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「つうのモノローグ」 その1 「夕鶴」 木下 順二

2012年11月11日 00時13分34秒 | 名文(規範)
  つうのモノローグ その1  「夕鶴」 木下 順二


 与ひょう、わたしの 大事な与ひょう、あんたは どうしたの?

 あんたは だんだんに 変わって行く。
なんだか わからないけれど、あたしとは 別の世界の人になって 行ってしまう。

 あの、あたしには 言葉もわからない人たち、いつか あたしを 矢で射たような、
あの恐ろしい人たちと おんなじになって 行ってしまう。

 どうしたの?あんたは。

 どうすればいいの?あたしは。
あたしは いったい どうすればいいの?

 あんたは あたしの命を助けてくれた。
なんのむくいも望まないで、ただ あたしを かわいそうに思って 矢を抜いてくれた。

 それが ほんとに嬉しかったから、あたしは あんたのところに来たのよ。
そして あの布を織ってあげたら、あんたは 子供のように喜んでくれた。

 だから あたしは、苦しいのを我慢して 何枚も何枚も 織ってあげたのよ。
それを あんたは、そのたびに「おかね」っていうものと 取りかえて来たのね。

 それでもいいの、あたしは。
あんたが「おかね」が好きなのなら。

 だから、その好きな「おかね」が もう たくさんあるのだから、
あとは あんたと 二人きりで、
この小さな うちの中で、静かに 楽しく 暮らしたいのよ。

 あんたは ほかの人とは違う人。
あたしの世界の人。

 だから この広い 野原のまん中で、そっと二人だけの世界を作って、
畑を耕したり 子供たちと遊んだりしながら いつまでも 生きて行くつもりだったのに・・・

 だのに、なんだか あんたは あたしから離れて行く。
だんだん遠くなって行く。

 どうしたらいいの?
ほんとに あたしは どうしたらいいの?・・・

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