ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

映画「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」を観た後、歌舞伎町に行ってみた

2023年08月01日 | 映画

新宿の武蔵野館で「シモーヌ フランスに最も愛された政治家(SIMONE, LE VOYAGE DU SIECLE/SIMONE, A WOMAN OF THE CENTURY)」(2022、仏、オリヴィエ・ダアン)を観た。シニア料金で1,200円。邦題が原語とあまりに違う、意訳も行き過ぎでは。フランスに愛される、というのも意味不明である。フランス人ならわかるけど。客は50人くらいは入っていただろうか、圧倒的にシニア女性が多かった。

この物語は、公式サイトによれば「1974年パリ、カトリック人口が多数を占め、男性議員ばかりのフランス国会で、シモーヌ・ヴェイユ(エルザ・ジルベルスタイン)は圧倒的反対意見をはねのけ、後に彼女の名前を冠してヴェイユ法と呼ばれる中絶法を勝ち取った。1979年には女性初の欧州議会議長に選出され、大半が男性である理事たちの猛反対の中で、女性の権利委員会の設置を実現。女性だけではなく、移民やエイズ患者、刑務所の囚人など弱き者たちの人権のために闘った。その信念を貫く不屈の意志は、かつてアウシュビッツ収容所に送られ、“死の行進”、両親と兄の死を経て、それでも生き抜いた壮絶な体験に培われたものだった」とある。

確かに素晴らしい女性政治家であろう、がしかし、この映画を観た感想は、イマイチ、というものだ。過去と現在が行ったり来たりするわかりづらさ、変化がなく、ありきたりな話ばかり。最初の30分くらいで眠くなった。もう少し変化が無いと観ていて面白くない。アウシュビッツものももううんざりだ。もうそんな話は知ってるよ、と言いたい。ただ、この映画は、仏で公開後、10週連続でトップ10入りして240万人を動員して、昨年の仏映画年間興行成績ナンバーワンの記録を樹立したそうだ。ホンマかいな。

欧州もいい加減ナチの犯罪を題材にした映画から卒業してはどうか。ナチ以外にもハンガリー動乱、プラハの春、スターリンの粛清、中東やアフリカにおける過去の悪行、現在社会問題となっている移民問題など、取り上げるべき題材はいくらでもあるだろう。そういったものにヨーロッパの国々はどう関わってきたのか、今後どうかかわって行くべきか、あるいは知らん顔をして無視し続けるのか、もっともっと取り上げてほしい。

さて、映画のあと、近くの歌舞伎町に行ってみた。トー横界隈も見てみたかった。まだ明るいが、結構怖い雰囲気もあった。TOHOシネマの前あたりは警察官が多く、黒人らしき外人の集団を取り囲んで何かいざこざがある感じもあった。

かつて、都知事の石原慎太郎は歌舞伎町の怖いイメージを取り除く徹底した浄化作業を行ったが、いまは「怖そう」といった感じも少しする。夜はどんな具合なんだろう、シニアは近づかない方が良さそうだ。怖いもの知らずの東洋系の外人観光客がやたらと目立った。ゴジラよ、悪いことするなよ、と吠えてくれ。

お疲れ様でした。


映画「ナバロンの要塞」を再び観る

2023年07月18日 | 映画

テレビでまた「ナバロンの要塞(The Guns of Navarone)」(1961、米・英、監督J・リー・トンプソン)を観た。この映画を観るのは4回目か5回目だ。先日観た「ベニスに死す」と同様、テレビで何度も再放送するということは根強い人気がある作品なのだろう。私もたまに無性に観たくなる作品の一つだ。

ストーリーとしては、舞台が第2次世界大戦、ギリシアのケロス島にイギリス兵2千名が孤立した、これを救出すべく連合国軍は戦艦を派遣するが、ケロス島の横にあるナバロン島に独軍の難攻不落の要塞があり、その要塞から大砲2つが睨みをきかせていた。この要塞を破壊するために特殊部隊がつくられ、要塞内部に潜り込み内部から大砲を爆発させることにした。

この特殊部隊のメンバーは天才的な登山家のマロリー大佐(グレゴリー・ペッグ)、爆薬の専門家ミラー伍長(テービット・ニーヴン)、ギリシア軍の将校でレジスタンス闘士スタブロス大佐(アンソニー・クイン)など一癖も二癖もある面々。この精鋭部隊が嵐の中ナバロン要塞に接岸し、絶壁を登り、要塞都市に紛れ込み、要塞内部に入り込むべく工作をしていくが・・・・

