友好は、敵対よりもはるかに激しい状態である。好戦的な人とは、平和の複雑さに耐える闘志に乏しい人であろう。
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TBSドラマ『エジソンの母』――
第1話(1/11)
二進法の1+1について、美浦准教授の学生が「いちたすいちはじゅう」と発音したのに対し、2ちゃんねるなどで「いちたすいちはいちぜろ」が正しい読みだろう、という「指摘」が多くなされていると聞きました。
もちろんスタッフがうっかりしていたはずはなく、二進法の10の発声をどうすべきかについては、クランクイン前に演出部から質問を受けていたのですが、私は「演出でも じゅう と読ませたいでしょうし、 じゅう で大丈夫です」と答えました。「じゅう で大丈夫」な理由は、公式HP・第1話・問1で書いたとおりです。
二進法の10の読みを「いちぜろ」と主張する人は多くても、「に」と読むべきだという人はほとんどいないようでした。これはちょっと不思議です。なぜなら、「いちぜろ」よりは「に」のほうがまだしも説得力があるからです。「じゅっしんほう」で桁が初めて上がったとき「じゅう」なら、「にしんほう」で桁が初めて上がったとき「に」という対応が自然ではないでしょうか。
そこで解説では、「に」ではなく「じゅう」のほうが便利だ、と述べておいたのですが、むしろ「いちぜろ」という読みが不合理であることの解説をしたほうがよかったかもしれませんね。
そこで今回は、10の読みが論理的に(というよりむしろ実践的に)「いちぜろ」であってはならない理由を説明いたしましょう。
「いちぜろ」式の読みが数理科学の現場で習慣的になされていることは事実ですが、それは、数学者たちが二進法の「10」の正式名が「いちぜろ」だと認めているからではありません。単なる習慣です。その証拠に、桁が大きくなると「いちぜろ」式の読みはあまりなされないようです。もしも、「10」という数字の名前が正式に「いちぜろ」であるとすれば、次の不合理が生じます。
●二進法の10が「いちぜろ」なら、十進法の場合も10を「じゅう」でなく「いちぜろ」と読まねばなりません。すべての進法で10を「いちぜろ」と読むと約束すれば辻褄が合っていますが、十進法でそれを実行していない以上、二進法でも「いちぜろ」は不合理ということになる。桁が上がるたびに(あるいは万~億のように何桁ごとかに)新しい名を使用するのが能率的なので、その慣例どおり、「に」か「じゅう」が理に叶っています。
●二進法で
1000000000000000000000000000000
をどう読めばいいのでしょうか。
「いちぜろ」派は難儀でしょう。
「じゅう」派なら、私たちが慣れた十進法の読み方をそのまま適用すればOKです。「ひゃくおくかけるひゃくおくかけるひゃくおく」とでも読めばよいでしょう。あえて「じゅうの~乗」方式にこだわればちょっと難しくて、「じゅうのいちまんせんひゃくじゅうじょう」とでもなるでしょうか(0の数が11110個だから)。
「に」派もそれなりに対処できます。「にじゅうのにいちじょう」「ななじゅうのにじょう」などと読めばよいからです(こちらはどの方式も慣れるまで大変)。
あるいは、新しい桁の名を導入する手もありますね。桁が多くなると読み方に苦慮するのは何進法でも同じですが(十進法でも、ふつう、兆、京、垓、くらいの後は知っている人は稀でしょう)いずれにせよ新しい桁の名を作る方式なら創造的に対処できます。
それに対し、「いち」と「ぜろ」だけで読み方を供給する「いちぜろ」派は、大きな数を扱い始めるやいなや、口頭でのコミュニケーション不全*を運命づけられてしまうわけですね。
* 111111111を
いちおくせんひゃくじゅういちまんせんひゃくじゅういち
きゅうはちななろくごよんさんにいち
これらの読みなら、言い始めたとたんに相手に「どのくらいの大きさの数を言っているのか」が即座に伝わりますが、「いちいちいちいちいちいちいちいちいち」では、言い終わるまで、何桁の数を言っているのか伝わらず、伝達困難(途中で桁数が見失われるかもしれない)。桁区切り欄に右寄せで書き取らせるときなど、致命的です。
桁ごとの新名を併用する読み方が合理的で、「いちぜろ」派が不合理であるゆえんです。
……
