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「卑怯について」 その4 倉本 聡

2016年08月22日 00時38分29秒 | 生活信条
 「昭和からの遺言」 倉本 聡(1935年生まれ) 双葉社 2015年

 「卑怯について」 その4 P-70

 戦争に敗れ
 マッカーサーが厚木に下り立ち
 戦争裁判が開かれることになると
 何人かの軍人・政治家が
 責任をとって潔く自殺したが
 最高責任者である東條元首相は
 自殺に失敗して占領軍に捕まり
 惨めな姿を法廷にさらした。
 国民はこえまでの意趣返しのように
 卑怯者だと東條を嘲笑い
 尻馬にのって俺も笑ったが
 可哀想に と涙をためた
 何が卑怯で 何がそうでないか
 本当の意味を考え始めたのは
 もしかしたらその頃だったかも知れない

 南の島に置き去りにされ
 何十年ぶりに発見され投降して
 恥ずかしながら帰ってきました と現れた
 横井庄一さんや小野田寛郎さんの帰還に
 世間は既に呆れるばかりだったが
 死して虜囚の辱めを受けずという
 軍人勅諭をかたくなに守った
 信じられない彼らの行為は
 卑怯者と云はれることを
 ひたすら恐れたからにちがいない
 少なくても俺は彼らのことを
 その一点で美しいと思った。

 卑怯を憎悪した昭和の男が
 この二人を最後に 消えた気がする


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