民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「江戸しりとり歌」

2013年06月04日 00時45分28秒 | 名文(規範)
 「江戸しりとり歌」  ネット(牡丹に唐獅子)より

 牡丹に唐獅子 竹に虎 虎をふんまえ 和藤内
内藤様は さがり藤 富士見西行 うしろ向き
むき身蛤 ばかはしら 柱は二階と 縁の下
下谷上野の 山かずら 桂文治は 噺家で
でんでん太鼓に 笙の笛 閻魔はお盆と お正月 
勝頼様は 武田菱 菱餅 三月 雛祭
祭 万燈 山車 屋台 鯛に鰹に 蛸 鮪
ロンドンは異国の 大港 登山駿河の お富士山

 三べんまわって 煙草にしょ 正直正太夫 伊勢のこと
琴に三味線 笛太鼓 太閤様は 関白じゃ
白蛇のでるのは 柳島 縞の財布に 五十両
五郎十郎 曽我兄弟 鏡台針箱 煙草盆
坊やはいいこだ ねんねしな 品川女郎衆は 十匁
十匁の鉄砲 二つ玉 玉屋は花火の 大元祖
宗匠のでるのは 芭蕉庵 あんかけ豆腐に 夜たかそば
相場のお金が どんちゃんちゃん ちゃんやおっかあ 四文おくれ

 お暮れが過ぎたら お正月 お正月の 宝船
宝船には 七福神 神功皇后 武内
内田は剣菱 七つ梅 梅松桜は 菅原で
わらでたばねた 投げ島田 島田金谷は 大井川
かわいけりゃこそ 神田から通う 通う深草 百夜の情
酒と肴は 六百出しゃ気まま ままよ三度笠 横ちょにかぶり
かぶりたてに振る 相模の女 女やもめに 花が咲く
咲いた桜に なぜ駒つなぐ つなぐかもじに 大象とめる

 幕末期の文久2年(1862年)頃から歌い始められたとされる、代表的なしりとり歌。
「ロンドン」という言葉が出てきますので、幕末よりも明治というイメージがしますけどね。
お手玉唄・子守唄としても歌われていました。
明治初期にかけて非常な人気を呼び、おもちゃ絵やすごろく等にも用いられたそうです。
最後はまた「牡丹」で終わるとも聞いたのですが、知ってる方がいたら教えてください~。

参考文献 柳原書店『日本わらべ歌全集7 東京のわらべうた』

「奥の細道」序文  松尾 芭蕉

2013年04月10日 00時32分51秒 | 名文(規範)
 「奥の細道」序文  松尾 芭蕉

 月日は 百代(はくたい)の過客(かかく・かきゃく)にして、
行かふ(ゆきこう)年も 又 旅人也(なり)。
舟の上に 生涯をうかべ、馬の口とらえて 老をむかふる物は、
日々 旅にして 旅を栖(すみか)とす。
古人も 多く 旅に 死せるあり。
予(よ)も いづれの年よりか、片雲(へんうん)の風に さそはれて、漂泊の思ひ やまず、
海浜(かいひん)に さすらへ(い)、
去年(こぞ)の秋 江上(こうしょう)の破屋(はおく)に 蜘(くも)の古巣をはらひて、
やゝ 年も暮、春立(たて)る霞(かすみ)の空に 白川(河)の関 こえんと、
そゞろ神(がみ)の 物につきて 心をくるはせ、
道祖神(どうそじん)の まねきにあひて、取(とる)もの 手につかず。
もゝ引の 破(やぶれ)をつゞり、笠の緒 付(つけ)かえて、三里に灸(きゅう)すゆるより、
松島の月 先(まず)心に かゝりて、
住(すめ)る方は 人に譲り、杉風(さんぷう)が 別墅(べっしょ)に移るに、

