ウクライナに関する二題
ウクライナ戦争について、日本の報道はウクライナが善戦しているように見えるのですが、どうも真実はウクライナは危機に瀕しているようです。この真実を国際政治学者に解説していただきました。
また、アサド政権後のシリアとウクライナが手を組む可能性についても言及していただきました。かつて、平沼騏一郎内閣は「欧州情勢は複雑怪奇」と声明して総辞職しましたが、まさに国際情勢は理解するのに苦労します。
崩壊寸前のウクライナ トランプで和平を急げ
ウクライナ政府は崩壊寸前です。トランプが早くそこの和平をやらないと、ウクライナが下手するとロシアに全領土を取られてしまうようなこともあり得ます。前線でウクライナ側が非常に不利な状態です。前線が崩壊するだけならまだいいのですが、軍だけでなくウクライナ政府が崩壊してしまうかもしれません。大臣級の人事が全く安定しておらず、年中、首をすげ替えている状況です。日本のマスコミはウクライナ政府に不利なことを言わないものだから、この辺りはちゃんと見ておく必要があります。
トランプは12月12日発売のタイム誌で「ウクライナがアメリカ製のミサイルでロシア領内を攻撃しているのは大反対である。こんなことをやったら戦争がエスカレートする。今やっていることは常軌を逸している」と言っています。
その他のところでも同じような発言をしていました。12月12日のタイム誌のインタビューで、この言葉を言っていますけど、翌12月13日にロシア大統領府のペスコフ報道官という方がいます。これはいつもプーチンを代弁している人がトランプの言った言葉に対して「ロシアと、この問題に関しては完全に立場が一致している。そして、発言自体は我々の立場と完全に一致している。エスカレートの原因に関する我々の見方に沿ったものである。私達の心に訴えかける」とまで言っていました。
それとタス通信が12月18日に報道したところによると、ロシアのリアップコフ外務次官は「アメリカとの関係正常化に向けて、あらゆる提案を検討する用意がある。1月20日のトランプの米大統領就任後、ロシアは間違いなく新政権と協力できる」と言っています。
こういった発言からも、ウクライナ和平に関しては水面下で話が進んでいると考えて良いでしょう。ウクライナは非常に厳しい戦争となっています。兵隊に関しても軍からの脱走兵が多いようです。そして、死傷者が多いだけではなく、下手すると戦線が総崩れになってしまう危険性もあります。そうすると、ゼレンスキー政権自体が崩壊してしまうかもしれません。そういう危機にあるわけです。
大臣レベルでも更迭が続いて、大臣の首のすげ替えが連続して起きています。そもそもウクライナの中には、ウクライナの人は認めたくない親ロシア派も結構いるのです。その人たちもいるし、ウクライナ国民が一致団結してロシアと戦おうとしているわけではありません。
ロシアが極右と言っている反ロシアの人たちも多いのですが、それに該当しない人たちもたくさんいます。国が元々分裂しているというのが実態です。今、そこで戦争を止めないと、むしろウクライナが崩壊してしまう危険性があります。
この両国の和平のことを言い出すと、ウクライナに対して武力侵略したロシアの侵略を認めるのかと問いてくる人がいますが、今、和平へと持っていかないとロシアの占領地が次々と大きくなっていってしまう危険性があるのです。ロシアも苦しいが、ロシア以上にウクライナの方が戦争を続けるのは厳しいと思ってください。そういう状況にあるので、今のロシア側の発言を見ると、和平に対するアメリカ新政権と間の根回しは進んでいると考えられます。
ウクライナとシリアが戦略的パートナーに?
