鳥居清長
江戸のヴィーナス誕生
2007年4月28日から6月10日
千葉市美術館
今年は浮世絵ばかり見ていますが、決してよくわかって鑑賞しているわけではありません。それは一つには大規模な回顧展が殆ど開催できないと事情によるものでしょう。先般東博で開催された北斎展ですら、久々でした。他の浮世絵師となると殆ど開催されません。鳥居清長展は昭和39年に139点を集めた没後150年展が開催されたぐらいとこと。270点の規模は空前絶後だろうという。千葉市美術館は1995年に歌麿、2002年に春信展を開催したそうだが、それに引き続くもの。小林忠先生に感謝。
鳥居清長(1752-1815)は、天明期(1781-89)を代表する浮世絵師。天明期になり、清長は錦絵のサイズを中判(26x18センチ)から大判(39x26センチ)に替えている。これにより画面サイズが倍となり表現の豊かになったという。また、西洋画法の取入れが享保時代からおこり、司馬江漢が銅板画を「日本創製」したのが天明三年。平賀源内がレーレッセ著の「画法書」を入手している。小林忠先生は解説でこの中の「人体権衡図」が、鳥居清長の八頭身美人をもたらしたのではないか、だからこそ、その版画は西洋人にとって親しみやすく早くから流出してしまったのでは、と推測している。浅野秀剛学芸課長は、5月20日放送の「新日曜美術館」の中で、大判になったから八頭身美人になったのではと語っていた。
第三章、第四章は圧巻。清長の作品を初めて理解。必見。
さて、展示は、
第一章は 浮世絵デビュー -初期作品。
安永(1772-81)期以前の作品
役者絵から。
春信風の「婚礼十二式 壹 見合」(シカゴ美術館。本シリーズは12種の6種が存在報告)「正月 羽根つき鞠つき」(神奈川県歴史博物館)、「風俗深川八景」前後期あわせて4種(以下何種とあるは前後期あわせて)(礫川浮世絵美術館)、「風流座敷八景」5種(個人、シカゴ美術館、春信の「坐敷八景」に倣った。瀟湘八景のパロディー 行灯夕照、時計晩鐘、台子夜雨、扇子晴嵐、鏡台秋月)
すこし清信らしい女性となった「座敷八景」2種(シカゴ美術館)。
「風流江戸八景」3種、「四季八景」2種。「神田御祭礼」2種(安永八年の神田祭、賑々しい)「艶姿士農工商」4枚揃い(シカゴ美術館)(不思議な画題、だれが買ったのでしょうか。商人?)「山王御祭礼」2種(安永九年、シカゴ美術館)、「箱根七湯名所」(ゆもと、とうの沢、どふが島、みやのした、そこくら、きが、あしのゆ)(神奈川県歴史博物館)
「江戸八景」3種(4種の内)(周囲に墨摺、扇形の画面)
「藤下の女」(平木浮世絵財団)(柱絵版、状態がよく黄もあざやか、裾が舞うさまが艶かしい)
など
女性が出てくることに変わりはないが、「箱根七湯名所」など江戸から離れた風俗や、「神田御祭礼」「山王御祭礼」などの画題もあるなど、見ているだけで楽しい。
第二章 江戸のヴィーナス誕生
ここからが大判錦絵の揃い物「当世遊里美人合」(21図確認のうち17図、天明(1781-89)前期)「風俗東之錦」(20図確認のうち18図、天明3,4、5年頃)「美南見十二候」(13図確認、天明4年頃)がずらっと並ぶ。「当世遊里美人合」は、吉原ではなく橘町、深川(辰巳)、中洲(叉江)、土手といった岡場所の遊女や芸者を描く。「風俗東之錦」は武家や良家の婦人、娘を描く。「美南見十二候」は品川の遊里を描く。3月から8月までは2枚揃い、9月は一枚。
「当世遊里美人合 土手華」(遠山記念館)状態が素晴らしい。「当世遊里美人合 多通美」(霜礼次郎氏所蔵)は片肌脱いで色っぽい。「当世遊里美人合 叉江」(浦上記念館、2枚続)は遊女、芸者、黒羽織の男性など大勢が描きわけられ楽しい。
