一同はそれぞれ作戦のための行動を開始した。
趙雲もまた、自分の部隊に作戦を伝えるために移動しようとしたが、ふと気づいて、孔明を振り返った。
「軍師、おれはしばらくお前を離れることになる。
そのあいだ、守ってやれなくなりそうだが、大丈夫か」
孔明は、しばらく言葉の意味がつかめなかったような顔をした。
それから、急に意味が心にしみ込んだようで、破顔《はがん》して答えた。
「なにを言い出すかと思えば。
大丈夫だよ。みながわたしを守ってくれる。そうでしょう」
と、孔明が趙雲のいる方向とは別のところへ顔を向ける。
ほかにも広間に人が残っていたのかと思いつつそちらを向けば、立っていたのは、意外にも、劉封《りゅうほう》だった。
急に水を向けられて、劉封は、顔を赤くして、
「あ、うう、うむ」
と、不明瞭に答えた。
劉封は劉備の養子としての矜持《きょうじ》が高い青年だ。
そのため、いままで新参者の孔明をどうしても認めたがらないでいた。
しかし、いまの孔明のことばを解釈すると、劉封がとうとう折れたと取れなくもない?
趙雲が目を丸くしていると、劉封は、そんな目をするなと言わんばかりに顔をしかめた。
「わたしが軍師を守るのがおかしいか」
「おかしくはないが、意外だと思ったまでだ」
単刀直入に言うと、劉封はさらに顔をゆがめた。
「意外とは失礼ではないか! わたしとて劉玄徳の子。
軍師がどれほど父上にとって大事な家臣かはわかっておる!」
「ありがとうございます」
孔明はしれっと、頭を下げて言った。
「あ、頭を下げるな、調子が狂う!
貴殿の策は、このわたしが必ず成功させるゆえ、安心するがいい!
でもってついでに守ってやるから大船に乗った気でいろ!」
「ええ、信じております」
孔明が真顔でうなずくと、劉封はますます沸騰した。
「よいか、これは一時の休戦なのだぞ!
まず、われらはかならず父上をお守りして生き残らねばならぬからな。
いまはいがみ合っている場合ではない。
わたしは貴殿を後ろから襲うような卑怯な真似はせん、ただそれだけだ!」
「ええ、それも承知しております」
「なかなかよいところがあるではないか」
趙雲が思わず言うと、
「うるさいっ!」
と劉封は怒鳴って、その場から荒々しく退出してしまった。
一時の休戦と言い張るところに、劉封の若さがあるなと呆れていると、孔明がうれしそうに口元をほころばせているのがわかった。
「やっとあの御仁と気持ちを通じ合えるようになったようだな。
こればかりは曹操に感謝せねばなるまい」
「気持ちが通じ合ったとまでは言えないような気もするが……とりあえずは良かったなと言うべきか。
あいつは根は真面目だから、おまえを守ると言ったからには、必死で守ってくれるだろうよ」
「そうだろうと、わたしも信じている」
孔明は満足そうに、何度も、うん、うん、とうなずいた。
「うれしそうだな、軍師」
「うれしいさ。敵は多いより少ないほうがいい。
あの御仁がいくらかわたしに歩み寄ってくれたのも、わたしをすこしは認めてくれたということだろうからね。
それより子龍、叔至《しゅくし》(陳到《ちんとう》)がずいぶん落ち込んでいるようだから、励ましてやってくれ。
それから、あまり感情的になってはいけないとくぎを刺しておいてくれ。
今度の戦でかれを失うわけにはいかぬ」
「わかった、そうする。おまえも曹操を前に、頭に血をのぼらせるなよ」
言ってから、趙雲は、この目の前の軍師とつぎに言葉を交わせるのは、いつになるだろうと、考えた。
柄にもなく感傷的になってしまったわけは、それほどこの軍師に入れ込んでしまったからなのかもしれない。
孔明のほうは、そんな趙雲の心情を知ってか知らずか、からから笑って答える。
「わたしの主騎は優秀だ。わたしのことをちゃんとわかっている。
気を付けるよ、もちろん。
たとえ本人が最前線にあらわれたとしても、真っ先に突っ込むような馬鹿はしない」
「そうか、そうだな、おまえは馬鹿じゃない。無理はしないだろう」
孔明は自分の立場をよくわかっている。
策を主導する自分になにかあったら、劉備軍は瓦解《がかい》しかねないと理解しているのだ。
孔明はすまし顔で言う。
「うむ、無理はせぬ。ただし、わが主騎が生きて戻ってこなかったならば、その限りではない。
あなたも無理をしてくれるなよ、子龍」
「わかっている。お互いにな」
「それを聞いて安心した。さて、もろもろ準備を開始しようではないか。かならず生き残るぞ」
気合に満ちた孔明のことばに、趙雲も大きくうなずいた。
つづく
趙雲もまた、自分の部隊に作戦を伝えるために移動しようとしたが、ふと気づいて、孔明を振り返った。
「軍師、おれはしばらくお前を離れることになる。
そのあいだ、守ってやれなくなりそうだが、大丈夫か」
孔明は、しばらく言葉の意味がつかめなかったような顔をした。
それから、急に意味が心にしみ込んだようで、破顔《はがん》して答えた。
「なにを言い出すかと思えば。
大丈夫だよ。みながわたしを守ってくれる。そうでしょう」
と、孔明が趙雲のいる方向とは別のところへ顔を向ける。
ほかにも広間に人が残っていたのかと思いつつそちらを向けば、立っていたのは、意外にも、劉封《りゅうほう》だった。
急に水を向けられて、劉封は、顔を赤くして、
「あ、うう、うむ」
と、不明瞭に答えた。
劉封は劉備の養子としての矜持《きょうじ》が高い青年だ。
そのため、いままで新参者の孔明をどうしても認めたがらないでいた。
しかし、いまの孔明のことばを解釈すると、劉封がとうとう折れたと取れなくもない?
