先日、私が所属する文教委員会(9/21)で、本定例会初日(9/10)に提出された(仮称)高円寺学園の特別支援学級(軽度知的障害者)の配置変更に関する陳情の審査を行いました。高円寺小中一貫校は、一つの建物で一貫教育を行う区内でも初めての学校となります。
本陳情では、現在設計に盛り込まれている2階の小中一貫教育の為の特別支援学級の内、中学生教室は通常学級の中学生フロアーである4階に設置することを求める内容でした。大まかな理由は、中学生としてのプライドを持てる環境をつくり、同世代の中で育つという教育の基盤的な部分を確保し、文部科学省のホームページにある「共生社会の形成に向けて」にある、「基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである」に合致していないというものでした。
私が所属する立憲民主党杉並区議団は、「立憲主義に基づく民主政治」と「多様性を認め合い、困ったときに寄り添い、お互いさまに支え合う社会」を実現するため、立憲民主党に集った4人の議員で構成されています。一人ひとりの持ち味が発揮され、それぞれに幸せを実感できる社会経済を目指し共生社会の実現を目指しています。
本陳情に対して、立憲民主党杉並区議団としては、理念は共感し陳情者の真摯に杉並の子ども達の成長を想うお気持ちに感謝をするものの、これまで教育委員会を中心として積み上げてきた議論から導き出された結果として今の学級配置計画があり、その経過を確認し納得のできるものであることから配置変更を求める本陳情を不採択としました。
ただし、私ども会派も陳情にあるような中学生らしい成長を望む立場である事から、今後運用において、陳情者が要望する中学生フロアーへの配置の見直しが必要と判断する場合には柔軟に対応をする事を求めました。
文教委員会では不採択となり、現在は本会議の最終議決(10/16)を待つ状態です。
陳情を審査をするにあたり留意した点と、判断をした点は以下の通り(→の後)です。
1、現在の配置がどの様な点に留意して教育委員会において決定をされて来たのか。
そこに誤りや無理はあるかという観点の審議について。
→①小中一貫教育を最も効果的となるように教室の配置を行い、義務教育9年間の学びの系統性・連続性を重視した指導を行う事により、学習習慣を確立させ、基礎学力を定着させると共に、自立した人間として他社と共に生きていく為の知性、感性、道徳心や体力を育むため、小学部と中学部を同じフロアーに配置した。特別に支援をするお子さんの特徴の一つである自閉症スペクトラムは見通しを持てる環境が必要であることから、9年間の学びの場を近接したものとした。
②子どもにとって安全で安心できる環境を第一に考え、避難経路を配慮し低層階に配置した。校長室や職員室も同階にある事から、日常的な見守りも含め、特別に支援が必要なお子さんへの手厚い対応が取れる。
③文部科学省の「学校施設整備指針 特別支援学校施設整備指針(平成28年3月)」P21の中で、「2 建物構成(1) 校舎等は,できる限り低層の建物として計画することが重要である。(5) 緊急時の避難,施設の維持修繕等に支障を生じないよう配慮して配置することが重要 である。」とあり、本計画でも非常時を想定した配置とした。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/03/25/1368763_10.pdf
以上の3点から、現計画の2階が妥当であると判断しました。
2、陳情内容に基づき、教育委員会と質疑を行い、その結果陳情者が要望する配置変更が妥当なものかの審議について。
(陳情理由1)中学生の特別支援級は小学生の教室のトイレを挟んだ隣りの教室に移るだけで、今までと変わらない小学生に囲まれた生活であり中学生としてのプライドが傷つく。
→配置計画を見ると、特別支援級小学部は小中学生普通教室の4~5倍のスペースを確保し、当初は5,6人が入学予定で、学習の理解度によって指導が出来るように3教室と少人数教室、またプレイルームや進路指導室を配置し、そこからトイレ&シャワー室を挟んで特別支援級中学部の普通教室が配置されている。普通教室同士の直線距離は約28メートルあり、L字型に両方のスペースを配置する事で、完全分離では無いものの、独立性を保ちながら連携して指導の為の行き来が出来るよう工夫があり、陳情理由にあるような近接して隣り合う教室では無いと考えます。
中学生スペースも小中学生普通教室の5倍近くのスペースに、2教室と作業室、音楽室&プレイルーム、児童更衣室と教材室、個別指導室があり、開校当初は5,6人が入学する予定となっており充実した環境であると考えます。陳情者の要望にあるような中学生の普通教室(4階)に移るほどには環境の変化は無いものの、障害をお持ちのお子さんが見通し持てるように生活できることを出来るだけ重視した配置であると考えます。
プライドを持てる環境かどうかという点に関しては、個人差もありますが、配置計画では小中の居場所の明らかな違いがある事から現計画を妥当としました。
(陳情理由2)現在の配置計画では同世代の中で育つという教育の基盤的な部分を欠く。
