がなくなります。
問われているのは、単なる①と②ではなく、①∧Jと②∧Jのはずです。……◆
問われなかった事態については解答者の知ったことではなく、あくまで問題Kが問われた場合に解答すればよいのは自明だからです。
しかし、このような考えは、常識的な確率問題を成立不能にしてしまいます。
解決策は、主に2通り考えられます。
1: ★を一般的に解釈する。(=▼の否定)
問題Kというのは、6の目が出なくても成立したと考えるやり方です。つまり、事態は次のようでもありえたとするのです。
「振ったところ、3の目が出た。
さて、次の2つの仮説のうち、どちらが正しそうか。
仮説① 選ばれたサイコロは普通のサイコロである。
仮説② 選ばれたサイコロは全面6の目のサイコロである。」
という問題でもありえた、と考えるのです。それも同じ問題Kなのであると。したがって、問題Kを問おうという出題者の意図Jは、
P(E|J)=1 を含意しないことになります。これは▼の否定です。
この方策は、しかし、うまくいきません。問題Kのうちなぜよりによって「6の目が出た」というバージョンに自分が当たったのか、という謎に解答者は直面するからです。6の目以外が出ていれば、問題はつまらぬ愚問となります。なぜよりによって唯一興味深い「6の目バージョン」なのか。
問いはある狙いをもって出題されるので、解き方のみならず答えによって一義的に定義されるべきでしょう。問題Kのうち「6の目が出た」というバージョンだけが、②の確率をゼロとしない特殊なバージョンなのであり、そのバージョンを使わないと例解できない問題意識があったからこそ、出題者はそのバージョンを採用したのであるはずです。他のバージョンでは、出題意図が実現されないのです。
やはり問題Kは、「6の目が出た」というバージョンに限定されており、従ってそれを問うJは、Eの実現を確率1で保証するものと考えるべきでしょう。
2: ◆を否定する。
つまり問題Kは、問われなくても成立したはず、と考えるのです。
そうすると、P(E|J)=1だとしても、P(J|E)≪1でかまいません。
問われているのは、単なる①と②であって、①∧Jと②∧Jではないことになります。あるいは、①∧Eと②∧Eが仮説検定されているのです。
データは、E∧Jです。(同じことですが、単にJです)
P(②|E∧J)/P(①|E∧J)=P(②|J)/P(①|J)
=(P(J|②)/P(J|①))×(P(②)/P(①))=6(P(②)/P(①))
しかし、この方策でうまく処理するためには、問われなかったかもしれない膨大な問題Kのうち、あえて出題者によって問われた例外的なものになぜ解答者は出くわしたのか、という謎を解決せねばなりませんね。
そのためには、この問題が出題されたのは「偶然」だった、と仮定せねばなりません。必然だったとすれば、また「問われているのは①∧Jと②∧Jの仮説検定」ということに逆戻りしてしまいますから。
問題Kの外部(現実世界)では、おそらく考えられるべくして考えられているので、問題Kの発生は偶然ではないでしょう。私たちは、この問題を、はじめから問われるべき問題として話題にしています。
しかし、問題Kの内部(フィクション世界)では、問われたのは偶然ということでよさそうです。サイコロを現に見ているキャラは(問題Kの外にいる私たちは見ていない)、問題を予期していなかったのに、問われたのです。問われるからにはEが実現していなければならない問題だったが、そもそも問われるかどうかは彼にとって未知だったのです。
つまり、問題に答える役柄は、問題Kを出された解答者ではなく、問題Kの世界の中の仮想的解答者に割り当てられている、ということです。現実世界の中の解答者は、仮想的解答者になりきって、その立場から答えねばならないのです。
『論理学入門』pp.136-9 (「中国人or日本人」の問題) もご参照ください。
現実のあなたではなく、問題の設定の中の解答者になりきって答えるべし、ですね。