はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 三章 その5 大勝のあと

2025年01月18日 10時10分08秒 | 赤壁に龍は踊る・改 三章



兵をほとんど損なわず、緒戦を大勝でかざった船団を、陸口《りくこう》で待機していた兵士たちは大喜びで出迎えた。
魯粛もまた興奮しきって、飛ぶように周瑜のもとへ駆けていく。
出撃を知って、仮家から駆けつけてきた孔明と趙雲もまた、飛び上がって喜んでいる兵士たちのあいだをかき分けるようにして、波止場へと向かった。


「偉度《いど》(胡済《こさい》)を早めに樊口へ返して正解だったな。
あと一日遅かったら、戦に巻き込まれてしまうところだった」
趙雲が言うのを、孔明もうなずいて応じる。
胡済は、一昨日に陸口を出て、劉備の待つ樊口《はんこう》へ船で戻っていったのだ。


さすがだ、やっぱり周郎だ、とみなが口々に褒めたたえている。
それ聞きながら、趙雲が孔明に言った。
「あっけないものだな、曹操軍は、やはり水上戦が不得手と見える」
「だが、大将は討ち果たせなかったようだよ」
孔明はあごをしゃくって、甘寧がみなに見せびらかせている生首を示す。
控えめな趙雲らしく、敵将の首を持ったまま甘寧がはしゃいでいるのを見て、悪趣味だな、とつぶやいた。


大騒ぎしている兵士たちの声で、まともに互いの声が聞こえない。
孔明は声を張り上げて、趙雲に言った。
「あれは蔡瑁《さいぼう》ではないな。たぶん蔡瑁の甥だ。襄陽城《じょうようじょう》で見かけたことがある」
趙雲は短く、
「首だけになるとは、気の毒に」
と言ったが、そのことばは、さいわいにも大歓声にかき消された。
周瑜が旗艦の楼船から降りてきたのである。
孔明と趙雲は首を伸ばして、周瑜の表情をうかがった。
さすが万軍の将である。
歓声にこたえる術も知っていて、兵士たちからの歓声に、大きく両手を上げて、雄叫びで応じている。
周瑜の、英雄かくあらんといった姿に、兵士たちはますます興奮して、快哉をあげた。


ほどなく、周瑜は陸口の城内にもどり、主だった将軍たちも、それにつづいた。
孔明と趙雲も、周瑜たちの話を聞くべく、城内へ向かう。
その途上、魯粛と行きあった。
魯粛はまだ興奮さめやらぬといったふうで、早口で言う。
「どうだい、うちの大将はたいしたものだろう。緒戦とはいえ、大勝だ。
きっといまごろ、曹操も地団駄を踏んでいるだろうよ」
カカカ、と魯粛は笑って見せる。
確かに魯粛のいうとおりで、周瑜は申し分のない英雄だった。
孔明も感嘆していたから、
「都督はまるで、神話に出てくる人物のようですね」
とほめあげる。
魯粛はうんうんと、大きくうなずいた。


すると、周瑜についていた部将のひとりが、孔明たちに近づいてきた。
「都督が、孔明さまをお連れしろとおっしゃっております」
「蔡瑁の甥の首実験かな」
魯粛が首をかしげる傍らで、それは嫌な役目だなと孔明は苦く思う。
蔡瑁たちがどれほど嫌な連中かは、夏の騒動でよくわかっていたが、だからといって、首だけになってしまった者をわざわざじっくり見たいとは思えない。
「子敬どのと、そちらの主騎どのは、こちらへ」
魯粛と趙雲は別の部屋に案内されそうになる。
趙雲は眉根を軽く寄せて、たずねた。
「どこへ行くのだ? おれは軍師の主騎だ。離れるわけにはいかぬ」
「ご安心を。ここは周都督の管轄する場でありますから、刺客のたぐいは入り込んだりいたしませぬ。
子敬どのと主騎どのに、程都督(程普)が相談があるとおっしゃっているのです」


つづく



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