――まあ、二進法の絶対的に正しい発音が唯一に定まらねばならぬ、なんて理論的根拠はなく、1+1=2,1+1=1,1+1=0,……さまざまなルールのうちどれを当面選ぶか、と同じ実践的マターなのですけれどね……。
TBSドラマ『エジソンの母』――
第1話(1/11)
二進法の1+1について、美浦准教授の学生が「いちたすいちはじゅう」と発音したのに対し、2ちゃんねるなどで「いちたすいちはいちぜろ」が正しい読みだろう、という「指摘」が多くなされていると聞きました。
もちろんスタッフがうっかりしていたはずはなく、二進法の10の発声をどうすべきかについては、クランクイン前に演出部から質問を受けていたのですが、私は「演出でも じゅう と読ませたいでしょうし、 じゅう で大丈夫です」と答えました。「じゅう で大丈夫」な理由は、公式HP・第1話・問1で書いたとおりです。
二進法の10の読みを「いちぜろ」と主張する人は多くても、「に」と読むべきだという人はほとんどいないようでした。これはちょっと不思議です。なぜなら、「いちぜろ」よりは「に」のほうがまだしも説得力があるからです。「じゅっしんほう」で桁が初めて上がったとき「じゅう」なら、「にしんほう」で桁が初めて上がったとき「に」という対応が自然ではないでしょうか。
そこで解説では、「に」ではなく「じゅう」のほうが便利だ、と述べておいたのですが、むしろ「いちぜろ」という読みが不合理であることの解説をしたほうがよかったかもしれませんね。
そこで今回は、10の読みが論理的に(というよりむしろ実践的に)「いちぜろ」であってはならない理由を説明いたしましょう。
「いちぜろ」式の読みが数理科学の現場で習慣的になされていることは事実ですが、それは、数学者たちが二進法の「10」の正式名が「いちぜろ」だと認めているからではありません。単なる習慣です。その証拠に、桁が大きくなると「いちぜろ」式の読みはあまりなされないようです。もしも、「10」という数字の名前が正式に「いちぜろ」であるとすれば、次の不合理が生じます。
●二進法の10が「いちぜろ」なら、十進法の場合も10を「じゅう」でなく「いちぜろ」と読まねばなりません。すべての進法で10を「いちぜろ」と読むと約束すれば辻褄が合っていますが、十進法でそれを実行していない以上、二進法でも「いちぜろ」は不合理ということになる。桁が上がるたびに(あるいは万~億のように何桁ごとかに)新しい名を使用するのが能率的なので、その慣例どおり、「に」か「じゅう」が理に叶っています。
●二進法で
1000000000000000000000000000000
をどう読めばいいのでしょうか。
「いちぜろ」派は難儀でしょう。
「じゅう」派なら、私たちが慣れた十進法の読み方をそのまま適用すればOKです。「ひゃくおくかけるひゃくおくかけるひゃくおく」とでも読めばよいでしょう。あえて「じゅうの~乗」方式にこだわればちょっと難しくて、「じゅうのいちまんせんひゃくじゅうじょう」とでもなるでしょうか(0の数が11110個だから)。
「に」派もそれなりに対処できます。「にじゅうのにいちじょう」「ななじゅうのにじょう」などと読めばよいからです(こちらはどの方式も慣れるまで大変)。
あるいは、新しい桁の名を導入する手もありますね。桁が多くなると読み方に苦慮するのは何進法でも同じですが(十進法でも、ふつう、兆、京、垓、くらいの後は知っている人は稀でしょう)いずれにせよ新しい桁の名を作る方式なら創造的に対処できます。
それに対し、「いち」と「ぜろ」だけで読み方を供給する「いちぜろ」派は、大きな数を扱い始めるやいなや、口頭でのコミュニケーション不全*を運命づけられてしまうわけですね。
* 111111111を
いちおくせんひゃくじゅういちまんせんひゃくじゅういち
きゅうはちななろくごよんさんにいち
これらの読みなら、言い始めたとたんに相手に「どのくらいの大きさの数を言っているのか」が即座に伝わりますが、「いちいちいちいちいちいちいちいちいち」では、言い終わるまで、何桁の数を言っているのか伝わらず、伝達困難(途中で桁数が見失われるかもしれない)。桁区切り欄に右寄せで書き取らせるときなど、致命的です。
桁ごとの新名を併用する読み方が合理的で、「いちぜろ」派が不合理であるゆえんです。
……
――まあ、二進法の絶対的に正しい発音が唯一に定まらねばならぬ、なんて理論的根拠はなく、1+1=2,1+1=1,1+1=0,……さまざまなルールのうちどれを当面選ぶか、と同じ実践的マターなのですけれどね……。