「風俗東之錦 町家の妻と娘と小僧」(東博)娘の振袖の鶴の裾模様が見事。「風俗東之錦 汐汲み」(メトロポリタン美術館)は、古典主題「松風村雨」のやつし絵。「風俗東之錦 植木福寿草売り」(シカゴ美術館)は、天稟棒にぶら下げて花をうる風俗として面白い。
「美南見十二候」は今回傑作と認識。
「美南見十二候 三月 御殿山の花見」2枚続(シカゴ美術館)華やかな桜の下を八人の遊女と幇間を描く
「美南見十二候 四月 品川沖の汐干」2枚続(シカゴ美術館)六人の遊女と客のいる座敷から遠景に小船四隻と潮干狩りをする人々
「美南見十二候 五月 物詣」2枚続(メトロポリタン美術館、東博)目黒不動の五月二八日の不動詣を題材とする
「美南見十二候 六月 品川の夏」(千葉市美術館)海を臨む茶屋に遊女と客、手すりに寄りかかったり気だるさがただよう。
「美南見十二候 七月 夜の送り」(ホノルル美術館)黒の美しさにはっとする。男性の客の視線がすれ違った遊女にむけられるときの遊女の表情。
「美南見十二候 七月 夜の送り」(ボストン美術館)背景の白抜きを改善したというが、やはりホノルル美術館の摺りがいい。
「美南見十二候 八月 月見の宴」(ボストン美術館)賑々しい。月もしっかり描かれている。左は遠近法で座敷の中を描く。
「美南見十二候 九月 いざよう月」(千葉市美術館)すこし雲間に隠れる夜景を眺めてたつ遊女と文を読む遊女二人。ぼかして刷られた夜景が風情がある。
第三章 ワイド画面の美人群像 続絵の名作
ワイド画面の大版錦絵。遠景も描かれ、人物もさまざま所作で賑々しく描かれる。
大川端の夕涼 2枚続 天明4年頃 シカゴ美術館;きもちよい川端の夕涼み
四条河原夕涼躯 3枚続 天明4年頃 シカゴ美術館
待乳山の雪見 2枚続 天明中期 シカゴ美術館
菖蒲の池 2枚続 天明中期 シカゴ美術館
隅田川船遊び 3枚続 天明中期 メトロポリタン美術館;大きく描かれた舟のへさきの構図が画面に緊張感を与えている
牛若丸と浄瑠璃姫 3枚続 天明中期 シカゴ美術館
牛若丸と浄瑠璃姫 3枚続 寛政中期 シカゴ美術館;寛政中期に歌麿風の顔立ちに修正された版
日本橋の往来 2枚続 天明後期 ホノルル美術館
亀戸の藤見 2枚続 天明後期 シカゴ美術館;摺り色が鮮やか。
地紙売り 竪2枚続 天明後期 シカゴ美術館
吾妻橋下の涼船 3枚続 天明後期 ボストン美術館;;大きく描かれた橋桁は大胆な構図ぐらいにしか捕らえていませんでしたが、「新日曜美術館」で吾妻橋は完成して間もない頃と解説していました。橋自体が名所だったわけです。
仲の町の桜 3枚続 天明5年 シカゴ美術館
女湯 2枚続 天明後期 川崎・砂子の里資料館
大川楼上の月見 3枚続 天明後期 ホノルル美術館
飛鳥山の花見 3枚続 天明後期 東京国立博物館;摺り色が鮮やか。桜満開の風景、遠景にも花見をするひとびと。田畑の模様もリズミカル。
洗濯と張り物 2枚続 天明後期 シカゴ美術館;画面を横切る張り物とは。面白い
青楼雪之旦 2枚続 天明末期 ホノルル美術館
年始の旗本邸 3枚続 天明末期 ボストン美術館
江ノ島詣 3枚続 天明後期 シカゴ美術館;子供が海水浴していたり、遠景の江ノ島は今も変らぬ風景。
深川遊宴 3枚続 寛政二年 ジョージ・マーン氏 寛政二年ごろ;賑々しい遊宴、蚊帳の中の男女。
吉原歓々楼遊興 3枚続 寛政(1789-1801)中期 平木浮世絵財団;遠近法で描かれ美人群像もさまざまなポーズで楽しい。
後期にのみ展示は
六郷の渡し 2枚続 天明4年頃 平木浮世絵財団
社頭の見合 2枚続 天明4年頃 浦上記念館、ホノルル美術館
庭の雪見 2枚続 天明後期 慶應義塾
