帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(12)ひまごとにうちいづる波やはるのはつ花

2016-09-06 19:15:02 | 古典

               


                            帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
12

 

寛平御時后宮歌合の歌           源当純

谷風にとくる氷のひまごとに うちいづる波やはるのはつ花

宇多天皇の御時、后の宮主催の歌合の歌  源当純(みなもとのまさずみ)

(谷間に吹く春風に、融けている氷の隙間毎に、うち出る波が、春の初花か……をみなに吹く春風に、とけるこほりの秘間ごとに、うち出でる白なみよ、春情の初花か・張るの発つ花か)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「たに…谷…谷川…言の心は女…たに間…おんな」「風…気節風…ここは、春風…心に吹く風…女心に吹く風、ここは、春情の風…女の心風には、厭き風や、心も凍る寒風もある」「こほり…氷…春を迎えていない女…子掘り・井掘り…まぐあい」「間…ま…言の心は女…おんな」「なみ…波…白波…心波…汝身…おとこ」「や…疑問を表す…感嘆を表す」「はる…春…春情…張る…おとこ」「はつ花…初花…梅よりも早く咲くお花…初花…発つ花…発すおとこ花」。


  后宮は、太政大臣藤原基経の娘、温子。宇多天皇妃、七条の后とも申す。

 

春風に、谷川の氷が融けて、隙間より白波の出でる早春の風情。――歌の清げな姿。

たに川の春風に、解ける子掘りの、秘間ごとに、射ち出づる、汝身や・白波や、春情の、発つ花。――心におかしきところ。

 

「古今和歌集(延喜五年905に奏上)」は、「寛平御時后宮歌合(889897年の間に催された)」の歌より、この歌をはじめ多数の歌を採入している。歌合の部立ては、春歌二十番、夏歌二十番、秋歌二十番、冬歌二十番、恋歌二十番で、古今集の原型のようである。歌人には、友則、貫之、躬恒、忠岑ら古今集撰者の名もある。

四季の歌として分類されてあっても、自然の風情だけを詠んだいわゆる『自然詠』などと言う和歌は一首もたりともない。人がほんとうに「心におかしい」のは人の心の有様である。


 (古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)