12月30日にウクライナと新生シリア政府が戦略的パートナーシップを組むという宣言をしました。これはジャウラニ代表にウクライナ代表団が会って、両国の外務大臣が記者会見を開いて、そういうことを言ったのです。これは意外なことのように思えます。現在もウクライナはロシアと戦争していて、現シリア政権はロシアにバックアップされていたアサド政権を倒したのですが、決して反ロシアではありません。
そこと仲良くするのは変だなという感じもいたしますが、この真相としてズバリこういうことであるというのはわからないのですが、私が類推することを話したいと思います。今後のウクライナがロシアと和平・停戦協議をすることの前提条件になっているのではないでしょうか。この水面下でウクライナとロシアが和平を探っていることの一つの証拠なのではないかなと、私は今のところポジティブに解釈しています。
シリア政府はロシアに支援されていたアサド政権を倒したけど、反ロシアではないという話を冒頭でもしています。これはジャウラニ新政権のトップも確認しているのです。ロシアとは友好国だから提携していくということを言っています。
それから「ロシアが持っている空軍基地・海軍基地に手をつけて出て行け」ということは言っていません。この件に関しては傍証もありまして、12月8日にアサド政権が倒れていますが、これを一番露骨に支援していたのはトルコでした。トランプは「トルコが陰にいてUnfriendly Takeover( 敵対的買収)をやったのだろう」と言っています。
もちろん、トルコ側はそれに反発しているのですが「乗っ取りという言葉は適切ではない」と言ったのです。トルコにも理由があって、トルコにはおそらく300万人以上のシリア難民がいます。トルコもそこまで豊かな国ではないので、その人たちに早く帰ってほしいということです。
これはヨーロッパの防波堤になっているトルコが、この人たちを国内に留めていたことに原因があります。ヨーロッパとしても、これ以上のシリア難民に来てもらったら困るというのでストップさせていました。それで経済支援するからトルコで止めておいてほしいということになって、辛いところですが受け入れていたのです。だから、難民に早く帰ってほしいとトルコは願っています。
トルコが支援した勢力によって、今回アサド政権が打倒されてシリアの新政権になりました。しかし、シリアを支援していたイランとロシアが怒っているわけでもありません。実はイランとトルコが通商協定を結んでいます。これは12月11日にイランとトルコは2国間貿易を推進する覚書に署名して「今後の貿易をどんどん増やしましょう」という話をしているのです。
本当にトルコが支援したジャウラニ新政権に対して腹を立てていたら、イランがこのようなことをやるわけがありません。HTS(ハヤト・タハリール・シャーム)という勢力に対して、決して腹を立てているわけではないというか、水面下でイランとトルコとロシアはちゃんと利害関係を調整していて、実を取ったということだと思います。これ以上、アサド政権を支援していても先行きがないと考えたのでしょう。
アサド政権は覚醒剤輸出で周りのアラブの国からも見放されていたからだと思います。ハヤト・タハリール・シャーム解放機構(HTS)の新首相はモハンマド・アルバシールという人です。
アルバシールは、以前ロシアのガス会社のシリア子会社のエンジニアとして精密機械部長で働いていました。この人の人脈を見ても親ロシアであるということは理解できます。このシリア政府のジャウラニ最高指導者は12月30日にウクライナ政府代表団とダマスカス(シリアの首都)で会っていました。シリアとウクライナの両外務大臣が会談して「両国間の戦略的パートナーシップの構築を望む」と公言しています。親ロシアなのに何故ウクライナと仲良くしているのか謎です。これは「ズバリこうだ」という確信が私にはありませんけど、食料が足りないシリアに対して食料輸出国であるウクライナが食料を500t輸出したことも背景としてあるのではないでしょうか。その他も引き続き食料援助すると言っています。
やがてロシアとウクライナが停戦交渉・和平交渉する前提として、シリアとの関係を改善して友好的な関係を結ぼうとしているのかもしれません。これは一見すると矛盾した動きのようにも見えます。
一方でこれはシリアをロシアから引き離すためにウクライナがそういうことをやっているのではないかという考え方もあると思いますが、親ロシア派のジャウラニは基本的にロシアとの関係を重視していくと言っているのです。
逆にウクライナがシリア援助を通じて、ロシアとの和平交渉を水面下で始めた証拠ではないのかなと私は前向きに捉えたいと思います。この推測が当たっているのかどうかはわかりません。