映画は3時間近い大作だが、最初から最後までハラハラ・ドキドキで全く飽きることがない、特殊作戦や戦闘場面などだけでなく、ナバロンのレジスタンスの美人女性闘士マリア・パパディモス(ギリシャの美人女優イレーネ・パパス)などのお色気もちゃんと入っている。マロリー大佐の冷静かつ冷徹なリーダーぶりが光る、「80日間世界一周」や「戦場にかける橋」のデービット・ニーヴンも爆薬の専門家として活躍する。冒頭にナバロンの要塞のある岸壁に特殊部隊の乗った船が嵐の中接岸する場面など迫力満点だ。

何回観ても面白い、良い映画だ。ただ、第2次大戦中の映画ではドイツがいつも悪役として描かれるのは気の毒だ。日本も朝ドラなどでは戦時中の場面になると必ず軍隊や警察が悪役として登場するが、必要以上に悪く描かれているのではないか。立派な軍人や警官もいたが、それは描かれるケースはほどんど無い。自国のメディアが本当に適切な時代考証に基づきドラマなどを制作しているのか、私はいつも気になっている。

 


映画「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」を観る

2023年07月16日 | 映画

柏のキネマ旬報シネマで「ペトラ・フォン・カントの苦い涙(THE BITTER TEARS OF PETRA VON KANT)」(1972、独、監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)を観た。

1971年にフランクフルトで上演されたライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの同名戯曲を、翌年の1972年にファスビンダー自身が映画化したもの。 二度目の離婚をしたばかりのファッションデザイナーのペトラ(マルギット・カールステンセン)は、秘書のマレーネ(イルム・ヘルマン)と2匹の猫と一緒にブレーメンの高級アパートに住んでいる。親友の男爵夫人(カトリン・シャーケ)の紹介で、若いモデルのカリン(ハンナ・シグラ)と出会ったペトラは彼女に恋して一緒に住むようになるが、夫がある上に移り気なカリンはペトラの愛情が鬱陶しくなって出て行ってしまう。素気無くされたことでペトラのカリンへの想いは一層強まっていき・・・

特に事前の予習もせず、いきなり観たところ、映画の場面はペトラの家の中が大部分の会話劇、30分くらいしたところで眠くなった。ガムを持ってくるべきだったと後悔した。きっと戯曲をそのまま映画化したようなイメージでつくったのだろう、戯曲であれば場面転換は1度か2度だが映画の場合にそれをやられるとどうしても退屈になる。最後の方では見せ場があり何とか最後まで観られたが、見続けるのが結構苦痛だった。AmazonPrimeで観ていたら確実に途中で観るのを止めていただろう。

1972年の映画なので女優のファッションも今ではとてもこんなもの着ている人はいないだろうなと思いながら観ていた。また、ペトラとカントは同性愛という今はやりのLGBTを題材にしていると言うのも面白かった、さらに、ペトラと助手のマレーネの関係もそれらしい関係だ。このマレーネはほとんど話さないというか話した場面を思い出せない。

この監督や女優たちが好きな人でないときっと観ても退屈すると思われる。


映画「ベルファスト」を観る

2023年07月09日 | 映画

映画「ベルファスト」(2021、英、監督ケネス・ブラナー)を観た。

この映画は、北アイルランド・ベルファストに暮らす9歳の少年バディの目を通じてアイルランド紛争の悲劇を見たもの。少年が住んでいたベルファストは住民同士が顔なじみで一つの家族のような街だったが、アイルランド紛争を境に分断されてしまう。住民の間の対立が激化し、暴力と隣り合わせの日々を送る中、バディの家族は故郷を離れるべきか否か苦悩する、最後には・・・

この映画はケネス・ブラナーの半自伝的ドラマ、彼が幼少期を過ごしたベルファストが舞台。監督以外にもバディ役のジュード・ヒルは北アイルランド出身、父親役のジェイミー・ドーナンは ベルファスト郊外の出身、母親役のカトリーナ・バルフはアイルランド ダブリン出身、じいちゃん役のキアラン・ハインズはベルファスト出身と映画の舞台となった地域やアイルランド出身者が多数登用されている。