真崎の渡し舟 3枚続 天明後期 浦上記念館
山王祭 3枚続 天明8年 東京国立博物館
隅田川桜の景 5枚続 寛政(1789-1801)中期 個人
東京国立博物館から、出展されなかった作品として
山門雨宿り 3枚続 東京国立博物館 松方810-812
隅田川舟中余興 3枚続 東京国立博物館 松方807-809
は、すくなくともある。残念。
第四章 江戸の粋 清長作品の多様性
「和国美人略集」10枚揃いのうち2枚 天明初期
「雛形若菜の発模様」4種(大版錦絵)天明二年、四年、三年;清長は磯田湖龍斎をひきつぎ10図を描いた。
「美南見十二候」(中版錦絵、天明三、四年)4種
「官女 小野小町」「官女 伊勢」「官女 清少納言」など5種(大版錦絵)天明中期
「十体画風俗」2種(大版錦絵);歌麿と競ったか?5図で終わった未完のシリーズ。寛政中期
「子宝五節遊」2種(大版錦絵)寛政中期、寛政13年(1801)の2シリーズがある
「鬼をはじく年男の金太郎」「牧童姿の金太郎」(大版錦絵)天明後期から寛政初期頃
など
第五章 役者絵と出語り図 鳥居家四代目
家業の役者絵に描いた作品。
(13日)
江戸のヴィーナス誕生
2007年4月28日から6月10日
千葉市美術館
今年は浮世絵ばかり見ていますが、決してよくわかって鑑賞しているわけではありません。それは一つには大規模な回顧展が殆ど開催できないと事情によるものでしょう。先般東博で開催された北斎展ですら、久々でした。他の浮世絵師となると殆ど開催されません。鳥居清長展は昭和39年に139点を集めた没後150年展が開催されたぐらいとこと。270点の規模は空前絶後だろうという。千葉市美術館は1995年に歌麿、2002年に春信展を開催したそうだが、それに引き続くもの。小林忠先生に感謝。
鳥居清長(1752-1815)は、天明期(1781-89)を代表する浮世絵師。天明期になり、清長は錦絵のサイズを中判(26x18センチ)から大判(39x26センチ)に替えている。これにより画面サイズが倍となり表現の豊かになったという。また、西洋画法の取入れが享保時代からおこり、司馬江漢が銅板画を「日本創製」したのが天明三年。平賀源内がレーレッセ著の「画法書」を入手している。小林忠先生は解説でこの中の「人体権衡図」が、鳥居清長の八頭身美人をもたらしたのではないか、だからこそ、その版画は西洋人にとって親しみやすく早くから流出してしまったのでは、と推測している。浅野秀剛学芸課長は、5月20日放送の「新日曜美術館」の中で、大判になったから八頭身美人になったのではと語っていた。
第三章、第四章は圧巻。清長の作品を初めて理解。必見。
さて、展示は、
第一章は 浮世絵デビュー -初期作品。
安永(1772-81)期以前の作品
役者絵から。
春信風の「婚礼十二式 壹 見合」(シカゴ美術館。本シリーズは12種の6種が存在報告)「正月 羽根つき鞠つき」(神奈川県歴史博物館)、「風俗深川八景」前後期あわせて4種(以下何種とあるは前後期あわせて)(礫川浮世絵美術館)、「風流座敷八景」5種(個人、シカゴ美術館、春信の「坐敷八景」に倣った。瀟湘八景のパロディー 行灯夕照、時計晩鐘、台子夜雨、扇子晴嵐、鏡台秋月)
すこし清信らしい女性となった「座敷八景」2種(シカゴ美術館)。
「風流江戸八景」3種、「四季八景」2種。「神田御祭礼」2種(安永八年の神田祭、賑々しい)「艶姿士農工商」4枚揃い(シカゴ美術館)(不思議な画題、だれが買ったのでしょうか。商人?)「山王御祭礼」2種(安永九年、シカゴ美術館)、「箱根七湯名所」(ゆもと、とうの沢、どふが島、みやのした、そこくら、きが、あしのゆ)(神奈川県歴史博物館)