趙雲が目を丸くしていると、劉封は、そんな目をするなと言わんばかりに顔をしかめた。
「わたしが軍師を守るのがおかしいか」
「おかしくはないが、意外だと思ったまでだ」
単刀直入に言うと、劉封はさらに顔をゆがめた。
「意外とは失礼ではないか! わたしとて劉玄徳の子。
軍師がどれほど父上にとって大事な家臣かはわかっておる!」
「ありがとうございます」
孔明はしれっと、頭を下げて言った。
「あ、頭を下げるな、調子が狂う!
貴殿の策は、このわたしが必ず成功させるゆえ、安心するがいい!
でもってついでに守ってやるから大船に乗った気でいろ!」
「ええ、信じております」
孔明が真顔でうなずくと、劉封はますます沸騰した。
「よいか、これは一時の休戦なのだぞ!
まず、われらはかならず父上をお守りして生き残らねばならぬからな。
いまはいがみ合っている場合ではない。
わたしは貴殿を後ろから襲うような卑怯な真似はせん、ただそれだけだ!」
「ええ、それも承知しております」
「なかなかよいところがあるではないか」
趙雲が思わず言うと、
「うるさいっ!」
と劉封は怒鳴って、その場から荒々しく退出してしまった。
一時の休戦と言い張るところに、劉封の若さがあるなと呆れていると、孔明がうれしそうに口元をほころばせているのがわかった。
「やっとあの御仁と気持ちを通じ合えるようになったようだな。
こればかりは曹操に感謝せねばなるまい」
「気持ちが通じ合ったとまでは言えないような気もするが……とりあえずは良かったなと言うべきか。
あいつは根は真面目だから、おまえを守ると言ったからには、必死で守ってくれるだろうよ」
「そうだろうと、わたしも信じている」
孔明は満足そうに、何度も、うん、うん、とうなずいた。
「うれしそうだな、軍師」
「うれしいさ。敵は多いより少ないほうがいい。
あの御仁がいくらかわたしに歩み寄ってくれたのも、わたしをすこしは認めてくれたということだろうからね。
それより子龍、叔至《しゅくし》(陳到《ちんとう》)がずいぶん落ち込んでいるようだから、励ましてやってくれ。
それから、あまり感情的になってはいけないとくぎを刺しておいてくれ。
今度の戦でかれを失うわけにはいかぬ」
「わかった、そうする。おまえも曹操を前に、頭に血をのぼらせるなよ」
言ってから、趙雲は、この目の前の軍師とつぎに言葉を交わせるのは、いつになるだろうと、考えた。
柄にもなく感傷的になってしまったわけは、それほどこの軍師に入れ込んでしまったからなのかもしれない。
孔明のほうは、そんな趙雲の心情を知ってか知らずか、からから笑って答える。
「わたしの主騎は優秀だ。わたしのことをちゃんとわかっている。
気を付けるよ、もちろん。
たとえ本人が最前線にあらわれたとしても、真っ先に突っ込むような馬鹿はしない」
「そうか、そうだな、おまえは馬鹿じゃない。無理はしないだろう」
孔明は自分の立場をよくわかっている。
策を主導する自分になにかあったら、劉備軍は瓦解《がかい》しかねないと理解しているのだ。
孔明はすまし顔で言う。
「うむ、無理はせぬ。ただし、わが主騎が生きて戻ってこなかったならば、その限りではない。
あなたも無理をしてくれるなよ、子龍」
「わかっている。お互いにな」
「それを聞いて安心した。さて、もろもろ準備を開始しようではないか。かならず生き残るぞ」
気合に満ちた孔明のことばに、趙雲も大きくうなずいた。
つづく
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管理人のやる気がまったくちがってきますv
ではでは、次回は一章のラストの回です。
どうぞおたのしみにー(*^▽^*)