民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「ふるやのもり」 今村 泰子

2013年08月12日 01時16分26秒 | 民話(昔話)
 「ふるやのもり」 原文  今村 泰子  ほるぷ出版  1985年 初版

 むかし あったけど。
 山の ちかい ある むらに、じいさまと ばあさまが いて あったと。
 おおきい ひゃくしょうで あったども、子どもが いなかったので、
ふたりは ふるくなった いえに、うまこ いっぴき かって さびしく くらして いたと。

 ある あめの しとしと ふる ばんの こと。
 どろぼうが、「こんやのような ばんこそ うまこ ぬすむにいい ばんだ。」
と、はやくから いえの なかに しのびこみ だいどころの はりの うえに あがって、
したの ようすを うかがって いた。 
「はやく じいさまと ばあさま、ねどこに いかねえかな。」
と、まちくたびれ、そのうち コクリ コクリ いねむりを はじめた。

 そこへ 山の おおかみが、うらの きどぐちから 
「はら へったなあ、この いえの うまこなら、たらふく くうに いいんだどもなあ。」
と、こっそり やって きたと。

 じいさまと ばあさまは、いろりばたに すわって、のんびりと はなしこを して いた。
「ばあさん、おまえは この よのなかで なにが いちばん おっかねかな。」
「んだなあ、おら わらしの ときから、山の おおかみが いちばん おっかねもんで あったすな。」
「んだ、んだ、ばんげに なって、山の おおかみが あちこちで ほえだすと、おっかねとて、
ふとん かぶって まるまってたなあ。」
 おおかみは みみを たてて、じっと きいて いたが、
「ふん、ふん。」と、うなずき、すこし くちを あけ、うれしそうな かおを した。

 「おじいさんは、なにが いちばん おっかねすか。」
「おれがな、いま いちばん おっかねもんは、ふるやの もりだ。」
「んだす、んだす、おじいさんあ。ふるやの もりだば、なにより おっかねす。
こんやあたり くるんでねすか。」
 おおかみは ぎくりと して、からだを すこし まえの ほうに すすめたと。
「ほう、おれより おっかね『ふるやの もり』ちゅう もんは、どんな もんだろう。
こらあ おおごとだ。こげな ところに ながくは おられねえ。」と、あわてだした。

 その とき、あめが かぜと ともに ザーッと すごい いきおいで ふりだした。
 じいさまと ばあさまの こえが、きゅうに おおきく なったと。
「おじいさん、おじいさん、ほんとに ふるやの もり きたすよ。」
「おう、とうとう きたかっ。」と、たちあがり、みじたくを はじめた。
 へやの あちこちでは、ポタン ポタンと あましずくが おちはじめた。

 おおかみは さわぎを きき、
「こりゃあ、いよいよ たいへんだ。『ふるやの もり』ちゅう ばけものが きたようだっ。」
と、ふるえあがり、にげだした。
 うまどろぼうは その おとを きき、うまこが にげたと おもい、
せなか めがけて とびおりたと。

 うまどろぼうは、
「こりゃあ、よく はしる うまこだ。なんと、よく はしる うまこだ。にがしてなるものか。」
と、おおかもの みみを ぎっちり にぎり、うまのりに なって、しがみついて いた。

 たまげたのは おおかみだった。
「わあっ、おれの せなかに『ふるやの もり』とっついたあっ。」
と、ビュン ビュンと ありったけの ちからを だして、はしりだしたと。

 やがて、よるが しらじらと あけて きた。
すると 山おくの 木の うえで、さるが、
「あやぁ、おかしでぁ、にんげんが おおかみの せなかに のって はしってらあ。」
と、てを たたきながら はやしたてたと。
 うまどろぼうも、はっと して よく みると、それは うまこではなく、
おそろしい、おおきな おおかみで あったと。

 うまどろぼうは ぶったまげたの なんの・・・・・。
その とたんに、ちからが ぬけ、せなかから ふりおとされ、おまけに、けものの おとしあなに 
ころげおちて いったと。

 おおかみは ほっと して、山の おくへ かえると、
「みんな、あつまれ。」
と、なかまの けものたちを よんだ。
くまや いのししやら、みんな あつまって きた。
「おれは ゆうべ、『ふるやの もり』ちゅう ばけものに とりつかれ、ひとばんじゅう 
山の なかを はしりまわった。とんだり はねたり どんな ことを しても、はなれなかった。
やっと とちゅうの あなこに おとして きた。 あんたな ものが いたら たいへんだ。
みんなで これから たいじさねかや。」
と、そうだんを もちかけた。