北アイルランドにおけるカトリックとプロテスタントの紛争は遠い彼方の国の問題としてあまり興味がわかなかったが、これは日本が多神教の国で他宗教に寛容な国だからであろう。中東問題についてもビジネスで関係でも無い限り、イスラエルとパレスチナ、シーア派とスンニ派の対立と聞いても、やはりピンとこないし、詳しく調べてみようとも思わない。また、ちょっと調べたくらいではとても理解できない。この映画の舞台になったベルファストは北アイルランドの首都だが、こういうことも知らなかった。

さて、主役の少年バディだが、なかなか賢い少年だ、素直でかわいいが、いろんなことについてちゃんと自分の意見を持っている。親や世間のこともよく観察している。そして辛いことがあってもめげないで健気だ。おじいちゃんやおばあちゃんと接しているため、その2人からいろんなことを教えてもらっているためだろう。こういうところは今の核家族では得られない大きな利点だ。また、住民同士皆家族みたいなものであるという紛争前の街の姿もノスタルジーを感じる、日本も昔はそうだった。まあ、いずれも良い面と悪い面があるけど。

この映画を見て、バディー家族はカトリックなのかプロテスタントなのかよくわからなかった。多分、プロテスタントなんだろうが、最初に自宅の周りが襲われるところを見るとカトリックなのかなと思うがどうであろうか。最後までハッキリしなかった印象がある。


映画「ベニスに死す」を再び観る

2023年07月01日 | 映画

テレビで「ベニスに死す(Death In Venice)」 ( 1971年、伊・仏、ルキノ・ヴィスコンティ監督)は何回も放映されている。最近も再放送があったので録画しておいたが時間が取れたのでまた観たくなった。

この映画は、トーマス・マン原作の同名の小説を映画化したもので、トーマス・マン自身がクラシック音楽に造詣が深く、マーラーの友人であったし、監督のヴィスコンティもマーラーの理解者であった。そのため、原作の主人公アッシェンバッハは作家(マン自身)であったが映画ではマーラーに変えた、そして、マーラーの音楽をふんだんに使っている。特に交響曲5番の第4楽章アダージェットが冒頭から用いられており、その後も何回も使われている。また、夕食のレストランの横のロビーで料理ができるのを待っている間に演奏されているのはレハールの「メリー・ウィドー」の最後の場面で歌われる「唇は語らずとも」であり、好きな曲だ。

仕事で挫折し、体調まで崩した老作曲家は静養のためベニスを訪れ、ふと出会ったポーランド貴族の美少年タッジオに理想の美を見る。以来、タッジオを求めて彷徨う。ある日、街中で消毒が始まり疫病が流行していることを聞きつける。死臭漂うベニスを彼はタッジオを追い求め歩き続け、ついに倒れ、ひとり力なく笑い声を上げる。翌日、疲れきった体を海辺のデッキチェアに横たえ、彼方を指差すタッジオの姿を見つめながら死んでゆく。

この映画は、トーマス・マンの小説が好きで、マンがクラシック音楽解説をしているのを知っていたり、マーラー好きにとっては見逃せないものだろう。私はマンやマーラーのファンとまでは言えないけれど、クラシック音楽や文学好きとして、時々無性に見たくなる。

ベニスには1回だけ観光で行ったことがある。ちょうどコロナが発生する少し前であった。そして、この映画ではコレラが世界中で感染拡大している話が出てくる。ベニスという都市の思い出、そしてコロナの感染拡大という21世紀に起こった映画と同様な事態を考えると、この映画になんとなく愛着というか、偶然というか、浅からぬ縁を感じてしまうのである。

この映画が上映されたころ、ポスターなどを見ると、ダッジオ役のビョルン・アンドレセンの写真がやたらと目立ったが彼は主人公ではない。私もこの宣伝によってずっと後になるまでこの映画を見る気がしなかった。マンやクラシック音楽のことが分かっていない人がマーケッティングしたのではと思いたくなるが、今となってはLGBTムードを先取りした映画だと言えるかもしれない。

今後も時々観るであろう。


映画「パリの調香師」を観る

2023年06月28日 | 映画

自宅で映画「パリの調香師、しあわせの香を探して」(LES PARFUMS/PERFUMES、2019、仏、グレゴリー・マーニュ監督)を観た。

調香師のアンヌ(エマニュエル・ドゥヴォス)は世界中で活躍し、クリスチャン・ディオールの香水「ジャドール」をヒットさせた。だが、4年前に多忙と仕事のプレッシャーから突然嗅覚障害を発症し、それまでの地位を失う。今は嗅覚も戻り、地味な仕事だけをこなしながら静かに暮らすがギヨーム(グレゴリ・モンテル)を運転手として雇う。気難しいアンヌに戸惑いながらも、率直にものを言うギヨームは気に入られ、少しずつアンヌの閉じていた心も開かれていくが・・・

