田中学著「きみのお金は誰のため」(東洋経済新報社)をKindleで読んで見た。副題に「ボスが教えてくれたお金の謎と社会のしくみ」とある。私がよく見る株式投資関係のYouTuberが推薦していたので興味を持った。本の帯には「大人も子どもも知っておきたい経済教養小説」と書いてある。
小説の主な登場人物は3人
- 一人は中学2年生の佐久間悠斗君、家はとんかつ屋で両親と兄と暮らしている。学校で担任の先生による進路指導があり、「年収の高い仕事が良いです」と希望を述べる。
- もう一人は若い女性の久能七海、アメリカの投資銀行の日本支店に勤務し、為替や日本国債の取引を担当している。
- そして「ボス」と呼ばれる初老の男性、投資で莫大な富を築く。七海の会社の顧客、洋館の大邸宅に住む。
あるきっかけでこの3人がボスの邸宅でお金の話をすることになり、何回か続く。その主要なテーマは以下の3つ。これらはボスから若い二人に問題提起され、二人があれこれ答えるが、最初のうちはピント外れな答えでボスは満足せず、ヒントを出して二人に考えさせる、そうして議論していくうちにボスの言いたいことがわかってくる。
お金の謎1:お金自体に価値はない
お金の謎2:お金で解決できる問題はない
お金の謎3:みんなでお金を貯めても意味がない
ボスの話はなかなか“うんちく“に富んでおり、面白い。読んでいて、”なるほど“と思った所を少し紹介しよう。
- お金に価値があるのは選ぶ物があるときだ、教育に力を入れようと国が予算をつけても教える人がいなければ何もできない(お金で解決できる問題はない)
- ジンバブエの人がハイパーインフレに苦しんだのはお金が増えすぎたからではなく、物が生産できない状況にあったからだ、インフレ対策で金を配っても意味がない(お金で解決できる問題はない)
- 少子化が進めば生産する人が減り、どんなに金を持っていても買えるのもがなく、生活していけない(お金に価値はない)(みんなでお金を貯めても意味がない)
- 年金問題は金が足りないのが問題なのではない、少子化で生産力が足りないのが問題なのだ、年金問題を解決するには少子化をくい止めたり一人あたりの生産性を上げることだ(お金を貯めても意味がない)
確かに金があれば何でも解決するわけではないであろう。金で命は買えないし、金さえあれば結婚できるわけではないし、友人ができるわけでもない。金さえあれば幸せになれるわけでもないだろう。
以上のような話をした上で、格差や将来へのツケについての議論に発展していく。
- 現代の格差はフランス革命時の王室と庶民の格差と同じくらいになっていると言うが、内容は異なる。今は一部の人が富を独占しているが、その独占している人も庶民も同じスマホを使っているし、同じネットを使ってオンラインでネット通販をしている、金持ちも庶民も同じだ。富の格差はあるが暮らしぶりはフランス革命時ほどの格差はない
- 今の大金持ちはみんなを等しく便利にした会社の創業者が結果的に金持ちになったものだ。中身を見ないで富の格差だけ見て批判するのはおかしい
- 問題なのは、富の格差が生じたり、ネットの普及で街の商店が減ってきた時、「社会が悪い」と思うことだ。社会という悪の組織のせいにして自分がその社会を作っていることを忘れていることが一番タチが悪い
- 国の借金が増えると上の世代に文句を言う人がいるが、間違えだ。政府の借金は個人や企業の預金となっている。上の世代が将来にツケを残しているのではないことは明らかだ、世代間の格差ではなく、同世代間の格差が問題である
- 借金をして破綻した国とそうでない国の差は、借金をして誰に働いてもらったかの違いだ、借金して国内の労働力に頼る場合は問題ない
- 「誰のために働くのか」、それを「家族のため」と思う人は、すなわち家族のために金を儲けると考えている人だ。そうでなく、働くのは誰かのためだ。良いサービスを提供する、良い商品を販売する、それはみな、世のため人のためである。その働くという行為にお金は絡むかどうかは本質的な問題ではない
- 働くのは自分たちの社会のためだ、その「自分たち」という範囲をどんどん広げて行くのが大事だ、金の奴隷になっている人ほどこの「自分たち」の範囲が狭い、これを広げるには目的を共有することが必要だし、人を愛することが必要
この小説の最後には、どんでん返しのような驚きがあるが、それは読んでのお楽しみにしよう。お金に関することについて、いろいろ考えさせる小説であることは確かであり、金にまつわる問題について改めて考えを巡らせるには良い本だと思った。
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