 さるは、
「あれは、『ふるやの もり』でねぇ。にんげんだったでぁ。」
「なに いうかっ。『ふるやの もり』だっ。」
と、おおかみも がんばったと。
 みんなも おそろしいので、
「ああだ。」「こうだ。」
と、いいあって きまらなかった。
とうとう、あなこの そばまで いく ことに したと。
「さる、おまえの ながい おっぽで、『ふるやの もり』いるか どうか、さぐって みてけれ。」
 さるは しかたなく、ながい おっぽを、するすると、あなの なかに いれて、ぐるっぐるっと 
かきまわしたと。

 あなこの なかで のびて いた うまどろぼうは、ほっぺたに ヒタヒタと さわるものが 
あるのに きが ついた。
「おやっ、ありがたい。いい ところに なわが、さがって いる。」
と、さrの おっぽとも しらず、ぎっちり つかんだと。
「あっ、いて、て、て。やっぱり『ふるやの もり』だあーっ。
おれとこ あなこの なかさ ひっぱりこむぅーっ。おおかみ、たすけてけれーっ。」
これを きいた おおかみは なかまたちは、
「さあ たいへんだっ。さる、おまえ、はやく もどって こいっ。」
と、いって、いちもくさんに にげて いったと。

 さるは はらが たつやら、くやしいやら。
おっぽを つかまれて いるので、にげる ことも できない。
 うまどろぼうと、やいの やいのと ひっぱりあいこ するうちに、さるの おっぽは、ぷっつり 
きれて しまったと。

 やっと さるは、にげる ことが できた。
けれども、おっぽは みじかくなったし、あまり ちからを いれて りきんだので、
かおは まっかに なって しまった。
いまも その ときの まんまだと。

 とっぴん ぱらりの ぷう。

 あとがき
 「古屋のもり」は、江戸時代の中期に上梓された「奇談一笑」に「屋漏可恐(やもりおそるべし)」
という題で書き残されている。
かなり古い時代からの話のようであるが、今も日本各地で採集されている。
 「古屋のもり」ということばの勘違いから話は発展していくが、屋根がもるという、
生活に根ざした実感から生まれた話だと思われる。
 雨もりする茅屋根や、わら屋根、登場する狼(場所によっては虎)馬どろぼうなど、近代化が進み、
環境の変化した現代の農村では、すっかり姿を消したものばかりである。

 



「古屋の漏(も)り」 大島 廣志

2013年08月10日 00時25分13秒 | 民話(昔話)
 「古屋の漏(も)り」 ― 岩手県 ―   再話 大島 廣志  提供 フジパン株式会社

 むかし、山奥の家で、爺さまと婆さまが、一匹の馬を飼っておった。
 ある雨がざんざ降りの夜に、虎がやってきて、馬をとって食おうと、馬小屋にしのびこんだ。
 家の中では、爺さまと婆さまが、
「婆さま、お前、世の中で一番おっかねぇもんは何だ」
「そりゃぁ、虎だ。世の中で虎が一番おっかねぇ。爺さまは、何がおっかねぇ」
「こんな雨のふる夜は、虎よりか”古屋のもり”がなによりおっかねぇなぁ」と、話しておった。
 それを聞いた虎は、
『この世で、おれさまよりおっかねぇ”古屋のもり”ちゅうもんがいるのか、こうしちゃぁおられん』
と、そろりそろり、逃げようとしたと。

 すると、ちょうどその晩、馬泥棒も馬を盗みに来ておって、馬小屋の天井にしのびこんでいたんだが、
逃げ出したのが、てっきり馬だと思うて、その背にとび乗った。さぁ、虎はたまげた。
”古屋のもり”につかまったと早合点して、どうにか振り落とそうと、とびはね、とびはね逃げ走った。
馬泥棒は馬泥棒で、落とされてなるものか、と、ぎっちりしがみついていたんだと。

 そのうちに夜が明けはじめて、あたりが明るくなってきたら、今度は、馬泥棒がたまげた。
「ぎゃ、馬じゃねがった。と、虎じゃぁ。こりゃぁおおごとだぁ、く、食われちまう」
何とかせにゃぁと、虎の背で思案していると、行く手に、木の枝が突(つ)ん出ているのが見えた。
馬泥棒は、しめたとばかりにとびついた。
 ところが、木は枯木だったと。パリッと折れて、木の根っこにあいていた穴に落ちてしもうた。
虎は、やっとのことで”古屋のもり”が離れたから、ほっとして歩いていると、猿に出合うたと。
そこで、虎がおっかなかったこれまでのことを話したら、猿は、
「そんなもん、いるはずがねぇ」と本気にしない。
虎は猿を馬泥棒の落ちた穴へ連れていった。

