シルヴィア・ナサー(塩川優訳)『ビューティフルマインド-天才数学者の絶望と奇跡-』、新潮社(2002.3)
ナッシュ均衡でノーベル経済学賞を受賞したナッシュの伝記です。
ラッセル・クロウが主演し数々の賞を受賞した映画”ビューティフルマインド”の原作です。
同書では、若き天才数学者を獲得しようとしたいくつかの大学とナッシュとの駆け引きを初め、プリンストン大学における天才秀才の学生たちの生活が生々しく描かれています。
後日有名になる数学者の卵たちとのやりとりにも興味を惹かれます。
ナッシュ均衡のアイディアをフォン・ノイマンに伝えたときの感想は”不動点定理の一つに過ぎない”という酷評でした。
それを聞いたときナッシュは、ナッシュ均衡のアイディアがノイマンのゼロ和ゲーム理論をはるかに凌いでいたことをノイマンが悟ったための嫉妬のせいではないかと感じたようです。
ナッシュは、ナッシュ均衡の成果で自分がフィールズ賞を受賞できると信じていましたが、それを逃したために精神状態がおかしくなりました。
ナッシュは、自分の才能を信じて数学の難問に挑戦し続けました。
超難問であるリーマン予想を解決したいという天才たちは後を絶ちません。
ナッシュもその誘惑にとらわれましたが結局挫折しました。
そのこともナッシュの精神に一層のダメージを与えたようです。
連続体仮説を証明しフィールズ賞を受賞したコーヘンもリーマン予想の解決に挑戦しましたが失敗しました。
コーヘンは、ナッシュの5年後輩です。
ハイゼンベルクの不確定性原理は間違っているという考えを無謀にもアインシュタインに相談したところ、やさしくたしなめられたそうです。
ナッシュは、病院への入退院を何度も繰り返しました。
精神状態がおかしくなってプリンストン大学構内をさまよって壁に頭を打ち付けたりおかしなことを言ったりしたために”ブリンストンの幽霊”と呼ばれたこともありました。
精神状態が不安定な時には、世の中のささいなことにも因果関係があると信じて新聞の隅々まで目を通して自分なりの関連付けをしていました。
このよう傾向はゲーデルにもみられます。
ナッシュが精神分裂病になってからも何人かの数学者仲間は、天才数学者ナッシュを何とか立ち直らせたいと応援しました。
何十年もかけて精神分裂病は寛解しました。
天才の想像を絶する集中力にはいつものことながら圧倒されます。
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