「お血脈」
信濃の善光寺で「お血脈の印」を売り出した。
百文払って、お坊さんから額に印を押してもらえば、誰でも極楽へ行けるという。
たとえ人殺しの悪行を働いた者でも、たった百文で罪が消えて極楽へ行けるとあって、大流行。
全国から人が押し寄せ、こぞって印を押してもらう。
おかげで、地獄へ来る者がいなくなってしまった。
困ったのは、閻魔大王だった。
地獄に金品を持ってくる者が途絶え、このところ不景気このうえない。
浄玻璃の鏡や鬼の金棒、虎の皮のふんどしと、様々なものを拠出させ、
シャバの骨董屋に売りに出しては急場を凌いでいた。
赤鬼、青鬼もずいぶんとやせ細ってしまうありさま。
このままでは、地獄の大王としての面目が立たない。
追い込まれた閻魔大王は、みんなを集めて対策会議を開いた。
そこで「見る目嗅ぐ鼻」という知恵のある鬼が、「ここには腕のいい泥棒がたくさんいる。
その一人を善光寺に向かわせ、「お血脈の印」を盗んでしまえばいい」と言い出し、全員が賛成する。
「さて、誰に盗ませるのがいいか?」
さまざまな大泥棒が候補に上がるが、
最後に「太閤秀吉の寝室にまで侵入した男だから」と石川五右衛門に白羽の矢が立つ。
釜ぶろでいい気分になって、都々逸を唄っていた五右衛門がさっそく呼び出された。
大王直々の頼みとあって、石川五右衛門は気合が入る。
黒の三昧小袖に、緞子の帯、朱鞘の大小を差し、ビロードの羽織と、
歌舞伎に出てくる派手な衣装に身をつつみ、勇んで大王の前に進みでる。
大王から「印を見事に盗み出せば、地獄での出世を約束する」との言葉をもらい、
「どうぞ、ご安心を。おまかせください」と、善光寺に向かった。
そこは手慣れた泥棒稼業、さすがに大口を叩くだけのことはあり、
昼間、参拝のふりをして善光寺の様子を伺ったかと思うと、
その夜には奥殿に忍び込んで「お血脈の印」を見つけ、鮮やかに盗み出した。
すぐに地獄へ持ち帰ればよかったものを、久々の仕事で感情が高ぶったのか、
印をじっと見つめて、芝居がかり、
「ありがてえ、かたじけねえ。まんまと首尾よく善光寺に忍び込み、奪い取ったるお血脈の印、
これさえあれば大願成就」と大見得をきった。
ところがこの時、思わず印を額に押しいただいたものだから、石川五右衛門、
そのまま極楽へ行ってしまった。
信濃の善光寺で「お血脈の印」を売り出した。
百文払って、お坊さんから額に印を押してもらえば、誰でも極楽へ行けるという。
たとえ人殺しの悪行を働いた者でも、たった百文で罪が消えて極楽へ行けるとあって、大流行。
全国から人が押し寄せ、こぞって印を押してもらう。
おかげで、地獄へ来る者がいなくなってしまった。
困ったのは、閻魔大王だった。
地獄に金品を持ってくる者が途絶え、このところ不景気このうえない。
浄玻璃の鏡や鬼の金棒、虎の皮のふんどしと、様々なものを拠出させ、
シャバの骨董屋に売りに出しては急場を凌いでいた。
赤鬼、青鬼もずいぶんとやせ細ってしまうありさま。
このままでは、地獄の大王としての面目が立たない。
追い込まれた閻魔大王は、みんなを集めて対策会議を開いた。
そこで「見る目嗅ぐ鼻」という知恵のある鬼が、「ここには腕のいい泥棒がたくさんいる。
その一人を善光寺に向かわせ、「お血脈の印」を盗んでしまえばいい」と言い出し、全員が賛成する。
「さて、誰に盗ませるのがいいか?」
さまざまな大泥棒が候補に上がるが、
最後に「太閤秀吉の寝室にまで侵入した男だから」と石川五右衛門に白羽の矢が立つ。
釜ぶろでいい気分になって、都々逸を唄っていた五右衛門がさっそく呼び出された。
大王直々の頼みとあって、石川五右衛門は気合が入る。
黒の三昧小袖に、緞子の帯、朱鞘の大小を差し、ビロードの羽織と、
歌舞伎に出てくる派手な衣装に身をつつみ、勇んで大王の前に進みでる。
大王から「印を見事に盗み出せば、地獄での出世を約束する」との言葉をもらい、
「どうぞ、ご安心を。おまかせください」と、善光寺に向かった。
そこは手慣れた泥棒稼業、さすがに大口を叩くだけのことはあり、
昼間、参拝のふりをして善光寺の様子を伺ったかと思うと、
その夜には奥殿に忍び込んで「お血脈の印」を見つけ、鮮やかに盗み出した。
すぐに地獄へ持ち帰ればよかったものを、久々の仕事で感情が高ぶったのか、
印をじっと見つめて、芝居がかり、
「ありがてえ、かたじけねえ。まんまと首尾よく善光寺に忍び込み、奪い取ったるお血脈の印、
これさえあれば大願成就」と大見得をきった。
ところがこの時、思わず印を額に押しいただいたものだから、石川五右衛門、
そのまま極楽へ行ってしまった。