 猿は暗い穴の中をのぞきながら、
「古屋のもりは、おれがつかまえてやる」と、長いシッポを穴の中にたらした。
そうしたら、穴の中にいた馬泥棒は上から綱がおりてきたもんだから、
「これは助かった」と、しっかり綱につかまったと。
猿は、下から引っ張られたので、穴の中に落ちそうになった。あわてて、
「古屋のもりにつかまった。助けてくれ―」とたのんだが、虎は、
「おれの話を信じなかった罰だ、ゆっくりつかまえてこいよ」と言い残して、どこかへ行っちまったと。
後に残された猿は、顔をまっ赤にして、どたばたもがいていたと。
そうしたら、しっぽが、ボッチリちぎれてしもうたと。
猿の顔が赤くて、しっぽが短くなったのは、それからだって。

 どっとはらい

「くっつく顔」 

2013年08月08日 00時39分59秒 | 民話(昔話)
 「くっつく顔」 「角館昔話集」 全国昔話資料集成 12 「昔話の旅 語りの旅」 野村 純一

 むがし あったぞん。

 ある村に 爺ちゃと婆ちゃと いてあった。
家が貧乏なので、林へ行って木を伐っては それどて町へ売りに行って、暮らしをたてていた。
ところが、運の悪い時は悪いもんで、その婆ちゃがふとした病気にかかったと思ったら、
まもなく死んでしまった。

 爺ちゃは大そう悲しんで、三日三晩泣き通したが、泣いても泣いても、婆ちゃの生き返る道理がない。
ようやく諦めて、婆ちゃの屍骸(しにがら)どて片付けて、荼毘の用意をしようと思ったが、
家には一文の貯えもない。
仕方がないのでその屍体を家の前へブラ下げて置いた。
そうして置いたら、誰か片付けてくれると思ったからである。

 ある日のこと、町へ物を売りに行くため、入り口を出ようとしたら、婆ちゃの屍体へ触ったので、
ハッと思って顔へ手を当てたら、これはまたなんと、不思議、自分の顔の上に死んだ婆ちゃの顔が、
ぴったり付着いているではないか。
いくら取ろうとしても、絶対取れないので、仕方なくそのまま町へ出かけた。
町の人々は、みな不思議な人間が来たものだと思って、立ち止まって見ていた。
爺ちゃは売る物も売らずに、家へ飛んで帰って、そのままオエンオエンと泣き崩れた。

 そのうちに気を取り直して、頭巾を一つこしらえ、それどて頭からすっぽりかぶった。
しかし、もはや、村の人々はみな知ってしまったので、
「爺ちゃ面(つら)の上に婆ちゃの面の皮ある。アヤおかしでや」
どて卑(や)しめるので、とうとう村にもいられなくなって、家を飛び出して、
長い長い旅をすることになった。

 そして日の暮れ方に一軒の旅籠屋へ泊まって、ご飯を食べる段になった時、
爺ちゃが一人前のお膳をもらって食べようとしたら、婆ちゃの顔が、
「おれの分と二人前取り寄せろ」とせがむ。
なんでもそうして、二人前、二人前と駄々をこねるので爺ちゃも真実に困ってしまって、泣きたくなった。

 ところがある晩のことであった。
爺ちゃが寝ていると、婆ちゃの顔が、今朝食ったボタ餅どて、もっと食いたいと言い出した。
爺ちゃは眠いも眠いし、面倒くさいと思って、
「台所の戸棚にあるだろうから、食いたいんなら、自分で勝手に食べろ」と怒鳴った。
すると、その婆ちゃの顔は、なんぼボタ餅どて食いたかったか、爺ちゃの面から離れて、
ベタベタと台所の方へ行った。
爺ちゃはこの時とばかり、どんどん逃げ出してしまったど。

 綾重々 錦更々 五葉の松原、トッピンパラリのプゥ。

「ふるやのもり」

2013年08月06日 00時52分35秒 | 民話(昔話)
 「ふるやのもり」 パネルシアターの物語(ネット)より

 むかーし、むかしのこと、おじいさんとおばあさんが、仲良く暮らしていました。
家の中には何もなく、貧乏でした。あるものといえば、馬が一頭あるだけでした。
二人は、この馬をわが子のように、大事に大事に育てていました。
馬小屋はありませんでしたが、家族のように同じ屋根の下で生活をしていました。