エマニュエル・ドゥヴォス(59、仏)は好きな女優だ。もう中年のおばさんなんだけど、気品があり、きれいだ(シニアの私から見ればの話だけど)。彼女が出た映画は何本か観てきたが、最近はあまりみる機会が無かった。今回久しぶりに観たけど、良い演技をしていた。人付き合いが下手で、自分の殻に閉じこもりがち、華々しい成功を収めたが挫折を経験し、再起を計るが焦りを感じている中年女性、そんな役柄をうまく演じていた。

アンヌの運転手役のギョームを演じたぐれゴリ・モンテル(46、仏)という俳優は知らなかったが、うだつの上がらないダメ男をうまく演じていた。

この調香師という職業については、ドイツのパトリック・ジェースキントが書いた「香水」という小説がある。この小説を映画化した「パヒューム」という映画もあった。これは18世紀のパリを舞台にした小説だ。やはりパリと香水という組み合わせは映画や小説にもなるいろんなドラマが生じる領域なのだろう。

さて、この映画が最後であるが、ベンツから下車したアンヌとギョームが降りて訪ねた先はシャネル。そして、子供たちを相手にギョームが香水の説明をする先生をしている場面で終わる。この場面の解釈は視聴者に任されているのだろう、シャネルと取引できるまでに名声が回復したのか、それともギョームだけがシャネルの主催する匂いの教室の先生に出世したのか、その両方か・・・・

まあ、勝手に解釈してくれ、ということだろう。ヨーロッパ映画らしい終わり方だ。


映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」を観る

2023年06月19日 | 映画

自宅で映画「モーリタニアン黒塗りの記録」(THE MAURITANIAN)(2021、米・英、ケヴィン・マクドナルド監督)を観た。

ストーリーを述べれば、弁護士のナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)はモーリタニア出身モハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)の弁護を引き受ける。9.11の首謀者の1人として拘束され、キューバのグアンタナモ収容所で投獄生活を何年も送っていた。ナンシーは不当な拘禁だとしてアメリカ政府を訴える。政府から米軍にモハメドゥを死刑判決に処せとの命が下り、スチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が起訴を担当する。真相を明らかにして闘うべく、両サイドから綿密な調査が始まる。ナンシーは機密書類の開示請求をするが政府から届いた機密書類はほとんどが黒で塗りつぶされていた・・・

この映画は実話だそうだが(以下ネタバレ留意)、こんなことがあったとは知らなかった。驚愕の内容である。9.11テロの犯人を何が何でも捕まえて処刑したい米政府の怒りと焦りがとんでもない冤罪を生んだ。主人公のスラヒはオサマビン・ラディンの衛星電話から電話を受け、9.11の首謀者の1人をあまりわけがわからないまま一晩だけ自宅に泊めたために容疑をかけられ、さしたる証拠もなく長期間拘束され、自白を強要される。裁判で無罪を勝ち取ったにもかかわらず、その後も数年拘束された。

こんなことがあって良いものだろうか、9.11はブッシュJr政権、無罪判決とその後の拘束はオバマ政権でなされた。アメリカという国は頭に血が昇るとかっとなって制御がきかなくなり、大量破壊兵器が無いにも関わらずイラク戦争をし、この映画のように無実の人をさしたる証拠もなしに長期間拘束して罪をでっち上げ、無罪確定後も拘束を継続し、いまだに謝罪も賠償も関係者の処分もしていないという国だ。日本の隣国が外国人を明確な根拠もなく次々と拘束するのと大差ないではないか。

日本もよくよく考えてアメリカと付き合うべきだ。日米安保は賛成だが、アメリカがいつ手のひら返しをするか常に備えるべきだ。日露戦争勝利後のアメリカの豹変を忘れてはなるまい。日米で政権や防衛大臣が変る都度、日本の首脳は日米が基軸だとか、尖閣列島は日米安保の対象範囲であることを確認したとかのコメントを発表するのはやめた方が良いと思う。虎の威を借りて隣国を牽制しようとの意図だろうが両方の国から軽蔑されるのが落ちだ。外務省出身の元高官などもテレビ番組で日米の信頼関係を疑いもなく強調し、それが一番大事だと述べているが、それが崩れたらどうするつもりなのか。大国をうまく利用するくらいのしたたかさが求められると思うが、それができたのは暗殺された安倍元総理くらいのものだろう。

