赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

財務省解体論(第三回)——官僚と政治家の付き合い方

2024-11-29 00:00:00 | 政治見解
財務省解体論(第三回)——官僚と政治家の付き合い方



さらに話は続きます。講演者の特別の許可を頂いて掲載しています。(なお、本講演録は岸田首相在任期間に収録されたものです。)


やりたい放題の財務官僚

岸田さんが政権に就いてからも、安倍さんは財務省についてもいくつかアドバイスをしたと聞いています。

あまりその点については現職の首相だから詳しくは 聞いてないんですけども、要は、財務省がこんな役所だよという話を、安倍さんがいくつか岸田さんに対して事例を例示して話したら、岸田さんも「私も結構やられている。首相として政府答弁を読む時に、勝手に文言が付け加えられたり、いろいろしている」ということを岸田さんが答えたと、私は安倍さんから聞いておりま す。

ただ、こういうのはひとえに財務省は極端なところではあるけれども、他もそうなんですね。実際、安倍さんは、第2次安倍内閣の時の官房副長官で、警察庁出身 だった杉田さんからこう言われたとも言っていました。

「安倍さん、申し訳ありませんが我ら官僚は首相や大臣がどうなろうと、別にどうでもいいんですよ」と。こ れも結局、つまりすぐ替わる人がどうなろうとも、自分たちのラインが守れればそれでいいということですね。そういう状況を安倍さん自身が問題視してきたという 経緯があって、今に結びついています。

これも安倍さんが直接、財務省ではないのですが、小泉政権の官房副長官時代に こんな風景を見たことがあると、私に言っていました。

例えば首相の小泉さんは当時、よく昼寝をしていたそうなんですね。首相執務室で一人で座ったまま寝ている という状況の時に、よく省庁の局長クラスの人や次官クラスの人がやってきて、「首相に急用です」とか言って、首相は寝ているのに入っていって。5分ぐらいし ら「首相の許可が取れました」と言って出てくる。でもその間、ずっと小泉さんは寝ている。

つまり、首相の許可を取ったことに、勝手にしてしまうわけですね。 そういうのをずっと安倍さんは見てきているわけです。

でも、安倍さんは表だって官僚と関係が悪いわけでは、全然ないのです。そういうことを承知の上で含み置きながら、うまく付き合う。そういうふうな人でしたね。

だからさっき言った高橋洋一さんは、財務省のからくりをどんどんばらしてし まって、財務省の東大法学部での官僚たちに対して、「法学部なんて頭が悪いから入るんだ」というふうに。高橋さんは数学科なんですけれども、そういうことを平気で言い放つ人だから、財務省では蛇蝎のごとく嫌われています。

安倍さんの、財務省から出向した首相秘書官だった田中さんという方は、安倍さんと財務省の間の板挟みになって結構苦労したと言われますが、後に次官になりました。

この田中さんが安倍さんにある時、「安倍さん、高橋洋一と一緒に写真とか写った場面を絶対流さないでください。虫唾が走るんです」と言ってきたということも言っていました。そんなふうに、財務省もいろいろと言われていることは気にしているわけですね。


不思議な麻生元総理

ただ面白いのは、政治家というのはよく「清濁併せ呑む」と言いますが、自分の考えをその場で全部展開しているわけではないんですね。例えば、麻生太郎さんは 安倍さんと同じですから、7年9カ月も財務大臣を続けて、財務省の親分です。

です ら本当は私なんかは麻生さんは緊縮財政派なのかなと、財政均衡派なのかなと 思っていたけれども、実は麻生さんという人は積極財政派なんだそうですね。ただ 、財務省の親分ですから、やはり財務省の考え方を代弁する部分が非常に多いわ けです。

安倍さんが平成26年11月に消費税の10%への引き上げの延期を表明した際に は、経済情勢次第で引き上げを停止できる景気条項というのを削除して、必ず増税するという構えを示したわけです。

私はおかしいなと。安倍さんのことだから、普通景気条項を残して、景気次第では増税を延期できるようにするはずだと思って、 本人に聞いてみたんですね。

どうしてこうしたんですかと私が聞くと、「予定どおり消費税を上げるべきだと主張していた麻生さんの顔をつぶさないだめだ。もちろ ん、リーマンショック級のことがあれば別だが」ということを言っていました。

また、安倍さんは麻生さんについて、「麻生さんは親分肌だから、担当した役所の主張を代弁する。だから今はちょっと財務省に取り込まれてるけどね」というふうな 言い方もしていました。

そして、平成28年5月には消費税引き上げの再延期というものを決断するわけで すが、それをめぐって麻生さんと安倍さんの間で、盟友関係であるにもかかわらず緊張が走ったようなことがあって、一時、関係にひびが入るのかと言われたことが あります。

そしてその年の5月30日夜には、国会裏のホテル、キャピトル東急だったと思いますけれども、3時間にわたって2人は会談したんですね。3時間にわたって激論でも交わしたのかなと、そんなふうなことを当然予想するわけですけれど も、会談が終わったあとに安倍さんに電話して、「どうでした? 今日の会談は」 という話をしたら、「結果的には和気あいあいとしたものだった」ということでした。

私から「じゃあ、麻生さんとも話はついたようですね」と言ったら、上機嫌に安倍さんは言いました。「もうね、もう少し気をもたせてもよかったかもね。麻生さんとの会談は、ほとんど雑談だった。麻生さんとは日米同盟だから」という独特の言い回しをしていました。この場合の日米同盟というのは、強固な関係だという意味だと思います。 

ちなみに、安倍さんは二階さんに対しては、「二階さんとは戦略的互恵関係だから」と、中国との関係を例にとって、お互い利がある時だけ付き合いましょうという姿勢を示していました。そういうユーモアが常に出てくる人でしたね。

あと、麻生さんについては、こんなこともありました。

2年前の9月の総裁選に高市早苗さん、経済安保担当相が立候補しましたね。彼女と立候補したあとに電話で話していたら、高市さんが言うには「秘密裏に各派閥の領袖を周っていたんだけど、麻生さんに会ったら『お前の政策はいいぞ』とめっちゃ褒められた」と喜んでいました。

高市さんは財務省が一番大事にしている、政策経費を新たな国債発行せずにまかなえるかどうかを示すプライマリーバランス、基礎的財政収支というやつ の凍結を当時うたっていたんですね。当然そこは麻生さんに叱られると思ったら、そうでもなかったと。つまり、麻生さんはやはり財務大臣としての立場と、一個人、一派閥の領袖としての自分というのを分けていたんでしょうね。なるほど、そういうのが政治家なのだなと、あらためて思った次第です。

麻生さんという方は、よくべらんめえ口調でちょっと露悪家というか、そういう ところがありますよね。だけどあの人は立場立場に応じて、すごく人を立てる人な んですね。

だから安倍さんが総理で麻生さんが副総理兼財務大臣だった時には、ずっと安倍さんに敬語を使うんですよ。自分のほうがずっと年上で、首相経験者であるにもかかわらず;そういうふうなことを常に意識していました。

逆に麻生さん と安倍さんの会談に、当時官房長官だった菅さんが加わろうとすると、「なんで総裁も経験してねえやつが、ここに来るんだよ」みたいなことを言うこともあるわけ です。今は菅さんも総裁を経験したので、そうはならないと思いますが。そういう ふうな、自分の中でけじめをつけるタイプの人のようですね。

つづく
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