 ある夜のこと、二人の家に、馬泥棒がやってきました。
馬泥棒は、天井にするすると登ると、梁の裏に身をかくしました。
「二人とも、早く寝ればいいのに」
馬泥棒は、おじいさんとおばさんが寝るのを見計らって、こっそり馬を盗む魂胆でした。
 その夜、馬を盗もうとやってきたのは、馬泥棒だけではありませんでした。
腹をすかした狼が、戸口の隙間から中の様子をうかがっていました。
「二人とも、早く寝ればいいのに」 狼も、馬泥棒と同じことを思っていました。

「おじいさんや、この世で一番恐ろしいものは、何かいのう」
「そりゃあ、泥棒じゃて。みんな持って行ってしまうんじゃからな」
天井に隠れていた馬泥棒は、それを聞いて、にやりと笑いました。
「いいんや、おじいさん。泥棒やよりも、もっと恐ろしいものがある」
「なんじゃいのう。おお、そうじゃ。狼のほうが恐ろしいぞ。命まで盗んでいくんだからのう」
戸口の裏に潜んでいた狼は、それを聞いて、にやりと笑いました。
「いいんや、おじいさん。狼よりも、もっと恐ろしいものがある」
「なんじゃいのう。おお、そうじゃ。ふるやのもりが一番恐ろしいぞ」
「そうそう、ふるやのもりがこの世で一番恐ろしい」

それを聞いていた馬泥棒と狼は、ふるやのもりというのはどんな恐ろしいやつかと思いました。
「おじいさん、今夜あたり、ふるやのもりがやってきそうですね」
「そうじゃのう。やってきたらどうしようかいなあ」
そのときでした。ぴかっ! と、稲光がして、ごろごろごろと雷の音がしました。
「恐ろしいふるやのもりが、今晩やって来るみたいでね」
「もうそうこまで、やってきておるぞ」
馬泥棒は、もう気が気ではありませんでした。狼より恐ろしいやつがやってくるのですから。
狼も、恐ろしいふるやのもりがどこからやってくるのか、きょろきょろして落ち着きませんでした。
 
 そのとき、ざっざーっと激しい雨が降ってきました。
狼は、ふるやのもりがやってきたのかと思って、一瞬びくっとしましたが、
「なんだ、雨か。中に入ってやり過ごそう」 狼は、気付かれないように、戸口を開けて入ろうとしました。
「おじいさん、ふるやのもりが、とうとうやってきましたね」
「ああ、やっぱりやってきた。恐ろしや、恐ろしや」
 狼は、音を立てないつもりでしたが、古い戸口だったから、ごとりごとりと音を立ててしまいました。
その音が、馬泥棒には、馬が逃げ出す音に聞こえて、逃がすものかと馬に飛び乗りました。
が、飛び乗ったのは、馬ではなく狼でした。
狼は、ふるやのもりが飛び乗ってきたのかと思い、戸口を蹴飛ばし外に駆け出しました。
 馬泥棒は、振り落とされまいと、馬の耳を、いや狼の耳を力いっぱい握りました。
狼は、ふるやのもりに食べられるくらいなら、耳なんかちぎれてもいいと思いました。

山へ山へとどしゃ降りの雨の中を走りました。
馬泥棒が必死なら、狼も必死。狼は、真っ暗闇の中を走り続けました。
「手がしびれて、・・・。もう、だめだ」 馬泥棒は、狼の耳を離しました。
馬泥棒は、跳ね飛ばされた拍子に、野井戸に落ちてしまいました。

それでも狼は、一目散に山へ逃げていきました。
「昨夜は、本当に恐ろしい目にあった。ふるやのもりほど恐ろしいやつはいない」
狼は、森の仲間の猿にそう言いました。
「ふるやのもりって、誰だい?」
博識の猿も、初めて聞く名前でした。
「ふるやのもりってのは、熊のように力強くて、猿のようにすばしっこく、この俺様より恐ろしいやつだ」
「そんな獣がこの世にいるなんで、聞いたことがない」
「だったら、これから、そいつが落ちた野井戸に行ってみようじゃないか」
狼と猿は連れだって、野井戸に行くことにしました。