ところでこの映画で米軍のスチュワート大佐を演じていたのはベネディクト・カンバーバッチであり、彼は先日観た映画「イミテーション・ゲーム」(こちらを参照)に出ていた主人公であった。全く意図せず彼の出ていた良い映画に巡り会えたのは幸運であった。今回も彼は良い演技をしていた。

 


映画「コレクティブ 国家の嘘」を観る

2023年06月18日 | 映画

自宅で映画「コレクティブ 国家の嘘」(2019、ルーマニア・ルクセンブルク・独、アレクサンダー・ナナウ監督)を観た。この映画は、2015年10月30日にルーマニア・ブカレストのライブハウス「コレクティブ」で起きた火災により60名以上の若者が死亡し、多数の人が負傷した事故の原因について政府を追及したスポーツ新聞記者と政府の新しい保健大臣になった若手改革政治家をめぐる物語だ。

火災により27名の若者が死んだ、しかし、その後本来助かったはずの若者が次々と病院で死亡し、死者は60名以上になった。そして病院の内部者から弱小スポーツ新聞社に通報があり、病院の診療態勢は不適切で、製薬メーカーからの消毒液を何倍にも薄めて使って院内感染が発生していたのがわかった。製薬会社も認可を受けた消毒液の希釈倍率を守っておらず、この薬を認可した当局もなぜ認可したのかハッキリしない。

それぞれの関係者が患者の救済より利益の確保を重視し、賄賂、腐敗、事実隠蔽などをして既得権を不当に維持していたことが次々と暴かれていく。病院経営者は腐敗していたが医療従事者の良心は残っており、内部告発により事態が明るみに出るというところが唯一の救いだ。

そして疑惑が報道されると政権は倒れ、医療担当の保健大臣もウィーン出身の若手の大臣となる。この新大臣が制度改革を目指すが、既得権益者からあらゆる妨害を受ける。新聞社にも記者の家族にも何が起こるかわからない脅迫も届く。ところが、改革の途中で選挙が行われ、問題を放置していた政党が再び多数をとり政権につくことになった、この結果を聞いた記者たちと改革を推進してきた保健大臣は・・・・

この映画で毅然と政権の不正を追及したのが弱小新聞社だということが意味深である。大手新聞社も既得権益者であり、例によって見て見ぬふりをしていたのだろうか。

ルーマニアという国は今まで全く知らなかった。ちょっと調べてみると、オスマン帝国の傘下、そこから独立、王制、王制廃止・共産主義体制、政変により共産主義廃止、NATO加盟、EU加盟という変遷で、激動の歴史を有している。現在は共和制、議会制民主主義、日本とも外交関係・経済関係もある。医療体制が政府も含めてこんな状態でEU加盟の条件を満たしているのか疑問だが、今後、少しルーマニアのことも勉強しないといけないと思った。

 


映画「テノール、人生はハーモニー」を観る

2023年06月14日 | 映画

新聞の映画評論欄に載っていたので、オペラファンとしては観に行かねばと思い、「テノール、人生はハーモニー」(2022年、仏、監督クロード・ジディ・Jr)を観てきた。

この映画は、ラップに夢中の青年アントワーヌ(MB14)が、オペラ座へスシをデリバリーした際、そこで自分を見下してきたレッスン生たちにオペラの真似事をしてやり返すところをオペラ教師マリー(ミシェル・ラロック)が見て、アントワーヌの美しい歌声とその類まれな才能にほれ込み、彼のアルバイト先に押しかけてオペラを学ぶように迫るが・・・というもの。

若干のコメント

  • 映画にはオペラ歌手のロベルト・アラーニャも出演している。主人公のアントワーヌを演じるのは、大人気オーディション番組「THE VOICE」でそのカリスマ性を爆発させて勝ち上がったビートボクサーMB14。劇中すべてのオペラ歌唱にも挑戦し劇中アントワーヌさながら天才的歌の才能を発揮させた、と公式サイトに書いてあるが、映画の中で彼がオペラを実際に自分の声で歌っていることを意味しているわけではないと思う。微妙な書き方だが、そこはぼかしているのでは(原語を見ないとわからないが)。私の見たところでは「口パク」してるところも多かったと思われた。
  • 映画の舞台で実際のパリのガルニエ宮を使っているようだ。これはオペラファンにとってはうれしいことだ。私も1回だけ中に入ったことがあるが、当時を思い出させる。公式サイトを見ると何年もかかってオペラ座を説得したとあるがよく撮影を許可したものだ。
  • この映画の中では、主人公がパリのスシのデリバリーのバイトをしているなど、何回か日本が話題に出てくるのがうれしい。
  • この映画を見ての感想だが、私が見ている映画評論サイトでのトータルの評点が5点満点で3.2点となっており、満点をつけている人も含めてその点数であるから一般の人の正直な評価がどの程度かを物語っていると思う。私も同感だ。