→同世代と完全に分離をしているのでは無く、交流や共同学習の機会があり、また日常生活においても1階昇降口や交流ホールをはじめ、大小アリーナやプールなどは共有であり、同世代と共に過ごす環境があると考える。
インクルーシブ教育推進なのだから同世代は障害がある無しに関わらず全て同じ教室で学ぶ場を作るべきとする考え方もあり、この部分では意見が分かれるところですが、公立の小中学校では文部科学省の指導に則り行われている事からすると、現在においてその考えを即座に教室の配置計画に取り入れることは難しいと考えています。
(参考にした資料)
文部科学省
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm
※この中で、多様な学びの場として通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校を位置づけており、国全体としては現在のところ、全て同じ教室で学ぶ事を前提としていないと解釈しています。
(陳情理由3)小中の9年間を一つのエリアで過ごすることは子どもの成長を促す環境として相応しくない。
(陳情理由4)小学1年の児童と中学3年の生徒では体格差、体力差があり、同じフロアーでは危険がある。
→陳情理由1,2の判断理由に同じ。
(陳情理由5)東京都内の小中一貫校を見ても、同一階で近くにあるのは一般的ではない。
→「小中一貫教育の制度化に係る改正学校教育法」(平成28年4月施行)により、全国で本格的に一貫校が建設され始めて間が無い事、また学校の改築はこれから本格化していく時期である事からすると、小中一貫教育をどの様に進めて行ったらよいかを考える参考となる取り組み事例がまだまだ少なく、陳情者の言う「一般的ではない」とまでは断定できないと考えます。
(陳情理由6)4階の中学生フロアーはスペース的には移動できる。
→先に述べたように、現計画では中学生の特別支援級のスペースは小中学生普通教室の5倍近くあり、ゆったりと過ごしながら学べる空間が確保されています。その中の一部の通常授業用の教室のみを4階に移す事はスペース上は可能ですが、かえってスケールメリットを活かせない配置となり妥当ではないと考えます。
(陳情理由7)東京都が示す「建築物などの整備のためのユニバーサルガイドライン」にある、基本的に誰でもが同じ動線で利用できる経路の確保がされていない。また、文部科学省の「共生社会の形成に向けて」にある「基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである」とあり、現配置案ではこれに該当しない。
→これは陳情理由の中で一番難しい部分であると考えました。
理念には大いに共感し、方向性には全面的に賛同しますが、では高円寺のあの場所にどの様に建築計画をして行けるのか。ユニバーサルガイドラインに関しては余程の広い土地が無ければ、「誰でもが同じ動線で利用できる経路の確保」は難しいでしょう。どの建築計画においても無数の条件をクリアしながら設計が進められて行きますが、どうしたら理想とする空間により近いものを作り出して行けるのかという観点で見ていく事が必要だと思います。
「共生社会の形成に向けて」の部分は、国においても今まだ基本的な方向性であり、目指すべきという理念を共有しつつも、では本計画においてどこまで実現をしていけるのか。社会的な機運の醸成も必要でしょうし、それ相応の指導者の育成が為され、障害がある無しに関わず全ての保護者の理解が進んでこそ実現可能性が出てくるものと考えます。
3、陳情者がどの様な立場の区民なのか。
今回は教育環境についての陳情でしたので、例えば特別支援学級に通っているお子さんを持つ保護者の方や教育環境などの専門家かどうか。
→本陳情者は学校の近隣在住の一般区民の方であり、団体名はありましたが、規約や活動記録など団体の実態を見ると、本陳情に必要と思われる教育環境に関しての専門性を持つ団体であると把握する事が出来ず、また、特別支援級の指導などの経験を持たないと考えられました。
陳情を採択することは、議会会派として、特別支援学級の移動を求めることに賛同すると言う事です。本陳情者は十分な調査活動を行って来たとは判断出来かねると考えました。
(参考)
[(仮称)高円寺学園の建物の概略]は以下の通りです。
本計画において、杉並区では近隣への配慮から武道室設置を取りやめ、プールを小中2か所から1か所へと変更し、それに伴いプールの底を上げ下げするための装置を付け、また稼働時間を増やすため、可動式の屋根を設置した経緯があります。
http://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/072/machidukuri.pdf
・敷地面積 11,294㎡(環状7号線の東側、JR中央線の北側)
・第二種中高層住居専用地域と近隣商業地域にまたがった用途地域
・構造 SRC造(ほぼ全ての教室に外光を取り込めるように中央部分に1階から吹き抜けを設置)
・許容建蔽率 73.43%に対して38.29%利用(最終は37%)、 ・許容容積率 268.61%に対して166.16%利用(最終は167%)
