「人魚伝説」 http://www.info-niigata.or.jp/~yana3228/ninngyou.html
むかし、遠くに佐渡ヶ島が見える雁子浜(がんこはま)という小さな村(今は大潟町・上越市)に、
明神さまのお社(やしろ)があった。
夜になると、漁師たちのあげるたくさんのろうそくの火が、荒海を越えて、佐渡ヶ島からも見えたそうな。
この雁子浜(がんこはま)に、ひとりの若者が、母親とふたりで暮らしておった。
ある時、若者は用があって佐渡ヶ島に渡り、ひとりの美しい娘と知りあった。
娘は、色が白く、豊かな黒髪は、つやつやとひかり、潮(しお)の香を含んでいた。
まるで、北の海に住むという人魚かと思うほどであったと。
ふたりは、すっかり親しくなって、人目をしのんで語りあうようになった。
けれども、まもなく、用がすんだ若者は、娘を残して雁子浜(がんこはま)へ帰っていった。
佐渡の娘の若者を慕う心は、それはもう激しかった。
ある夜、娘は若者に逢いたい一心に、とうとう、たらい舟にのって、荒海にこぎだした。
雁子浜(がんこはま)の明神さまのあかりを目当てになあ。
若者も、佐渡の娘が夜の夜中に、たらい舟にのって、命がけで逢いに来てくれたことを、
どんなに喜んだことか。
けれど、夜はみじかい。ふたりの語りあえるのは、ほんのわずかだった。
一番鳥が鳴くころには、娘は、なごりを惜しみながら、佐渡ヶ島に戻らねばならなかった。
こうして、佐渡の娘は、毎晩、たらい舟で荒海をのりきって、雁子浜にやってくるようになったと。
若者は風の強い日は、娘が目当てにしている明神さまのあかりが消えないように、
守りつづけていたそうな。
ところで、若者には母親の決めたいいなずけの娘がおった。
ある日の夕方、そのいいなずけが、両親と一緒に若者の家に訪ねてきた。
そして、その晩は泊っていくことになったと。
若者は、気が気でない。
佐渡の娘と逢う約束の時刻になると、そっと家をぬけだして、海辺へ走ろうとした。
すると、母親が追ってきて、「おまえ、今夜も浜へ行くのかえ。」と、とがめた。
若者は、返事に困った。佐渡の娘のことは、誰にも内緒にしておった。
ところが、「おっかあは、ちゃんと知ってるよ。おまえに、仲のいい娘のいることをさ。
若いもん同士のことだから、今まで黙って見ておったが、今夜だけは、行かんでく。」と、ひきとめた。
「おまえと夫婦になる日を待ちこがれている、いいなずけのことを、不憫とは思わないのかね。
さあ、家に入っておくれ。この通りだよ。」母は、そう言って、手を合わせる。
さすがに若者も、母の頼みをけって、浜辺へ行くことはできなかった。
(今夜ひと晩くらい行かなくても、明日になれば、また逢えるのだ。
佐渡の娘も、おらがいなければ、帰ってゆくだろ。)と、若者は、しかたなく家に戻ったと。
夜がふけて、風が出てきた。その風が、だんだん強くなってくる。
若者は明神さまのあかりが気がかりになった。
(けども、今までだって、あかりがみんな消えてしまったためしはないし。)
と、若者は、むりやり自分の心に言い聞かせておった。
やがて、夜があけた。若者は、もうじっとしていられず、夢中で浜辺へ走った。
朝の海は、ゆうべの風もおさまって、波もない。日の光に輝やいている。
海辺には、早起きの村人が五、六人、波うちぎわに集まっていた。
「かわいそうになあ。こんな若い、器量よしの娘がのう。」
「まるで、人魚みたいらて。」
「ゆうべは、明神さまのあかりが、すっかり消えてしまったからのう。」
「なしてまた、夜の海になど、出るもんかのう。」
若者が、村人たちのそばへ行くてみると、波うちぎわに横たわっているのは、あの佐渡の娘の、
変わり果てた姿であった。
つやつやと豊かであった黒髪も、今は乱れて、白い、ろうのような顔にふりかかっていた。
若者は、魂がぬけたようになって家へ戻ったが、その夜 遅く 海へ身を投げてしまったと。
村人たちは、ふたりを明神さまの近くに手厚くほうむり、塚をたてた。
誰が名をつけたのか、その塚は、いつとはなしに<人魚塚>と呼ばれるようになった。