「この野井戸だ」 狼が指差す野井戸を、猿は覗き込みました。
「気をつけろよ。相手はふるやのもりだぞ」
「誰もいないようだけど」 猿は、長いしっぽをたらして、野井戸の中を探りました。
野井戸の中では、馬泥棒はくたびれていました。そこへ猿のしっぽがたれてきたものですから、
「こ、これは、天の助け。縄がおりてきた」
馬泥棒は、その縄を、いや猿のしっぽを、しっかり握り引っ張りました。
「わっ、誰か俺のしっぽを引っ張る」
「そりゃあ、ふるやのもりに違いない。俺も耳がちぎれるくらい引っ張られた」
「わああ、中に引きずり込まれる。た、助けてくれ!」
「俺に捕まれ!」 狼は、猿の引っ張りました。猿も足を踏ん張りました。
「うーん! もっと強く引っ張ってくれ!」 狼は、ありったけの力で猿を引っ張りました。 ぶつりっ!
「そら、逃げろー!」 狼と猿は、後ろも振り向かず山へ逃げていきました。

 やっと、森に逃げ帰った狼は、後ろを振り向きました。
「ここまでくれば、もう追ってはこれまい」 猿も後ろを振り向きました。
「ありゃ、ありゃりゃ。しっぽがない」 猿のしっぽはちぎれてなくなっていました。
それに、力を入れたものですから、お尻と顔は真っ赤になっていました。

「おじいさんや、古い家はいやですね」
「そうじゃのう。昨夜の激しい雨で、雨は漏るし。古い家の雨漏り、古家の漏りは、本当に嫌じゃのう」
「それに、風もきつかったので、戸口が飛んでしまいました。おじいさん、何とかしてくださいね」
「はい、はい」

「さとりの化け物」 リメイクby akira  

2013年06月24日 00時15分23秒 | 民話(昔話)
 「さとりの化け物」リメイクby akira  福島県南会津郡 「日本昔話百選」所載  稲田浩二・和子  

 じゃ、今日は 「さとりの化け物」ってハナシ やっか。

 おれが ちっちゃい時、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇハナシだけど ほんとのことだと思って 聞かなきゃ なんね。

 ざっと むかし あったと。

 ある 雪の降る 夜のことだったと。
山ん中の小屋で、じぃさまがひとり 火に当たって いらしたと。

 すっと、なんか 得体の知れない化け物が 音も立てずに やってきて、
じぃさまの前に どっかと すわりこんだと。

 じぇ!じぃさまは驚いて、
(なんだ、こいつ、得体の知れねえ化け物(もん)だな。・・・おれのこと 取って食うつもりか)
って、思っていると、
その化け物が「おめぇ!『なんだ、こいつ、得体の知れねえ化け物だな。・・・
おれのこと 取って食うつもりか』って、思っているな」って、言ったんだと。

 じぇじぇ!じぃさまは 自分の 思っていることを 言い当てられたんで、たまげて、
(なんだ、こいつ、人の思ってることが わかんのか。・・・こいつが 悟りの化け物っていうヤツか)
って、思っていると、
その化け物が「おめぇ!『なんだ、こいつ、人の思ってることが わかんのか。
・・・こいつが 悟りの化け物っていうヤツか』って、思っているな」って、言ったんだと。

 じぇじぇじぇ!じぃさまは また 思っていることを 言い当てられたんで、たんまげて、
(なんだ、こいつ、うす気味の悪い化け物だな、早く どっか行って くんねぇかな)って、思っていると、
その化け物が「おめぇ!『なんだ、こいつ、うす気味の悪い化け物だな、
早く どっか行って くんねぇかな』って、思っているな」って、言いやがったんだと。

 じぇじぇじぇじぇ!じぃさまは またまた 思ってることを 言い当てられたんで、おったまげて、
(うーーっ、なにも考えないようにしなくっちゃ、うーーっ、あー、ダメだ、できね、・・・どうすっぺ。
まっ、しょうがねえ、火ぃでも燃(も)して 暖(あ)ったかくしてやっか。
暖(あ)ったかくなれば、出てっくかもしんねぇ)ってんで、薪(まき)を くべてやっと、

 その化け物が「おめぇ!・・・」って、言った時に、
「パチッ」って、火がはぜて、その化け物の 鼻ッ柱あたりを「ピシッ」って、はじいたと。

 すっと、その化け物は、
「アチッ、アチチチ・・・いやぁ、人間てのは、思ってもいないことをしやがる。
あー、おっかねぇ、おっかねぇ」って、言いながら、こそこそと 山の方へ 逃げて行ったと。

 こんじぇ ひとっつ さけえ もうした。