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帯とけの枕草子〔二百五十一〕人のうへいふをはらだつ人こそ
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百五十一〕人のうへいふをはらだつ人こそ
文の清げな姿
他人の身の上を、とやかく言うのを腹立てる人こそ、よくわからないことよ。どうして言わずに居られましょうか。わが身の上はさし措いて、これほどもどかしく、言いたいことが(他に)あるかしら。だけど、とやかく言うのは・咎めるべきことのようでもあり、それに、自然と聞きつけて恨んだりする、よろしくはない。
それに、思い離れられそうもない方は、お気の毒などと思い解っていれば、我慢して、身辺のことなど・言わない。そうでないと・言い出し笑ったりもするでしょう。
――関白失せ給い内大臣流され給うた中宮方の衰えをば書かない。これは「心ばせ(才気ある心づかい)」である。立場が違う人々には、わが思うお方の身の上の不幸は、笑いの種になるかもしれない。
原文
人のうへいふをはらだつ人こそ、いとわりなけれ。いかでかいはではあらん。わが身をばさしをきて、さばかりもどかしく、いはまほしきものやはある。されど、けしからぬやうにもあり、又をのづからきゝつけて、うらみもぞする、あひなし。
又思ひはなつまじきあたりは、いとおしなど思ひとけば、ねんじていはぬをや、さだになくは、うちいでわらひもしつべし。
心におかしきところ
男の上(正妻)をとやかく言うのを、腹立てる男こそ、よくわからないことよ。他の妻たちが・どうして言わずに居られるでしょうか。わが身のことはさし措いて、これほどもどかしく、言いたいことが(他に)あるかしら。だけど、異様で咎めるべきことのようでもあり、それに、正妻が・たまたま聞きつけて、恨んだりする、つまらない。
それに、もしも思い離れそうな男ならば、その・思いがなくなれば、祈念してまで、正妻のことなど・言わないでしょう。そうでなければ、正妻の悪口を・言い出して笑ったりするでしょう・そうするがいい。
――他の妻が正妻をとやかく言うのは君が愛おしいから。
言の戯れと言の心
「人…他人…男」「うへ…上…身の上…貴人の妻…正妻」「あたり…辺り…周辺…お方」「いとおし…かわいそう…おきのどく…愛おしい…愛している」「おもひとけば…思いが解ければ…思いがわかれば…思いが解消すれば」「ねんじて…念じて…我慢して…こらえて…祈念して…祈る思いで」「まじ…打ち消しの推量を表す…しそうにない…まし…仮に想像する意を表す…もし何々だったら」「さだになくは…そうでなければ…立場かかわり思うお方でなければ…君を愛おしく思わないならば」。
『枕草子』の文には表も裏も中味もある。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。