 草の戸も 住替(すみかわ)る代(よ)ぞ ひなの家

面(おもて)八句(はちく)を 庵(あん)の柱に 懸置(かけおく)。


 「奥の細道」序文 口語訳

月日は 二度と還らぬ 旅人であり、行きかう年も また同じ。
船頭として 舟の上で 人生を過ごす人、馬子として 愛馬と共に 老いていく人、
かれらは 毎日が 旅であり、旅が 住まいなのだ。
かの西行法師や宗祇、杜甫や李白など、古の文人・墨客も、その多くは 旅において死んだ。
私もいつの頃からか、一片のちぎれ雲が 風に流れていくのを 見るにつけても、
旅への想いが 募るようになってきた。
『笈の小文』の旅では 海辺を歩き、ひきつづき『更科紀行』では信濃路を旅し、
江戸深川の 古い庵に 戻ってきたのは たった去年の 秋のこと。
いま、新しい年を迎え、春霞の空の下、白河の関を越えよと そそる神に誘われて 心は乱れ、
道祖神にも取り付かれて 手舞い 足踊る 始末。
股引の破れを つづり、旅笠の紐を 付け替えて、三里に 灸を すえてみれば、
旅の準備は 整って、松島の月が 脳裡に浮かぶ。
長旅となることを思って 草庵も 人に譲り、杉風の別宅に身 を寄せて、

 草の戸も 住替る代ぞ ひなの家

 これを発句として、初折の八句を 庵の柱に 掛けて置いた。

「汚れっちまった悲しみに」 中原 中也

2013年04月08日 01時50分22秒 | 名文(規範)
 「汚れっちまった悲しみに」  『山羊の歌』より  中原中也

 汚れっちまった 悲しみに
今日も 小雪の 降りかかる

 汚れっちまった 悲しみに
今日も 風さえ 吹きすぎる

 汚れっちまった 悲しみは
たとえば 狐の 革裘(かわごろも)

 汚れっちまった 悲しみは
小雪の かかって ちぢこまる

 汚れっちまった 悲しみは
なにのぞむなく ねがうなく

 汚れっちまった 悲しみは
懈怠(けだい)のうちに 死を夢む

 汚れっちまった 悲しみに
いたいたしくも 怖気(おじけ)づき

 汚れっちまった 悲しみに
なすところもなく 日は暮れる……

「あなたはだんだんきれいになる」 高村 光太郎

2013年04月06日 00時42分04秒 | 名文(規範)
 「あなたはだんだんきれいになる」 高村 光太郎

 を(お)んなが 付属品を だんだん棄(す)てると
どうして こんなに きれいになるのか。

 年で洗われた あなたのからだは
無辺際(むへんさい)を飛ぶ 天の金属。

 見えも外聞も てんで 歯のたたない
中身ばかりの 清冽な 生きものが
生きて動いて さつさつと 意慾(いよく)する。

 を(お)んなが を(お)んなを 取りもどすのは
か(こ)うした 世紀の修行によるのか。

 あなたが 黙って 立ってゐ(い)ると
まことに 神の造りしものだ。

 時々 内心 おどろくほど
あなたは だんだん きれいになる

「金色夜叉」 尾崎紅葉

2013年04月03日 00時19分22秒 | 名文(規範)
 「金色夜叉」 尾崎紅葉

 婚約者のお宮に裏切られた間貫一が高利貸しとなって復讐をはかる物語。
金銭と愛情の葛藤という主題により人気を博した。

 「ああ、宮(みい)さん、こうして二人が一緒にいるのも今夜限(ぎ)りだ。
お前が僕の介抱をしてくれるのも今夜限(ぎ)り、僕がお前に物を言うのも今夜限(ぎ)りだよ。
一月の十七日、宮(みい)さん、よく覚えてお置き。
来年の今月今夜は、貫一はどこでこの月を見るのだだか!
再来年の今月今夜・・・・・
十年後(のち)の今月今夜・・・・・
一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ!
いいか、宮(みい)さん、一月の十七日だ。
来年の今月今夜になったらば、僕の涙で必ず月は曇(くも)らしてみせるから、
月が・・・・・月が・・・・・月が・・・・・曇ったらば、
宮(みい)さん、貫一は、どこかで、お前を恨んで、今夜のように泣いていると思ってくれ」