はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

赤壁に龍は踊る・改 三章 その7 戸惑い

2025年01月20日 10時10分14秒 | 赤壁に龍は踊る・改 三章



周瑜の部屋をどうやって出たか、おぼえていない。
漉《す》いた紙のように白い顔をしていたらしく、程普のところから戻って来た魯粛と趙雲に、ひどく心配された。


「あなたがたは、何の用事で呼ばれたのだ?」
たずねると、魯粛が首をひねりつつ、答える。
「それが、こう言っちゃあなんだが、くだらぬ用件でな。
なぜわざわざ二人で呼び出されたのか分からなかったほどだ。あんたのほうは?」
水を向けられて、孔明は周瑜からの依頼について、答えた。
らしくもなく声が震えているのは、とんでもない約束に怯えているからか、それとも怒りのためか、自分でもわからないほど混乱していた。


孔明の話を聞き終えるなり、魯粛と趙雲は、周瑜の部屋に入ろうとする。
魯粛は、
「いくらなんでも無茶な依頼だ、撤回してもらおう」
と言い、
趙雲は、
「これが同盟者に対しての振る舞いか! 一喝してくれる!」
と息巻いた。
だが、孔明は両者をとどめる。
「いや、もう引き受けてしまったのだし、あとで文句を言っても、あの御仁は引き下がらないだろう。
どうしても同盟を無効化したいのだ」
「なぜだ」
趙雲が苛立ちを込めてたずねてくる。
「決まっている、荊州のためだ。都督は、すでにこの戦に勝てると踏んでいるのだ。
当然、そのあとの手を打つことも考えているだろう。
子敬どのと同じだ。荊州をどうするかをもう計算しているのさ」
「それで、荊州に駐屯するおれたちが邪魔だと?」
「そういうことだ。ただ、軍の数や勢いでは都督の軍のほうがわれらより勝っている。
それを勘案したうえでも、われらが邪魔なのだろう」


答えつつ、孔明は、樊口《はんこう》からきた胡済《こさい》と語り合っていた時に、外に潜んでいた曲者《くせもの》が、周瑜に情報を流したのではないかと推理した。
それはすぐに趙雲も思い当たったようで、唸るように言う。
「あの曲者が情報を流したのだとしたら、逃がすのではなかった」
「なんだい、曲者って?」
魯粛が怪訝そうにする。
この人物は、当面は味方につけたほうがよいだろうと瞬時に判断した孔明は、手紙のことだけはうまくぼかして、曲者が仮家にうろうろしていたことを教えた。
すると魯粛は、ふうむ、と考え込む。
「都督がそこまでするかな?」
「しかし、現にわれらは窮地に追い込まれた。
ここで三万本の矢を用意しなければ、われらの命もないし、わが君の面子も立たなくなる。天下三分の計も御破算だ」
趙雲が悔しそうに言うのを見て、孔明は申し訳なく思った。
あとから思えば、もう少しうまく立ち振る舞って、無茶を撤回させることもできたのではないか……?
とはいえ、下手に抵抗したら、あの場にいた戦場帰りの殺気だった武将らに、どんな目に遭わされていたか分からないのも事実だ。
「どうするんだい」
魯粛に問われ、
「これから考えます」
と孔明は答える。
いや、ほかに答えが見つからなかった。


つづく

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これからも更新がんばりますv ひきつづき、ブログやサイトに遊びに来ていただけると嬉しいです♪

赤壁に龍は踊る・改 三章 その6 三万本の矢

2025年01月19日 10時10分57秒 | 赤壁に龍は踊る・改 三章
「右都督《うととく》が」
と、魯粛が困惑した表情で孔明を見た。
周瑜と程普は当初反目しあっていたが、周瑜が心を込めて和解につとめたので、いまはともに手を取り合って曹操に対峙しているはずである。
しかしまだわだかまりがあるのか、周瑜のいるところへは顔を出したくないらしい。
「そちらの方がおっしゃるとおり、ここは周都督がいらっしゃるところですし、刺客の心配はないでしょう」
孔明はそう魯粛に答え、それから趙雲にも、
「大丈夫だろう、またあとで会おう」
と答えた。
趙雲はしぶしぶというふうだったが、部将に案内されて、魯粛とともに去った。