 


「ダウントン・アビー/Downton Abbey」を見終わって(その2)

2023年06月09日 | 映画

(承前)

  • 貴族の生活というものがこんなものかとわかって、そうかと思うところもあるが、こんなこともあるのかとあきれるところもあった。例えば、食事をとるときには正装する、食事の時も女性は帽子をかぶったままである、女性が寝る前に髪を編むがそれは侍女がやるので自分ではそんなこともできないなど。ただ、良い習慣だなと思ったのはダイニングルームで食事をとった後、応接間(drawing room) でお茶を飲みながら食後の団らんする習慣だ。狭い日本の家では考えられないが、家が広くてもやらないか。
  • 4か月にわたってこのドラマをほぼ毎日見てくると、最後にはこの家族と使用人たちがみんな幸せになってよかったと、まるで自分のことのように思えてくる。親子や兄弟、夫婦間、恋人たちとのいざこざ、使用人同士のいがみ合い、不慮の死など、いろいろ不幸や危機があったが、それを乗り越えて、残った人たちはみんな幸せになってうれしかった。最後には皆が「スコットランドの民謡《オールド・ラング・サイン(Auld Lang Syne)」(蛍の光)を歌うが、もう毎日この家族や使用人たちとも会えなくなると思うと寂しい気持ちになった。

主な出演者と私の印象

(貴族)

  • ロバート( グランサム伯爵):家族思い、召使にも配慮、保守的、若干自虐的だが好感が持てた
  • コーラ(伯爵夫人):優しいが合理主義、時代の変化を認識した賢婦人で好きなタイプだ
  • メアリー(伯爵の長女):プライド高く貴族制度に拘り、妹に対抗心を持ち、好きになれなかった
  • イーディス(伯爵の次女):目的のない人生に懐疑、仕事に生きがいを見いだし、愛に苦しむ姿が好きだ
  • シビル(伯爵の三女):運転手のトムと結婚、出産後不慮の死、進歩的過ぎて好きにはなれなかった
  • バイオレット(伯爵の母):保守的だが、家族思いで、最後は時代の変化を認め折れるので好きになった
  • マシュー(メアリーの夫):弁護士で合理的判断をするので好きだ
  • イザベル(マシュー母):何事もはっきりと自分の意見を言うが思いやりもあるので好きだ
  • トム(三女シビル夫):運転手から貴族の家族になり苦労したが徐々に好きになった

(使用人)

  • カーソン(執事):古い貴族の生活を大事に思う頑固一徹な男、時代の変化を認識しているが自分は変われない寂しさを感じ同情したい
  • ヒューズ(家政婦長):優しい気持ちの持ち主
  • ベイツ(伯爵付の従者):トラブル続きの不幸な境遇だが頑張った
  • オブライエン(伯爵夫人付の侍女):いじわるばかりするので嫌いだ
  • トーマス・バロー(第一下僕):同じく他人を陥れるようなことばかりしていたので好きになれない
  • アンナ(メイド長、ベイツ夫人):賢い女、だんだん悲観的になっていくところに同情する
  • パットモア(料理長):賢くはないが部下思いなところもある母親的な人
  • デイジー(厨房メイド、ウィリアムの妻):きつい性格で心と反対のことを言う若さがあった
  • ウィリアム(第二下僕、デイジーと結婚):賢くはないが努力家、誠実
  • グウェン(メイド、辞職して秘書となる):進歩的な考えで、頑張って秘書となれたのは立派
  • モールズリー(マシュー付の執事兼従者、のちに下僕、学校の先生になる):失業してお先真っ暗になったが性格がよく、意外にも勉強家なのが最後に活きた、好きになった
  • アルフレッド(下僕、オブライエンの甥、辞職してホテル料理人):努力家で良いポジションを勝ち得た
  • フィリス(伯爵夫人付の侍女):暗い過去があるが、優しがあるので好きだ