遠く佐渡ヶ島の見える雁子浜(がんこはま)の丘に、人魚塚は、今もひっそりと立っている。
むかし、遠くに佐渡ヶ島が見える雁子浜(がんこはま)という小さな村(今は大潟町・上越市)に、
明神さまのお社(やしろ)があった。
夜になると、漁師たちのあげるたくさんのろうそくの火が、荒海を越えて、佐渡ヶ島からも見えたそうな。
この雁子浜(がんこはま)に、ひとりの若者が、母親とふたりで暮らしておった。
ある時、若者は用があって佐渡ヶ島に渡り、ひとりの美しい娘と知りあった。
娘は、色が白く、豊かな黒髪は、つやつやとひかり、潮(しお)の香を含んでいた。
まるで、北の海に住むという人魚かと思うほどであったと。
ふたりは、すっかり親しくなって、人目をしのんで語りあうようになった。
けれども、まもなく、用がすんだ若者は、娘を残して雁子浜(がんこはま)へ帰っていった。
佐渡の娘の若者を慕う心は、それはもう激しかった。
ある夜、娘は若者に逢いたい一心に、とうとう、たらい舟にのって、荒海にこぎだした。
雁子浜(がんこはま)の明神さまのあかりを目当てになあ。
若者も、佐渡の娘が夜の夜中に、たらい舟にのって、命がけで逢いに来てくれたことを、
どんなに喜んだことか。
けれど、夜はみじかい。ふたりの語りあえるのは、ほんのわずかだった。
一番鳥が鳴くころには、娘は、なごりを惜しみながら、佐渡ヶ島に戻らねばならなかった。
こうして、佐渡の娘は、毎晩、たらい舟で荒海をのりきって、雁子浜にやってくるようになったと。
若者は風の強い日は、娘が目当てにしている明神さまのあかりが消えないように、
守りつづけていたそうな。
ところで、若者には母親の決めたいいなずけの娘がおった。
ある日の夕方、そのいいなずけが、両親と一緒に若者の家に訪ねてきた。
そして、その晩は泊っていくことになったと。
若者は、気が気でない。
佐渡の娘と逢う約束の時刻になると、そっと家をぬけだして、海辺へ走ろうとした。
すると、母親が追ってきて、「おまえ、今夜も浜へ行くのかえ。」と、とがめた。
若者は、返事に困った。佐渡の娘のことは、誰にも内緒にしておった。
ところが、「おっかあは、ちゃんと知ってるよ。おまえに、仲のいい娘のいることをさ。
若いもん同士のことだから、今まで黙って見ておったが、今夜だけは、行かんでく。」と、ひきとめた。
「おまえと夫婦になる日を待ちこがれている、いいなずけのことを、不憫とは思わないのかね。
さあ、家に入っておくれ。この通りだよ。」母は、そう言って、手を合わせる。
さすがに若者も、母の頼みをけって、浜辺へ行くことはできなかった。
(今夜ひと晩くらい行かなくても、明日になれば、また逢えるのだ。
佐渡の娘も、おらがいなければ、帰ってゆくだろ。)と、若者は、しかたなく家に戻ったと。
夜がふけて、風が出てきた。その風が、だんだん強くなってくる。
若者は明神さまのあかりが気がかりになった。
(けども、今までだって、あかりがみんな消えてしまったためしはないし。)
と、若者は、むりやり自分の心に言い聞かせておった。
やがて、夜があけた。若者は、もうじっとしていられず、夢中で浜辺へ走った。
朝の海は、ゆうべの風もおさまって、波もない。日の光に輝やいている。
海辺には、早起きの村人が五、六人、波うちぎわに集まっていた。
「かわいそうになあ。こんな若い、器量よしの娘がのう。」
「まるで、人魚みたいらて。」
「ゆうべは、明神さまのあかりが、すっかり消えてしまったからのう。」
「なしてまた、夜の海になど、出るもんかのう。」
若者が、村人たちのそばへ行くてみると、波うちぎわに横たわっているのは、あの佐渡の娘の、
変わり果てた姿であった。
つやつやと豊かであった黒髪も、今は乱れて、白い、ろうのような顔にふりかかっていた。
若者は、魂がぬけたようになって家へ戻ったが、その夜 遅く 海へ身を投げてしまったと。
村人たちは、ふたりを明神さまの近くに手厚くほうむり、塚をたてた。
誰が名をつけたのか、その塚は、いつとはなしに<人魚塚>と呼ばれるようになった。
遠く佐渡ヶ島の見える雁子浜(がんこはま)の丘に、人魚塚は、今もひっそりと立っている。