一方の孔明は、周瑜が待つという部屋へ入る。
そして、はっとなった。
その場には、戦を終えたばかりの周瑜を筆頭に、黄蓋、孫匡《そんきょう》といった主だった武将のほか、陸口《りくこう》に集められた名のある武将らが、ほとんど集まっていたからである。
首実験にしては大仰すぎる。
だいたい部屋を見回しても、血生臭い戦利品は見当たらなかった。


『しまった、子龍と別れなければよかった』
動物的な勘がはたらいて、まずいぞと孔明は構える。
しかし上座にある周瑜は、あいかわらずほがらかで、短い間に身づくろいもすませ、汗も拭き、髪も結いなおした様子で、さっぱりしていた。
孔明が
「お呼びのようですが」
と、伺いをたてると、周瑜は意味の掴みづらい微笑みを浮かべたまま、言った。
「孔明どの、貴殿と劉豫洲《りゅうよしゅう》(劉備)に、どうしても頼みたいことが出来た。受けてもらえぬだろうか」
「ご用件によりますな」
慎重に孔明が答えると、周瑜は、ははは、と愉快そうに声を立て笑う。
「そう構えられずともよい。簡単なことだ。さきほどの戦で、我が方はだいぶ矢を失ってしまった。
曹操は数に頼み、今後も襲ってくるだろう。これを迎撃するためにも、多くの矢がいる。
そこで……おわかりかな」
「わが軍に矢の調達をしてほしいとおっしゃるのですね」
「そのとおり。話が早くて助かる」
周瑜はさらにつづけた。
「三万本の矢が欲しい。頼めるだろうか」


孔明は素早く頭を働かせた。
樊口《はんこう》にいる劉備に連絡し、三万本の矢を調達する。
胡済《こさい》を先に帰してしまわねばよかったなとちらっと思ったが、これはもう取り返しがつかない。
別に使者を立てて、劉備に伺いを立てて、三万本の矢を運んでもらえれば、問題ないだろう。
樊口の劉備たちは、江夏にいる劉琦から、また別に矢を貰えば、戦場で矢が不足する状態にはならないはずだ。


「分かり申した、三万本の矢を用意いたします」
「よろしい、では、十日後に」
虚を突かれ、孔明は思わず目の前の周瑜をまじまじと見た。
ざんねんなことに、冗談を言っている顔ではない。
『十日後だと?』
孔明は、樊口で三万本の矢を集める日数、樊口との往復の日数、それらを計算してみたが、とても十日では間に合わない。
出来ない、と応えようとすると、畳みかけるように周瑜が言った。
「敵はいつまたやってくるか、わからぬからな。ここにいる諸将を証人として、同盟者たる劉豫洲のまごころを示していただく。
三万本の矢は、われらとわれらの劉豫洲を守ってくれるだろう。孔明どの、やってくれるな?」
周瑜ばかりではなく、その場にいる武将たちが、じっと孔明に視線を注いでくる。
こいつはどう答えるだろうかという好奇心と、出来ないと答えたらどうしてくれようという殺気が両方こもった視線だ。


どう計算しても、出来ないものは出来ない。
だが、ここで出来ないと答えたら、周瑜は同盟を破棄するつもりだ。
『どちらが敵かわからぬ。われらは共闘して曹操に当たらねばならないのに』
怒りがこみあげてくるが、多勢に無勢、怒りを面に表すこともできない。
答えはたった一つしか用意されていなかった。
「たしかに、三万本の矢、用意させていただきます」
すると、おお、と部屋中の者たちが感嘆の声をあげた。
孔明が、出来ないと泣きつくだろうと思っていたに違いない。
じわっと、脇と背中に汗がにじむ。
とんでもないことを約束してしまった。