「江戸八景」3種(4種の内)(周囲に墨摺、扇形の画面)
「藤下の女」(平木浮世絵財団)(柱絵版、状態がよく黄もあざやか、裾が舞うさまが艶かしい)
など
女性が出てくることに変わりはないが、「箱根七湯名所」など江戸から離れた風俗や、「神田御祭礼」「山王御祭礼」などの画題もあるなど、見ているだけで楽しい。
第二章 江戸のヴィーナス誕生
ここからが大判錦絵の揃い物「当世遊里美人合」(21図確認のうち17図、天明(1781-89)前期)「風俗東之錦」(20図確認のうち18図、天明3,4、5年頃)「美南見十二候」(13図確認、天明4年頃)がずらっと並ぶ。「当世遊里美人合」は、吉原ではなく橘町、深川(辰巳)、中洲(叉江)、土手といった岡場所の遊女や芸者を描く。「風俗東之錦」は武家や良家の婦人、娘を描く。「美南見十二候」は品川の遊里を描く。3月から8月までは2枚揃い、9月は一枚。
「当世遊里美人合 土手華」(遠山記念館)状態が素晴らしい。「当世遊里美人合 多通美」(霜礼次郎氏所蔵)は片肌脱いで色っぽい。「当世遊里美人合 叉江」(浦上記念館、2枚続)は遊女、芸者、黒羽織の男性など大勢が描きわけられ楽しい。
「風俗東之錦 町家の妻と娘と小僧」(東博)娘の振袖の鶴の裾模様が見事。「風俗東之錦 汐汲み」(メトロポリタン美術館)は、古典主題「松風村雨」のやつし絵。「風俗東之錦 植木福寿草売り」(シカゴ美術館)は、天稟棒にぶら下げて花をうる風俗として面白い。
「美南見十二候」は今回傑作と認識。
「美南見十二候 三月 御殿山の花見」2枚続(シカゴ美術館)華やかな桜の下を八人の遊女と幇間を描く
「美南見十二候 四月 品川沖の汐干」2枚続(シカゴ美術館)六人の遊女と客のいる座敷から遠景に小船四隻と潮干狩りをする人々
「美南見十二候 五月 物詣」2枚続(メトロポリタン美術館、東博)目黒不動の五月二八日の不動詣を題材とする
「美南見十二候 六月 品川の夏」(千葉市美術館)海を臨む茶屋に遊女と客、手すりに寄りかかったり気だるさがただよう。
「美南見十二候 七月 夜の送り」(ホノルル美術館)黒の美しさにはっとする。男性の客の視線がすれ違った遊女にむけられるときの遊女の表情。
「美南見十二候 七月 夜の送り」(ボストン美術館)背景の白抜きを改善したというが、やはりホノルル美術館の摺りがいい。
「美南見十二候 八月 月見の宴」(ボストン美術館)賑々しい。月もしっかり描かれている。左は遠近法で座敷の中を描く。
「美南見十二候 九月 いざよう月」(千葉市美術館)すこし雲間に隠れる夜景を眺めてたつ遊女と文を読む遊女二人。ぼかして刷られた夜景が風情がある。
第三章 ワイド画面の美人群像 続絵の名作
ワイド画面の大版錦絵。遠景も描かれ、人物もさまざま所作で賑々しく描かれる。
後期にのみ展示は
東京国立博物館から、出展されなかった作品として
は、すくなくともある。残念。
第四章 江戸の粋 清長作品の多様性
「和国美人略集」10枚揃いのうち2枚 天明初期
「雛形若菜の発模様」4種(大版錦絵)天明二年、四年、三年;清長は磯田湖龍斎をひきつぎ10図を描いた。
「美南見十二候」(中版錦絵、天明三、四年)4種
「官女 小野小町」「官女 伊勢」「官女 清少納言」など5種(大版錦絵)天明中期
「十体画風俗」2種(大版錦絵);歌麿と競ったか?5図で終わった未完のシリーズ。寛政中期
「子宝五節遊」2種(大版錦絵)寛政中期、寛政13年(1801)の2シリーズがある
「鬼をはじく年男の金太郎」「牧童姿の金太郎」(大版錦絵)天明後期から寛政初期頃
など
第五章 役者絵と出語り図 鳥居家四代目
家業の役者絵に描いた作品。
(13日)