民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「つうのモノローグ」 その2 「夕鶴」 木下 順二

2012年12月18日 00時10分35秒 | 名文(規範)
 「夕鶴」 木下 順二
 つうのモノローグ その2

 これなんだわ。・・・・・
おかね・・・・・
おかね・・・・・

あたしは ただ 美しい布を見てもらいたくて・・・・・
それを見て 喜んでくれるのが嬉しくて・・・・・

ただ それだけのために 身を細らせて織ってあげたのに、もういまは・・・・・
ほかに あんたをひきとめる手だてはなくなってしまった。・・・・・

布を織って おかねを・・・・・
そうしなければ・・・・・
そうしなければ あんたは もう あたしのそばにいてくれないのね?・・・・・

でも・・・・・
でも いいわ、おかねを・・・・・

おかねの数がふえていくのを そんなに あんたがよろこぶのなら・・・・・
そんなに 都へ行きたいのなら・・・・・

そして、そうさしてあげさえすれば あんたが離れて行かないのなら・・・・・
もう一度、もう一枚だけ あの布を織ってあげるわ。

それで、それで ゆるしてね。
だって、もう それを越したら あたしは死んでしまうかもしれないもの。・・・・・

その布をもって、あんた、都へいっておいで。・・・・・
そして たくさん おかねをもって お帰り。・・・・・
帰るのよ、帰ってくるのよ、きっと、きっと 帰ってくるのよ。

そして 今度こそ 私と二人きりで、
いつまでも いつまでも いっしょに暮らすのよ、ね。ね。・・・・・

「国定忠治~赤城山」 新国劇 

2012年12月06日 00時23分33秒 | 名文(規範)
 「国定忠治~赤城山」 新国劇 

 江戸後期の侠客、国定忠治を描いた行友季風の作品。
新国劇の代表演目の一つ。
悪代官を斬って 赤城の山に たてこもった忠治は、
やがて 無数の敵方に囲まれて 味方を失ってしまう。

忠治「赤城の山も 今夜を限り、生まれ故郷の 国定の村や、縄張りを捨て、国を捨て、
可愛い子分の 手前(てめぇ)たちとも、別れ別れに なる門出だ」
定八「そういや、なんだか いやに 寂しい気がしやすぜ」
巌鉄「ああ、雁(かり)が鳴いて 南の空へ 飛んでいかぁ」
忠治「月も 西の山に 傾くようだ」
定八「おらぁ、明日は どっちへ行こう」
忠治「心の向くまま、足の向くまま、あても 果てしもねぇ 旅へ立つのだ」
定八・巌鉄「親分!」

「おめんぼの歌」 北原 白秋

2012年11月17日 00時49分05秒 | 名文(規範)
「あめんぼの歌」は北原白秋が作った詩。
50音をバランスよく配しており、演劇での発声練習によく用いられる。

水馬(あめんぼ) 赤いな アイウエオ。
浮藻(うきも)に 小蝦(こえび)も およいでる。

柿の木 栗の木 カキクケコ。
啄木鳥(きつつき) こつこつ 枯れけやき。

大角豆(ささげ)に 酢をかけ サシスセソ。
その魚(うお) 浅瀬で 刺しました。

立ちましょ 喇叭(らっぱ)で タチツテト。
トテトテ タッタと 飛び立った。

蛞蝓(なめくじ) のろのろ ナニヌネノ。
納戸(なんど)に ぬめって なにねばる。

鳩ぽっぽ ほろほろ ハヒフヘホ。
日向(ひなた)の お部屋にゃ 笛を吹く。

蝸牛(まいまい) 螺旋巻(ねじまき) マミムメモ。
梅の実 落ちても 見もしまい。

焼栗 ゆで栗 ヤイユエヨ。
山田に 灯(ひ)のつく 宵の家。

雷鳥 寒かろ ラリルレロ。
蓮花(れんげ)が 咲いたら 瑠璃(るり)の鳥。

わいわい わっしょい ワヰウヱヲ。
植木屋(うゑきや) 井戸換へ(ゐどがへ) お祭だ。

「つうのモノローグ」 その1 「夕鶴」 木下 順二

2012年11月11日 00時13分34秒 | 名文(規範)
  つうのモノローグ その1  「夕鶴」 木下 順二


 与ひょう、わたしの 大事な与ひょう、あんたは どうしたの?

 あんたは だんだんに 変わって行く。
なんだか わからないけれど、あたしとは 別の世界の人になって 行ってしまう。

 あの、あたしには 言葉もわからない人たち、いつか あたしを 矢で射たような、
あの恐ろしい人たちと おんなじになって 行ってしまう。

 どうしたの?あんたは。

 どうすればいいの?あたしは。
あたしは いったい どうすればいいの?

 あんたは あたしの命を助けてくれた。
なんのむくいも望まないで、ただ あたしを かわいそうに思って 矢を抜いてくれた。

 それが ほんとに嬉しかったから、あたしは あんたのところに来たのよ。
そして あの布を織ってあげたら、あんたは 子供のように喜んでくれた。

 だから あたしは、苦しいのを我慢して 何枚も何枚も 織ってあげたのよ。
それを あんたは、そのたびに「おかね」っていうものと 取りかえて来たのね。

 それでもいいの、あたしは。
あんたが「おかね」が好きなのなら。

 だから、その好きな「おかね」が もう たくさんあるのだから、
あとは あんたと 二人きりで、
この小さな うちの中で、静かに 楽しく 暮らしたいのよ。

 あんたは ほかの人とは違う人。
あたしの世界の人。

 だから この広い 野原のまん中で、そっと二人だけの世界を作って、
畑を耕したり 子供たちと遊んだりしながら いつまでも 生きて行くつもりだったのに・・・

 だのに、なんだか あんたは あたしから離れて行く。
だんだん遠くなって行く。

 どうしたらいいの?
ほんとに あたしは どうしたらいいの?・・・

「曽根崎心中」 道行文

2012年11月03日 00時32分27秒 | 名文(規範)
 この世のなごり 夜もなごり、死にに行く身を たとうれば、
あだしが原の 道の霜(しも)、一足ずつに 消えて行く、夢の夢こそ あわれなれ。

 あれ 数(かぞ)うれば 暁の、七つの時が 六つ鳴りて、残る一つが 今生(こんじょう)の、
鐘の響きの 聞き納め、寂滅為楽(じゃくめつ いらく)と 響くなり。

 鐘ばかりかは 草も木も、空もなごりと 見上ぐれば、雲心なき 水の音、
北斗はさえて 影うつる、星の妹背(いもせ)の 天の川。

 梅田の橋を かささぎの、橋とちぎりて いつまでも、我とそなたは 婦夫星(めおとぼし)、
かならず添うと すがり寄り、二人がなかに 降るなみだ、川の水(み)かさも 増(ま)さるべし。