つづく


赤壁に龍は踊る・改 三章 その5 大勝のあと

2025年01月18日 10時10分08秒 | 赤壁に龍は踊る・改 三章



兵をほとんど損なわず、緒戦を大勝でかざった船団を、陸口《りくこう》で待機していた兵士たちは大喜びで出迎えた。
魯粛もまた興奮しきって、飛ぶように周瑜のもとへ駆けていく。
出撃を知って、仮家から駆けつけてきた孔明と趙雲もまた、飛び上がって喜んでいる兵士たちのあいだをかき分けるようにして、波止場へと向かった。


「偉度《いど》(胡済《こさい》)を早めに樊口へ返して正解だったな。
あと一日遅かったら、戦に巻き込まれてしまうところだった」
趙雲が言うのを、孔明もうなずいて応じる。
胡済は、一昨日に陸口を出て、劉備の待つ樊口《はんこう》へ船で戻っていったのだ。


さすがだ、やっぱり周郎だ、とみなが口々に褒めたたえている。
それ聞きながら、趙雲が孔明に言った。
「あっけないものだな、曹操軍は、やはり水上戦が不得手と見える」
「だが、大将は討ち果たせなかったようだよ」
孔明はあごをしゃくって、甘寧がみなに見せびらかせている生首を示す。
控えめな趙雲らしく、敵将の首を持ったまま甘寧がはしゃいでいるのを見て、悪趣味だな、とつぶやいた。


大騒ぎしている兵士たちの声で、まともに互いの声が聞こえない。
孔明は声を張り上げて、趙雲に言った。
「あれは蔡瑁《さいぼう》ではないな。たぶん蔡瑁の甥だ。襄陽城《じょうようじょう》で見かけたことがある」
趙雲は短く、
「首だけになるとは、気の毒に」
と言ったが、そのことばは、さいわいにも大歓声にかき消された。
周瑜が旗艦の楼船から降りてきたのである。
孔明と趙雲は首を伸ばして、周瑜の表情をうかがった。
さすが万軍の将である。
歓声にこたえる術も知っていて、兵士たちからの歓声に、大きく両手を上げて、雄叫びで応じている。
周瑜の、英雄かくあらんといった姿に、兵士たちはますます興奮して、快哉をあげた。


ほどなく、周瑜は陸口の城内にもどり、主だった将軍たちも、それにつづいた。
孔明と趙雲も、周瑜たちの話を聞くべく、城内へ向かう。
その途上、魯粛と行きあった。
魯粛はまだ興奮さめやらぬといったふうで、早口で言う。
「どうだい、うちの大将はたいしたものだろう。緒戦とはいえ、大勝だ。
きっといまごろ、曹操も地団駄を踏んでいるだろうよ」
カカカ、と魯粛は笑って見せる。
確かに魯粛のいうとおりで、周瑜は申し分のない英雄だった。
孔明も感嘆していたから、
「都督はまるで、神話に出てくる人物のようですね」
とほめあげる。
魯粛はうんうんと、大きくうなずいた。


すると、周瑜についていた部将のひとりが、孔明たちに近づいてきた。
「都督が、孔明さまをお連れしろとおっしゃっております」
「蔡瑁の甥の首実験かな」
魯粛が首をかしげる傍らで、それは嫌な役目だなと孔明は苦く思う。
蔡瑁たちがどれほど嫌な連中かは、夏の騒動でよくわかっていたが、だからといって、首だけになってしまった者をわざわざじっくり見たいとは思えない。
「子敬どのと、そちらの主騎どのは、こちらへ」
魯粛と趙雲は別の部屋に案内されそうになる。
趙雲は眉根を軽く寄せて、たずねた。
「どこへ行くのだ? おれは軍師の主騎だ。離れるわけにはいかぬ」
「ご安心を。ここは周都督の管轄する場でありますから、刺客のたぐいは入り込んだりいたしませぬ。
子敬どのと主騎どのに、程都督(程普)が相談があるとおっしゃっているのです」


