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はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

おばか企画・心はいつもきつね色 探索編・4

2020年10月24日 10時07分13秒 | おばか企画・心はいつもきつね色
「義兄弟募集の告知は、軍師はご存じないのさ。あとでおまえの父上に聞いてみるがいい。いまごろ軍師は仰天してパニックになっているのではないかな」
「ええ? そうなのかい? 父上に聞いたのだが、軍師は告知のことはご存知のようだよ?」
「本当か?」
「昨夜は、父上がめずらしく、軍師将軍のお屋敷に泊まりがけで遊びに行ったのだ」
「ほう」
偉度が目をほそめて相槌を打ったのは、董和が孔明の屋敷に遊びに行くことが珍しかったからではない。
董和と孔明は、なんだかんだと息が合っており、ちょくちょくと屋敷を訪問し合っているのだ。
董和のほうは、孔明の、偏りのある食生活を心配してのことらしいが。
しかし昨夜に董和が孔明の屋敷を訪れたのは、おそらく、孔明の義兄弟の申し出を、計算に夢中になっているついでに、断ってしまったことを気に病んでのことにちがいない。
「おまえの父上は、相変わらず気遣い上手だな。で?」
「うん、これからの政務について話が弾んで、徹夜で語り明かしていたそうなのだが、そこへ朝刊が届いてね、広告を見るなり、軍師はH.I.S.に電話を架けたそうだ」
「H.I.S.? まさか国外逃亡を計画しているのじゃないだろうな」
「ちがうよ。ほら、あの看板にもあるじゃないか」
と、休昭が指差した先には、『選考会 試験会場』の下に、その人となりを見事に表わした、跳ねる魚のような力強い文字で、『当選者はP島へご招待』とあった。

「あの特徴のある字は、軍師のものだな。でも、『P島』って、なんだ?」
「P島といったら、プリンスエドワード島のことにちがいない」
と、恥ずかしさから立ち直った文偉が口を挟む。
「プリンスエドワード島といえば、『赤毛のアン』の舞台だ、グリーンゲイブルズだ! 『恋人の小径』だ、『お化けの森』だ! 
緑の丘とうつくしいせせらぎの小川を眺め、『輝く湖水』へピクニックに行くのだよ。でもって、時間があったら、アンのように墓場を散策するのも楽しいかも知れぬ」
「落ち着け、文偉。しかし、軍師の頭に、P島=プリンスエドワード島という発想があるとは思えぬ。プリンシペ島(アフリカ大陸南西部に位置するサントメ・プリンシペ民主共和国の一部)かもしれぬぞ」
「それならそれでいいさ。原始のジャングル探検を楽しむ。もしかしたら、ジャングルで世界未発見の生物を見つけられるかもしれぬぞ」
「前向きなのだか、なんなのだか…」
「と、いうわけで、我らはもちろん軍師の義兄弟になりたいのが主な動機なのであるが、P島にも行ってみたいのだよ。
偉度、おまえは荊州からずっと、軍師を見ていて、われらよりよく軍師の好みを知っているだろう? 軍師は、どのような好みをお持ちなのだろう?」
「好みって、それは、友にたいする好みということだよな……うむ、本人はあまり自覚していないと思うが、同性に関しては面食いな傾向があるな。
とはいえ、おまえたちみたいに、のほーんとした顔では駄目だ」
「駄目なんだ!」×2
「おまえたちに判りやすく言うと、趙将軍みたいな、ああいう、いかにも男らしいというか、凛々しいというか、渋くて翳りのある顔に弱い傾向にあるな、うん」

「では、わたしのような顔か」
突如として割って入ってきた、明快かつ、自信に満ち溢れた声に、偉度、休昭、文偉の三人は、驚いて振り向く。
振り向いて、さらに驚いた。
「馬将軍ではありませぬか! もしや、将軍も、軍師の義兄弟になりたいと思っておられるのですか?」
文偉が尋ねると、目も覚めるほどの派手な色合いの錦を、このひとでなければ着こなせないであろうと思うほどに洒脱に着こなしている馬超は、首をかしげた。
「うむ? この行列に並んでいると、軍師の義兄弟になれるのか?」
「なれる、といいますか、なるために選考会に参加しようとしている者たちの行列です」
「おお、そうであったか。なにやら行列があるので、面白そうだから並んでみたのだが」
「好奇心旺盛ですな……話を戻させていただきますが、失礼ながら、馬将軍のお顔は、軍師の好みと、ちと違う気がいたします」
「そうか? 行列を見回すに、男らしく凛々しい顔という点では、わたしのほかに該当する者はないようだが」
馬超はさらりと言ってのけるのであるが、そこが嫌味にならないところが、錦馬超の、錦馬超たる所以である。
「その二点はおっしゃるとおりでございましょう。ただ、渋くて翳りがあるとなると、違うのでは?」