※許容建蔽率と許容容積率及びそれに対しての割合は、東京都中高層建築物紛争の予防と調整に関する条例に基づく説明会(平成28年7月23日実施)資料より抜粋。http://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/072/1--------8.pdf
・建物の高さは屋上のプールの屋根で最も高い所で28.1m
・ 地下1階:小アリーナ、
1 階:エントランスと交流ホール、学校支援本部とPTA室、外部から出入り口を取った学童クラブ、給食室
2 階:校長室と職員室、西側に小学校特別支援教室・プレイルームと南側に中学校の特別支援教室・作業室・教材室
小学1,2年生普通教室と個別学習室
3 階:小学3~6年生普通教室と特別室、図書・ラーニングセンター、4階:中学生普通教室と一部特別室、大アリーナ、
5 階:中学生特別室、
6 階:プール、更衣室ほか
参考までに本陳情の全文を転載します。
[30陳情 第20号 受理年月日 平成30年9月10日]
高円寺小中一貫校 特別支援学級中学生教室の中学生フロアへの設置を求めることに関する陳情
(要旨)
[陳情の主旨]
2020年に開校の高円寺小中一貫校には、統合される3校にはなかった特別支援学級(小中)が設置されます。新校舎の教室配置図から判断すると、特別支援学級中学生教室が特別支援学級小学生教室の並びにあり、通常学級小学生低学年フロアに設置される計画が進められています。この配置は、以下の理由から、中学生にとっても小学生にとっても適切な教育環境とは考えられません。特別支援学級中学生教室を4階の中学生フロアに設置することを求めます。
[理由]
1、特別支援学級は2階西側にあります。東側は通常学級小学生低学年教室です。特別支援学級の生徒は中学生になっても、トイレを挟んだ隣りの教室に移るだけで、今までと変らない小学生に囲まれた生活です。中学生としてのプライドが傷つくと思います。
2、子どもは同世代の子どもの中で育つことが大事です。今の教室配置では特別支援学級中学生(初年度定員2~7人)は特別支援学級小学生と通常学級小学生低学年に囲まれて中学3年間を過ごすことになります。同世代の中学生文化から切り離されて小学生の中で中学時代を過ごすということは、同世代の中で育つという教育の基盤的な部分を欠く事になります。この点からも、特別支援学級中学生教室は4階中学生フロアに設置することを求めます。尚、この点に関して「区長への手紙」で明らかになった教育委員会の見解は、「交流及び共同学習があるので切り離されてはいない」というものでした。その後の回答で、授業での共同学習は極めてハードルが高いこともわかりました。回答によれば、知的に障害がある子どもにとって授業での交流・共同学習の機会は少ないと思われます。行事での交流は非日常ですので、今の配置では特別支援学級中学生は、日常で同世代の中で過ごす機会を奪われる事になりませんか。
3、特別支援学級に入学した子どもは、入学してから9年間を2階西側の一つのエリアで、通常学級小学生低学年と特別支援学級小学生に囲まれて過ごすことになります。6歳から15歳の児童期から思春期、心身共に飛躍的に成長する期間に、環境の変わらない一つのエリアで小学生に囲まれてすごすことは、子どもの成長を促す環境としてふさわしくありません。この点からも、中学生になったら4階の中学生フロアにホームルーム教室をもつことが必要です。
4、小学1年の児童と中学3年の生徒では、格段の体格差、体力差があります。この両者が同じフロアで、近くの教室で学校生活を送れば、決して広くない廊下でぶつかり、小さい子が怪我をする懼れもあります。このような懼れのある教室配置は避けるべきだと思います。
5、東京都の小中一貫校30校中一体型は13校、その中で小中の特別支援学級を設置しているのは6校、特別支援学級の小学生教室と中学生教室が同一階(近く)にあるのは、2校です(渋谷区1校、品川区1校)。小学生教室と中学生教室が同一階で近くにある、という形は一般ではないことを付記しておきます。
6、4階の中学生フロアは、想定中学生数に比して広いスペースがあります。特別支援学級中学生教室を4階に設置することは、スペース的には十分可能です。
7、東京都の「建築物などの整備のためのユニバーサルガイドライン」には「・基本的に誰でもが同じ動線で利用できる経路になっている。(特別な経路を設定していない)。・誰もが差別観や疎外感を感じることなく利用できるようになっている」とあります。2階と4階では同じ動線ではありません。また、4階に行く中学生を見ながら、2階に行く特別支援中学生が、差別感や疎外感を感じたとしても不思議はありません。このユニバーサルガイドラインに反していると思います。
また、文科省のHP「共生社会の形成に向けて」には「基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。」とあります。2階と4階では「同じ場」とはいえません。これから作る公共建物ですから、共生社会の形成に資するものであることが必要です。
以上の理由で、特別支援学級中学生教室は、小学生フロアではなく、中学生フロアに設置することを要望します。
以上、転載終了。
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