民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「クモの化け物」 リメイク by akira

2012年07月11日 23時50分41秒 | 民話(リメイク by akira)
 くもの化け物  元ネタ 語り手 宮城県 永浦 誠喜 「日本の民話 東北 Ⅰ」ぎょうせい出版

 むかしのことだ。
ある山ん中に どんよりとした 沼があったと。
その沼は 魚釣りに行ったモンで、戻ったモンが(誰も)いねぇってんで、
地元のモンは みんな おっかながって 近づかなかったと。

 ある日のこと、よそから来た男が その沼に 魚釣りに行ったと。
沼に行くと、長さはこれっくらい(二尺)、しゃがむのに ちょうどいい高さの 丸太ん棒があってな、
「こりゃ いいや」ってんで、その丸太ん棒に しゃがんで 釣り糸をたれていたと。

 浮きを見てっと、水ん中から なんか ちっこい生き物が もぞもぞ 昇ってくんのが 見えたと。
「あれっ、なんだんべ」って、よーく 見てっと ちっこいクモだったと。
その ちっこいクモが 糸を伝い 竿を伝い 手を伝って来ては、体をはいまわり、
膝(ひざ)んとこに止まったかと思うと、尻から糸を出して 膝っ小僧に ぺたんと 糸をくっつけたと。
そうして 今度は 足を伝い 地面に下りると、沼ん中に 戻って行ったと。

 そうすっと また 別の ちっこいクモが 糸を伝い 竿を伝い 手を伝って来ては、
今度は 反対側の 膝っ小僧に 尻から糸を出して ぺたんと 糸をくっつけたと。
そうして 足を伝い 地面に下りると 沼ん中に 戻って行ったと。
 そんな 行ったり来たりを(ちっこいクモは)何回も くり返していたと。 
 「はて、なにしてんだんべ」って、見ていたんだけどな、
魚がおもしろいように釣れるもんだから、飯(めし)食うのも忘れて 釣りに夢中になっていたと。

 だけど だんだん 糸がたまっていくと、粘っこくて 気持ち悪いもんだから、
膝っ小僧にくっついていた糸を 手でつかんで(しゃがんでいた)丸太ん棒に くっつけ変えたと。
それでも クモはひっきりなしに やって来ちゃ 膝(ひざ)っ小僧に 糸をくっつけて行ったと。
 んで、また たまっては 丸太ん棒にくっつけ変え、たまっては 丸太ん棒にくっつけ変え、
そんなことを 何回も くり返していたと。

 そのうち うす暗くなってきたんで もう そろそろ 帰ろうかと思った時、
突然、ミシミシって音がして、丸太ん棒が ものすごい力で引っ張られて、沼ん中に 転がって行ったと。
 いきなり しゃがんでるもんが なくなったもんだから、
男は くるって 一回転して 丸太ん棒から 転げ落ちたと。

 その沼には 大グモの主(ぬし)が住んでいてな、
子供のクモを使って 人を沼ん中に引きずりこんでは、人の生き血を 吸っていたんだとさ。

 おしまい