「夜這いの民俗学」 その1 赤松 啓介 明石書店 1994年
ざっと紹介したように、夜這いは、戦前まで、一部では戦後しばらくまで、一般的に行われていた現実であり、実に多種多様な営みであったが、このような重要な民俗資料を、日本の民俗学者のほとんどは無視し続けてきた。
日本民族学の泰斗といわれ、「郷土研究」や「婚姻の話」を著している柳田国男は、僕の郷里から目と鼻の先の出身で、子供のころから夜這いがおおっぴらに行われているのを見聞きしながら育ったはずだが、彼の後継者同様に、その現実に触れようとはしなかった。彼らはこの国の民俗学の主流を形成してきたが、かってはムラでは普通であった性風俗を、民俗資料として採取することを拒否しただけでなく、それらの性習俗を淫風陋習であるとする側に間接的かもしれないが協力したといえよう。そればかりか、故意に古い宗教思想の残存などとして歪め、正確な資料としての価値を奪った。そのために、戦前はもとより、戦後もその影響が根強く残り、一夫一妻制、処女・童貞を崇拝する純潔、清純主義というみせかけの理念に日本人は振り回されることになる。
ざっと紹介したように、夜這いは、戦前まで、一部では戦後しばらくまで、一般的に行われていた現実であり、実に多種多様な営みであったが、このような重要な民俗資料を、日本の民俗学者のほとんどは無視し続けてきた。
日本民族学の泰斗といわれ、「郷土研究」や「婚姻の話」を著している柳田国男は、僕の郷里から目と鼻の先の出身で、子供のころから夜這いがおおっぴらに行われているのを見聞きしながら育ったはずだが、彼の後継者同様に、その現実に触れようとはしなかった。彼らはこの国の民俗学の主流を形成してきたが、かってはムラでは普通であった性風俗を、民俗資料として採取することを拒否しただけでなく、それらの性習俗を淫風陋習であるとする側に間接的かもしれないが協力したといえよう。そればかりか、故意に古い宗教思想の残存などとして歪め、正確な資料としての価値を奪った。そのために、戦前はもとより、戦後もその影響が根強く残り、一夫一妻制、処女・童貞を崇拝する純潔、清純主義というみせかけの理念に日本人は振り回されることになる。