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はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

臥龍的陣 太陽の章 その58 土の下から

2023年02月12日 09時57分49秒 | 英華伝 臥龍的陣 太陽の章
「わが君は、おぼえておいでか」
ざっ、ざっ、と土の掘り返される活気のある音をよそに、麋竺は遠い目をして、つぶやく。
「わたくしがあなたさまに付いていく決意をしたのは、陶謙のやりように、どうしても我慢ができなかったためです。
あの男は臆病で、保身のことばかりを考えていた。
時局をわきまえず、あろうことか、曹操の父親を誤って死なせてしまい、多くの無辜の領民を虐殺させる事態を招いた」
「覚えているとも。あのときのことは、忘れたくとも、忘れられるものではない。
陶謙が悲鳴をあげたので徐州に行ってみたら、目の前にひろがっていたのは地獄だった。
そこいらじゅう、見回すかぎり死体だらけ、食べ物はぜんぶ腐っちまって、水も汚臭がして飲めたものではない。
死体に群がる蠅の羽音だの、死肉をあさるカラスや野犬の姿だけが生きている者の姿、という状態だった。
蠅がぶんぶんと耳にまとわりつく音を今でも思い出すぞ」


「わたくしは、後悔し続けております。徐州の民に責任のある身でありながら、かれらを守ってやることができなかった。
あの虐殺があった日から、気持ちが晴れたことがございませぬ」
「ああ、わかるよ」
劉備は沈痛な面持ちでうなずいた。


「ですが…勝手なものですな、孔明どのが徐州の琅琊のご出自で、あの惨禍にみまわれた一人でありながら、立派に成長していたと知ったときのうれしさ。
おそらく、ひどい目に遭われたことでしょう、嫌なものばかり見ざるを得なかったことでしょう。
それでも立派に成人した。
その姿を見たとき、それこそまるで生き別れた親族が、ひょっこり元気に顔をだし、たしかに大変だったけれど、生き残れたと言ってくれたような気がしたのでございます」


「それはわかるなあ、わしだって、もし孔明が徐州の出ではなかったら、これほどまで入れ込んだか、ちょっとわからなくなるときがあるもの」
「あの方のお力になることで、わたくしの罪は帳消しになった気がいていました。
しかしそれは、やはり錯覚であったのです。
過去から逃げることはできない。
七年前、われらが袁紹のもとを辞して荊州に入ろうとした、まさにそのとき、ちょうど劉表は恐ろしい計画を実行しようとしていたところでした。
わたしは運悪く、それに遭遇してしまった。
劉表はそれを逆手に取り、わたしを共犯者に仕立て上げたのです」


土を掘る音がぴたりと止まり、人夫のひとりが、悲鳴にも似た声をあげた。
蔵から逃げようとする人夫と入れ替わりに、陳到が掘りたての穴を覗く。
そこには、茶色く変色した、骨の一部があった。


陳到は骨の周囲の土を除く。
徐々に全体が明らかになるにつれ、それが一体や二体ではないことがわかってきた。
真上にあるものは、まだ頭髪に毛のはっきりと残る、新しいものであった。
だが、どんどん下に向かうにつれ、積み重ね方も雑多になり、古いものと新しいものが交互にあらわれてくる。
いったい、どれほどの人数が東の蔵の下に埋められていたのか、わからないほどであった。


「一気にやってしまおう」
陳到の号令で、人夫や、関羽までもが参加して、東の蔵のしたの、うずもれた人骨はふたたび掘り返されはじめた。
この戦乱の世で、みな白骨のひとつやふたつには慣れているが、これほどの数の多さとなると、めったにお目にかかれるものではない。
当初は、おそろしい光景に肝をつぶしていた人夫も、調練場に掘り出された骨が並べられ、その列が一列、二列と、どんどん増えてくるにつれ、やがてなにもいわなくなった。


晴れ上がった空の下、大勢の人があつまって、息をつめて作業を見守っている。
だれもひと言も発さない。


夏の風が、汗の流れ落ちるそれぞれの体をいたわるように、南から北へ抜けていく。
それなのに、陳到がさむけを催したのは、意外にすずやかな風のせいだけではあるまい。


戦場で、多くの|屍《しかばね》を見た。
なかには、おのれの殺めたものの屍もあった。
陳到は、それでも、それらをこれほどに悲しいとは思わなかった。


だが、目の前にある屍はちがう。
この屍を生んだ者たちは、この屍たちを人として扱わなかったのだ。
土に閉じ込められていた悪意が、掘り続けることで、一緒に地上に這い出してきたようにすら感じた。
胸が悪くなる。
この屍を生んだ者への憎しみが込み上げてきた。
屍の正体はまだわからない。
それでも、これほどまで陰湿な悪意を見せつけられては、黙っていられるものではなかった。


ずらりと並べられた人骨を前にして、麋竺は顔を両手で覆うようにしている。
麋竺を人格者だと思い、尊敬する仲間のひとりと思っていた陳到でさえ、その場では、麋竺をはっきりと軽蔑した。
麋竺が殺し、埋めさせたというわけではないことは、本人や嫦娥《じょうが》の話からわかっている。
だが、新野に眠るこの屍の存在について七年も沈黙し、隠してきたことは理解ができない。


麋竺は関羽すら驚嘆するほどの見事な弓の名手であり、財力も持ち、名声も持っている。
いわば、戦える立場にいる人間だった。
それなのに、なぜ、戦わずに沈黙をつづけていたのか、という怒りがわいてくる。


つづく


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近況報告は、本日、更新いたします。
またいろいろ書いておりますが、お時間ありましたら見てやってくださいませ。
それと、今年は欲しいゲームが山ほど登場する様子…マリーのアトリエのリメイクとか、ガールズモードの後継的作品とか…どうしよう、お金が足りないよう;
というか、その前に50本あるゲームをクリアしろという話ですね。
こっちも「続編」の制作も、それぞれがんばります!
それでは、また近況報告にてお会いしましょう('ω')ノ


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