つづく


赤壁に龍は踊る・改 三章 その4 緒戦 その2

2025年01月17日 10時12分32秒 | 赤壁に龍は踊る・改 三章





甘寧の乗り込んでいる船の活躍は、とくに目覚ましかった。
かれは飛び交う矢を恐れることなく、偃月刀を振り回しながら部下たちに采配して、船を曹操軍の船のどてっ腹に突っ込ませた。
どおん、と大音声が響き、あたりに散った木材のにおいがただよう。
船と船の間隔がほぼなくなったのを見計らい、甘寧はおどろくべき跳躍力をみせ、敵船に飛び乗った。
命知らずの部下たちも、甘寧につづいて、どんどん曹操の船に乗り込んでいく。


とたんに、船上は乱戦の場となった。
甘寧は偃月刀の白い刃をひらめかせ、つぎつぎと敵兵を屠《ほふ》っていく。
足場はぐらぐら揺れる船の上だが、甘寧はものともしない。
部下たちも同様で、大将とおなじように、まるで陸の上にいるかのごとく振舞って、曹操の兵士たちを怯えさせた。


船長らしき将があらわれたので、甘寧は歯を剥いて、にやっと笑う。
「今日の土産は、貴様の首だっ」
「なにを小癪なっ、わたしが蔡徳珪《さいとくけい》(蔡瑁《さいぼう》)の甥だと知っての挑戦か!」
それを聞いて、甘寧はますます笑った。
「ならばなお、その首が欲しくなったぞ! わが名は甘興覇なり、冥途の土産におぼえておけ!」
言いざま、甘寧は偃月刀で蔡瑁の甥に斬りかかる。
蔡瑁の甥は、船上とは思えぬ勢いで繰り出される攻撃に、すぐに目を白黒させた。
「つまらぬなあ、手ごたえのないっ」
甘寧は吐き捨てると、蔡瑁の甥の首を一気に跳ね飛ばした。
それを見た曹操の兵たちは、もはや戦意を失い、降伏したり、観念して河に飛び込んだり、味方の船に逃げ込もうとしたり、さんざんである。





黄蓋もまた、老将らしい堅実さをみせて、つぎつぎと船を襲っては、めぼしい将兵を討ち果たしていた。
江東の船団の勢いに押され、帆柱を折られて航行不能になる船、横っ面に突撃を食らい、大破して沈む船、あきらめて降伏してくる船、さまざまである。


「これは、勝てるぞ!」
勝利を確信した黄蓋は、副将から弓矢を借りて、みずから蔡瑁の乗り込む楼船めがけて矢を放った。
矢はきれいな放物線を描き、楼船の中央にいた将めがけて落ちていく。
だが、その将もさるもので、矢を刀で、さっと切り伏せてしまった。
「うぬ、あとすこしであったが」
悔しそうにする黄蓋に、副将が叫んだ。
「あれが蔡瑁です、討ちましょうっ」
「よし、あの船に横付けするのだ、一気にカタをつけてやる!」


黄蓋が自分の船に合図をして、蔡瑁を追いかけようとすると、その楼船から、派手に銅鑼が打ち鳴らされた。
曹操軍の後退の合図である。
「逃がすな!」
黄蓋は漕ぎ手を励まし、蔡瑁の船を追おうとするが、蔡瑁もただの男ではない。
逃げ足だけは極めて速く、帆を満帆にさせると、風に乗ってそのまま逃げ切ってしまった。


悔しがる黄蓋の耳に、周瑜の打つ、引き上げの合図の銅鑼の音が聞こえてきた。
周瑜は、曹操が出撃してきていない以上、深追いをすることはないと判断したのだろう。
黄蓋は、一目散に烏林の要塞に逃げ込んでいった蔡瑁の船を睨んだ。
「つぎは、かならず仕留めてやる!」
その殺意に満ちた声は、おそらく蔡瑁の耳には聞こえなかっただろう。
老将は、引き揚げろ、と合図を出し、陸口《りくこう》に戻っていった。


