帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(7)消えあへぬ雪の花と見ゆらん

2016-09-01 18:35:32 | 古典

               


                            帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで解き直している。
この歌は、早春の風情につけて、どのような、心に思うことが、詠み添えてあるのだろうか。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
(7)

 

 題しらず               よみ人しらず

心ざしふかくそめてしおりければ 消えあへぬ雪の花とみゆらん

ある人のいはく、さきのおほきおほいまうちぎみの歌也

(真心深く、思いを込めて、枝折ったので、消えきらない、枝の雪が、花と見えるだろう……此処ろ挿し深く、初めてなのだ、身の枝、逝き果てたので、消えきらない、白ゆきが・おとこの情念が、をみなには・華と見えるだろう)

  
      
(或る人の曰く、前太政大臣の歌である……或る人がいうには、先の、大いなる、多き大今射ち君の歌である)


 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「こころざし…厚意…真心…好意…此処ろ挿し」「ろ…意味を強める…感動を表す」「そめてし…染めてし…思い入れてだ…初めてし…初めてなのだ」「し…強意を表す…枝…肢…身の枝…おとこ」「おり…折り…逝き…果て」「雪…逝き…おとこ白ゆき…おとこの情念」「花…木の花…梅・桜など…男花…木の言の心は男…華…華麗…華美」「見ゆ…見える…思われる」「見…覯…媾…まぐあい」「らん…推量の意を表す」。

「さきの…前の…先の…先発の」「おほきおほいまうちきみ…太政大臣…大今射ち君…大いなる早射ち君…おとこの性(さが)ながら、早いうち切りを、からかう言葉、伊勢物語においても、このように戯れている」「今…即…すぐ…早くも」。

 

雪の降りかかる梅の枝を、心をこめて静かに折って、かざしにして詠んだ歌。――歌の清げな姿。

大いなる、いま射ち君が、先に白ゆき降らせ、和合ならずとも悪びれることなく、女(をみな)よ・華と見るだろうという男の心を詠んだ歌である。

 

太政大臣藤原良房の若い頃の歌として聞いた。藤原良房は、若い頃から、自信家で強引な性格だったようである。太政大臣・摂政・関白の地位を築きあげた人。妹、娘、姪を入内させ、誕生した皇子が、若くして即位すると摂政となった、また甥の藤原基経を養子にして、その地位を継承させた。「伊勢物語」では、業平の主たる敵役であった。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)