偉度が指摘するとおりで、馬超は世人より誉めそやされるほどに男らしい美貌に恵まれているが、それはあくまで陽の印象を与える派手なもので、『渋さ』『翳り』といった陰の要素は、まったくないのである。

「軍師が特別に仲良くしていたのは、趙将軍のほかに、休昭の父上とか、そうそう、襄陽にいたときには、徐元直にべったりだった」
偉度の言葉に、文偉が反応する。
「その名はよく聞く。最初は主公の軍師であったのに、事情があって曹操のもとに降らねばならなかったという人だろう」
「そう。あれなんぞは、渋さと翳りという点にかけては、趙将軍よりも勝るだろうな」
「それはちがうであろう」
と、意外にも反論したのは馬超であった。
「思うに、渋い顔ならば生まれつきのもおるし、借金で首が回らぬ男も、たいがいは渋面をしておる。
軍師の場合、顔を好んでいるというわけではなく、その顔の内側に秘めたものを、じっと堪えている風情を好ましく思っているのではなかろうか」
馬超が言うと、文偉と休昭のふたりは、おおー、と感嘆の声をあげた。
「さすがスター錦馬超。言うことにも深みがある! なるほど、外見の渋さよりも内面からにじみ出る渋さか。貧乏で困っているわたしなんぞは、有利かもしれぬ!」
「おまえは貧乏でも、口ほどに困っていないではないか」

それを言えば、馬超などは、文偉や休昭らの想像を絶するほどの半生を送ってきている。
そのわりに、表面に苦しみや翳りといったものが表れていないな、と偉度は思う。
……いや、それは偉度が知らないだけで、馬超は、苦しみを突き抜けて、ひとびとより一段上の境地に落ち着きつつあるからなのだが、どうしてそうなったのか、それはまた別の話である。

「平西将軍の説には頷けるものがございますな。たしかに、軍師ほどの、派手で落ち着きのない、非常識のエレクトリカルパレードIN左将軍府を制するには、落ち着きに加えて、世の酸いも辛いも噛み分けたような、真の意味での大人の男が必要かもしれませぬ」
偉度の頭の中にあるのは趙雲なのであるが、肝心の本人は、いまもってあらわれない。
と、偉度は、行列をきょろきょろと見回す。
そして、ふと、後方にいる、ある人物を見て顔を強ばらせた。
「どうしたのだ、偉度?」
「……マズイな。いかにも軍師が弱そうな顔がおるぞ」
と、偉度が指差す方角には、ひとりの無精ひげを生やした男がひとり。
全身から渋さを醸し出すその男は……
「タ、タケノウチ?!」
「もしや、本人? サイン帳、家に忘れたっ! というか、なぜここに? 神狗を追っているうちに、ここに迷い込んでしまったのだろうか」
「いや、その迷いっぷりはすごすぎる。おそらく本物ではなく、そっくりさんにちがいない。
しかし、そっくりさんにしても、渋い! そしてカッコイイ! 
いかん、これは我らがプリンスエドワード島へ遊びにいける確率が低くなってきた!」
「どこの誰かは知らぬが、これはダークホース登場だな…軍師が顔だけで義兄弟を選ばないことを祈るばかりだ」





四人が、ぎゃあぎゃあと騒いでいるのを前に、その『タケノウチ』似の男は、戸惑っていた。

わたしを指差して、周囲が『タケノウチ』という名を漏らしつつ、ひそひそしているのはなぜなのだろう? 
武豊なら知っているのだが。
ええい、軍師将軍の身辺調査に来ただけなのに、行列とは面倒な。
まさか、ヤツへの陳情者が、これだけいる、ということではなかろうな。
ヤツは、それほどに人気があるのか、忌々しい。

そうして、ますます渋い顔をさらに渋くしかめるこの男、もうお気づきだろう、法孝直その人なのである。
妻にすすめられるまま、『オヤジ改造工房』に足を運んでみたものの、そこにいたハリウッド帰りを自称する怪しげなメーキャップアーティストは、
「こんなに見事にキツネ顔だと、いじるのもムズカシイわー、いっそ、被ってみる?」
と、法正にSFX用のマスクをかぶせてきて、法正は、なんだかよくわからない髯面の男に変身させられてしまったのだ。

とりあえず、自分が『法正』であると、左将軍府の面々にばれなければよいわけであるから、まあよいわと、マスクをかぶったままやって来てみれば、ナゾの大行列(法正の妻は、自分たちが読まないからというので、湯布院に出かけているあいだ、新聞を止めてしまったのである)。
左将軍府にさっそくやってきたはよいが、いったい、この行列はなんなのだろう。
左将軍府の若造めが、なにをはじめたのだ? 
しかし、逆に考えれば、これだけひとがいれば、怪しまれずに左将軍府に潜入することも可能というわけだ。
『タケノウチ』という言葉が気にかかるが、わたしの進むべき道は、まちがっちゃいない、歩いていこう。I blieve。

カルトクイズ編につづく……

(サイト・はさみの世界 初出・2006/03/15)


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