つづく


赤壁に龍は踊る・改 三章 その3 緒戦 その1

2025年01月16日 10時15分39秒 | 赤壁に龍は踊る・改 三章



周瑜は目も覚めるような赤い甲冑に、金糸の折り込まれた白い戦袍を身にまとい、手には毛扇をたずさえていた。
その凛々しい姿が戦場にあらわれただけで、兵士たちの闘志が燃えていく。
自分の影響力に満足しつつ、
「敵の数は?」
と問うと、物見の兵が素早く答える。
「百隻はあろうかと思われます」
「ふん、急ごしらえの軍にしては、よく集めたものだな」
つぶやくと、周瑜はきりりと表情をあらためて、よく通る涼やかな声で、下知した。
「出撃っ、みなのもの、日ごろの調練の結果をぞんぶんに示せ!」
すでに配置について出航を待つばかりになっている船と言う船から、おおお、と雄たけびが聞こえた。
手にした盾を太鼓代わりに叩いて応える兵もいる。
「ご無事で、都督っ」
留守番の魯粛の声に、周瑜は軽く手を振ると、曹操軍のやってきた西南を厳しくにらんだ。


昨日までなにもなかった河の面に、一群の船団がならんでいるのが見えた。
それに向かって、江東の船団も、ぐんぐんと水面を駆けていく。
周瑜の鄱陽湖《はようこ》での調練がものをいい、風のほとんどない状態でも、漕ぎ手たちが合図にあわせ、整然と船を漕いでいった。


曹操軍と角を突き合わせられるほどの距離になったところで、周瑜は毛扇をさっと振り上げると、
「弓隊、用意っ」
と合図をくだした。
とたん、船べりに弓兵があらわれて、風に乗せて、曹操軍の船に向けて矢を放つ。
矢は孤を描いて曹操の船団に乗り込んでいる兵士たちをめがけていく。
遠目でも、矢に当たって河に落ちていく敵兵の姿がわかった。
曹操軍も負けじと弓兵を用意しているが、届く矢は、あきらかに江東の弓兵の放つそれよりも少ない。
ぼろぼろと、面白いように、敵の兵が河に落ちていく。
周瑜のそばに、敵が放った何本かの矢が降って来たが、まったく動じない。
周瑜はじっと目を凝らし、曹操軍の動きをみきわめる。


曹操軍の船団の中心の楼船に、『蔡』の文字の描かれた旗があった。
あれが旗艦だろう。
曹操軍の水軍都督・蔡瑁《さいぼう》があらわれたのだ。


双方、はげしい矢の撃ち合いとなる。


側近の兵の盾に守られながら、周瑜はつぶやいた。
「やはり、緒戦ゆえ、曹操はあらわれぬか」
残念だな、と周瑜は思った。
周瑜は曹操と言葉をかわしたことがない。
遠目で見たことはあるが、そのときは、とくに強い印象を受けなかった。
人づてに聞いた話では、曹操は間近で接すると、炎の玉のような苛烈な印象を与える人物だと聞いている。
『どんな奴か、顔を間近で見たかったが』
代わりにやってきたのは、蔡瑁である。
蔡瑁は、周瑜からすれば、小物に過ぎない。


じっと目をこらしていて、わかったことがある。
河のうえをぐらぐらと揺れる船のうえで、曹操の船団は、だいぶ往生しているようすだ。
蔡瑁の乗り込んでいる船はさすがに動きがよかったが、その周りの闘艦や蒙衝などは、矢を避けるだけで手いっぱいだ。
ろくに反撃できないまま、船の激しい揺れに負けて、まっさかさまに河に落ちていく兵すらいる。


一部の船が、接近戦をはじめたのを見究めて、周瑜はさらに大音声で叫んだ。
「よしっ、このまま押せ! 曹操の犬どもに、われらの土地に足を踏み入れんとしたことを後悔させてやるのだ!」


つづく


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